十年前の襲撃
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
ニツコゥの町の一角、にぎやかな大通りから一本外れた細い路地にその女性の家はあった。木造平屋の素朴な造りで窓辺には鉢植えの花が並び、通る人を明るく迎えるように彩っている。
中に入ると畳敷きの居間にちゃぶ台が置かれ、壁際の棚には古い茶器や干し草の細工物が整然と並んでいた。奥からは煮物の香りが漂い、どこか懐かしい温もりを感じさせる。
「ちょっと待っててね。今、お茶を用意してくるから」
「「お構いなく」」
声をそろえて言う三人を見ておかしそうに笑いながら女性は台所のほうへ向かった。
「アルカのご近所さんだったってことは、アルカの家もこの近くなの?」
三人になった途端、ナトリが興味しんしんの様子でアルカに尋ねる。
「まぁな。実はさっき通ってきた途中にあったんだけどよ」
アルカは気乗りしないのか淡々と答えた。
「えぇ~? どうしてアタシたちに教えてくれなかったの~?」
「新しい家が建ってた。ちょうど庭先に知らない人もいた。……要するに俺んちは燃えたか崩れたかして、もう他人の土地になってるってことさ。当然だよな、持ち主がいなくなっちまった土地なんだから」
セオンとナトリはしばらく言葉を失った。
「で、でもさ! ここ、大通りの近くですごくいい立地だよね? しかも庭つき! もしかしてアルカの家、割といいご家庭だったんじゃないの~?」
重い雰囲気を明るくごまかすように、ナトリが肘でアルカの腕をグリグリする。
「どうだかな。子どもの頃の話だし、俺にはよくわかんねーや」
抑揚のないアルカの反応に困りながらナトリは萎れてしまった。
「ごめん……あんまり思い出したくない話だよね……」
沈黙が続く場となるが、しばらくしてそこへ女性が戻ってくる。
「お待たせしちゃってごめんね~。ハイ、お茶」
明るい声でお盆の上に乗せてきた湯呑みを三人の前に置いていく。
「みんなそんなに緊張しなくてもいいのよ~? ただの近所のオバサンちなんだから、もっとくつろいでちょうだいな」
そんなふうに屈託なく笑いながら女性もまたセオンたちの前に座る。その明るさに救われるようにセオンたちは顔を見合わせて軽く笑った。
「あ! そういえば私、まだ名前を言ってなかったわね! チャメコよ。アルカくんのお母さんとは仲良しだったの。みんなもよろしくね!」
「「よろしくお願いします」」
三人はそろって小さく頭を下げる。そのそろった様子がおかしかったらしく、チャメコはまた笑う。
「あっははは。あなたたち、本当に息がピッタリねぇ……さっきから動作がおんなじよ?」
そして照れたようにはにかむところも同じ三人を見て、チャメコは目を細めた。
場の空気は自然と和らいでいた。
「アルカくん、本当に大きく、たくましくなったわね……私はもう、てっきりあのときに……でも、帰ってきてくれて本当に嬉しいわ……」
「すいませんチャメコさん。俺、チャメコさんのことよく覚えてなくて」
「いいのよ。あの頃はまだ小さかったものね」
「それで……その頃の話なんだけど、俺、断片的な記憶しかないんだ。なんとなくグンマー軍が攻めてきたって母ちゃんに連れられて集団避難してたことは覚えてるんだ……だけど、避難所にも敵軍が攻めてきて、気づいたら母ちゃんに手を引かれながら走って逃げてて……その途中で母ちゃんは……」
「そう……辛いことなのに、よく覚えているのね」
チャメコは目を瞑った。
「アルカくんの言うとおり、十年前、突然大軍勢で攻めてきたグンマー軍によって、ここニツコゥは地獄のような状況になったわ……集団避難所も襲われたみたいだから、アルカくんはきっとそこから逃げる途中で捕まったのね」
「その何日か前に、母ちゃんが父ちゃんのことで泣いていたのを覚えてる。子どもながらに父ちゃんは戦死したんだなって察したよ……そこから考えるに、きっとどっかの防衛線みたいのが破られちまったんだろ?」
「そうね。私も詳しくは知らないけど、敵軍のなかにとんでもなく強い人と、巨大な竜のような兵器が確認されたそうよ」
それを聞いた三人は身体の震えを禁じ得なかった。セオンとナトリは不安げな表情で、アルカは怒りに震える顔で、それぞれ無言で少し呼吸を荒げていた。
「登別ブルー……そしてノボリュオンだな、そりゃあ」
アルカが強く握った拳を震わせてこぼした。
「で、でもさ……僕たちがイガッセさんに聞いた話だと、そのときはまだトツィギ側だったサウナが当時の登別ブルーを倒したんじゃなかったっけ?」
「でも、よく考えてみたらサウナはそんな状況でどうやって登別ブルーとノボリュオンを倒したんだろう? もしその方法がわかったら、アタシたちが巨大ロボに対抗するための手段にならないかな?」
「ナトリ! そりゃいい考えだぜ! またいつ現れるかもしれねぇイオウに対抗するためにも、俺たちはその方法を知っておかなきゃだぜ!」
「あなたたち……それはやめておきなさい」
色めき立って喜ぶ三人を咎めるようにチャメコが静かに声を発した。
「子どもが敵と戦おうだなんて、ろくなことを言うものじゃないのよ……? それにあなたたちはそのサウナって人がどんなことをしたのか知らないからそんなことを言えるの」
明るく朗らかであろうチャメコが放つシリアスな雰囲気に三人は息をひそめた。
「チャメコさん……何か知ってるのか?」
チャメコは力なく首を振る。
「あなたたちには、とても辛いことよ」
三人は顔を見合わせ、固い決意をするように強く頷いた。
「辛くても構いません。僕たちは知らなければいけないんです。チャメコさん、教えてはいただけませんか?」
強く食い入るセオンを気圧されるようにチャメコは少し困惑した表情を見せるが、その後、少し呆れたように軽く息を抜いてから軽く微笑んだ。
「強いのね……わかったわ」
そしてチャメコは語り出す。
「これには私の推測も入っているのだけれど、まず、グンマーの目的はサウナの行っていた研究の妨害だったはず……そう、ちょうど私とあなたたちが出会ったあの施設もその研究施設の一つよ」
三人はわかっているとばかりに頷く。
「グンマーの人は敵だし、私たちは戦争をしていたのだけれど、私が見た限りグンマー兵の多くは一般人を殺戮しようだなんて考えていなかったわ……」
「嘘だ……それじゃあ母ちゃんは……!」
震えるアルカを抑えるようにナトリがその手を握り、セオンが続きを促すようにチャメコを見た。
「もちろん人間だもの、グンマーにも色々な考えを持つ人がいるわ……なかにはあなたたちのように奴隷として捕まってしまった人もいるでしょう……でもね。私が思うに、本当に怖いのは味方だと思っていた人のなかにいたのよ」
「それが、サウナだってのか……!」
アルカの震える声にチャメコは頷く。
「グンマー軍のなかにも色々な考えを持つ人間がいることを見抜いたサウナは、敵軍を混乱させるため、なんと一般人を焚きつけて戦場に解き放ったの……!」
「「はぁ!?」」
三人は唖然とするばかりだった。
「ごめんなさい、恐ろしいことを言うわね? アルカくんがいた避難所を襲ったのは、本当にグンマー軍だったのかしら……?」
三人は蒼然と言葉を失っていた。
「……そうしてサウナの計略の果てにグンマー軍は大混乱。その隙を突くように、サウナは決め手となる一撃を放った」
「「それは……?」」
「原律石。……魔物を操る石で周囲から多数の魔物を引き寄せ、登別ブルーに当てたのよ……。もちろん原律石がどういう原理で魔物を操れるのかなんて今でも完全にはわかっていない……だからそんなことをすれば、散り散りに逃げた一般人も含めてどんなことになるかわかりきっていたのに……」
「やっぱり原律石は魔物を……」
「じ、地獄じゃねーかよ……」
「酷い……そんなの、人のやることじゃない……」
セオン、アルカ、ナトリは目を瞑って顔を伏せていた。
「嘘か本当か、私も聞いた話だけれど、当時の登別ブルーは侵略をやめ、むしろ私たちトツィギの一般人を魔物から守るように必死で戦ってくれたそうよ。それはまるでヒーローのように……。そして戦いの果てに疲れきり、動けなくなった登別ブルーを、サウナは……」
場にしばらくの沈黙が訪れた。
「これが十年前の出来事よ。あなたたちはこの話を聞いて原律石を武器として使おうと思った?」
「いや、それは……俺には無理だ……」
アルカが力なく言った。
「原律石はね、正しく使えば魔物の脅威から町を守ってくれる便利な石なのよ? ……ほら、ここからも見えるけれど、町の中心に高い塔が見えるでしょう? ニツコゥの町はね、あの塔にある原律石によって魔物を遠ざけ、人々が安心して暮らせるようになっているの」
チャメコの家の窓からは町の中心にそびえる原律石の塔がよく見えた。白い石造りの円柱はほかの建物より頭ひとつ抜けて高く、その頂には淡く光を放つ原律石が安置されている。
昼間でもかすかに揺らめく光は空気を澄ませ、まるで町全体を見守っているかのようだった。
「私たちは十年前の襲撃で多くのものを失った……かく言う私もね、夫と子どもを失ったわ。本当のことを言うとグンマーが憎くて憎くてたまらない……そしてトツィギで暮らす人のなかにも同じように考える人が本当に多いのも理解しているつもりよ。だから戦争は止まらないの……でもね、私はそれで敵を滅ぼしたいかと言われればそれも何か違うと思っているの。それじゃあいつまで経っても戦争なんて終わりはしないわ」
チャメコの見せる暗い表情のなかには深い諦めが宿っているようだった。
「私たちの本当の気持ちはね、きっと争いなんか望んでいないの。ただ穏やかに、平和に暮らしたいだけなのよ……あの原律石の優しい光に守られて、ただ穏やかに生きていければね……」
セオンたちは黙って頷いた。
「私にもね。ときどき昔を思い出して、どうしょうもなく暗い気持ちで安易に敵が滅んでくれればいいと願ってしまうことはある……でもね、そんなときはあの塔が放つ優しい光を見ることにしているの」
チャメコは目を細めて窓の外の塔を見た。
「だからあなたたちも、あの光を戦争に使うだなんて、そんなことは言わないでちょうだいな」
三人は頷くことしかできなかった。
「なんてね。ちょっとオバサン、カッコいいこと言っちゃったかしら?」
そしてチャメコは重くなった場の空気を払うように、表情を明るくひっくり返して笑って見せた。
「そういえばあなたたち、ずいぶんと遠くから旅をしてきたみたいだけれど、この辺りで宿は取っているのかしら? もしよかったら、今日はウチに泊まっていきなさいな」
「実は僕たち、今日ここに着いたばかりで、まだ宿も何も取ってはいません……でも、ご迷惑になりませんか?」
「いいのよ。言ったでしょう? 私も夫や子どもを失って今は一人だから。部屋も空いているし、たまには話し相手がほしいのよ」
セオンとナトリが少し気まずそうに顔を見合わせるなか、澄ました顔でアルカが切り出す。
「セオン、ナトリ。そういうことなら今日はお言葉に甘えようぜ? なんて言うかさ……俺、もうちょっとこの町のことをチャメコさんに聞いておきたいっていうか……」
それを聞いてセオンとナトリは明るく表情を緩ませた。
「そうだね! あんまり覚えてないとは言え、せっかく故郷に帰ってきたのにただ通過しちゃうだけなの、アタシもなんかもったいないなって思ってた」
「僕も。まだまだたくさん知りたいこともあるし、もしよかったら色々と教えてください!」
三人の反応を受けてチャメコはにっこりと笑った。
「みんな言ったわね~? 話し好きのオバサンに捕まったら、覚悟してもらうしかないんだからね~?」
チャメコの家はそんなふうに明るい雰囲気に戻りながら、町の歴史から近所の噂話まで、夜遅くまで大いに賑やかになった。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
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