手掛かりを探して
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
研究施設の内部は白を基調とした無機質な空間で光を反射する床と壁が冷たく広がっていた。長い放置期間を物語るように、流入した雨風によるものか一部の床には水たまりすら見受けられ、全体的に建物の傷みはかなり進行していた。
「これはかなり前に放棄されてるね……たぶん十年前、グンマー侵略のときからそのまんまなんじゃないかなぁ」
「けっこう施設内部まで荒らされてんな……ってことは、やっぱグンマーはこの施設で行われていた研究を狙って攻めてきやがったのか……?」
「どうして……? グンマーは科学とは正反対の生き方をしているんじゃないの……? 研究を狙って攻めてくるってことは、少なくともその研究の内容を把握してたってことだよね……?」
セオン、アルカ、ナトリは会話を続けながらもそれぞれ慎重に歩いていた。
三人が廊下を歩けば、時折割れたガラスの破片を靴で踏む音が響く。
「いや、まだグンマーが研究の内容まで把握してたって考えは早計だよナトリ。よくわからないけど危機感を抱いていたってだけの可能性もあるだろうし……」
「だな。セオンが俺たちと一緒に奴隷やってた時点で普通の子どもと同じ認識をされてたってことだと思うぜ?」
「セオン、この施設にはどれくらいの人がいたのか覚えてる……?」
「わからないな……僕の記憶にあるのは何人か決まった白衣の大人たちだけだからね……」
長い廊下の両脇には分厚いガラスの観察室が並び、中には簡素なベッドや拘束具付きの椅子が残されているところもある。薬品棚や金属製の机には試験管や記録用の端末が散乱しており、中央の広間には大型の水槽状カプセルがいくつも並び、液体のこびりついた跡が不気味に光っていた。
「おいおい……なんだよこりゃあ。いったいなんの研究が行われてたって言うんだよ……! こんなヤベェ実験道具みてぇのがたくさん……」
「な、なんかアタシ怖いよ……」
アルカは憤り、ナトリは震えてセオンの腕に抱きついた。
「二人とも落ち着いてよ。僕としては普通に生活をしていただけで、特に酷い人体実験をされたとかって記憶はないんだし……」
「じゃあセオン以外の子どもはどうしてたんだよ……?」
「僕以外の……子ども?」
セオンは少しの間、動きを止めた。
「僕以外の子どもなんて……いたかな?」
その瞬間、周囲には完全なる沈黙が訪れた。
三人の目の前に広がっていたのは、廊下を曲がった先のさらに細い通路であり、両端にいくつも等間隔で並べられた扉が続く通路だったのだ。
その扉と扉の間隔は狭く、ちょうど子ども一人を寝かせておくだけの個室のようにも見え、扉の脇に添えられたプレートには何かの番号が記されている。
そしてそれが「SE-001」、「SE-002」と、奥に向かうにつれてナンバリングされている。その意味を推し量ったからこそ、三人は絶句していたのだった。
「や、やめよう……? セオン、もうここから先は進んじゃダメ……」
ナトリが泣きそうな顔でセオンにしがみつく力を強めていた。
壊れた壁から風が流れてくるのか、動いていない空調が低い唸りを響かせ、それだけが施設内に不気味な音を立てている。
「わかった……もう十分だよ……僕ももう、ここでこれ以上を知りたいとは思わない」
セオンは真顔で静かに言った。
「二人とも、僕に付き合ってくれてありがとう……二人が隣にいてくれて、よかったよ」
そう言って微笑みかけるセオンに、アルカとナトリは何も声を掛けられなかった。
三人はその後、言葉もなく建物を出た。
「覚えている場所もいくつかあった……間違いない、僕はこの施設にいたんだ……」
セオンが小さな声で呟いた。
「セオンがいたのはわかったが、研究資料がまったく残ってねーとはな……もぬけの殻かよ」
「廃虚になってるくらいだからね……ここにあった研究資料は全部アシオ基地に移設されたんだと思うな」
アルカとナトリが次いで言う。
「資料が何も残ってねーんじゃ、いつまでもここにいたって仕方ねーな……気分でも変えて、何か美味そうなもんでも探すか?」
「アルカはテキトー過ぎだけど、たしかにいつまでもジメジメしてたって仕方ないよね! セオン、元気出していこうよ!」
アルカもナトリも、セオンを元気づけようと明るく振る舞っているようだった。
「ねぇみんな、もう少しアタシたちに関係ありそうなところを探してみる?」
「僕たちはトツィギ軍と協力関係になったんだし、イガッセさんとはウミノツヤで合流する約束もあったよね……先に進むのもありだと思うよ」
「せっかく故郷まで帰ってきたのに、こんなにあっさり通り過ぎちまうのも、ちょっと寂しいような気もしねーか?」
「どっちがいいんだろうね~? セオンはどう思う?」
そんなふうに話しながら三人が白い壁の崩れたところから外に出たところだった。
「あら? あなたたち、そんなところから出てきてどうしたの?」
三人は近くを通りかかった見知らぬ女性に話し掛けられた。
ふくよかな体型を隠すように前掛けのエプロンを身に着けており、丸く膨れた頬と明るく元気な声が愛嬌の良さを表しているような中年女性だった。
「そんなところに入ったって、中にはなんにも残ってないでしょう? もしかしてイタズラの子たちかしら?」
そう言って女性は微笑む。その優しそうな笑みにはセオンたちを咎める意図はなさそうだった。
「別に俺たちはイタズラでも怪しいモンでもねーぜ? この建物が町外れに放置されてんのが気になったんで立ち寄ってみただけなんだ」
「実は僕たち、ついこの間までグンマーにいたんです。訳あって解放され、ようやく故郷であるニツコゥに戻ってきたところで色々と町を見て回っていました」
「アタシたち、連れ去られたのが小さい頃のことだから町の風景とかあんまりよく覚えてなくて……」
三人の言葉を聞いて女性は同情するように少し目を閉じた。
「そう……とても辛い思いをしたのね……。おかえりなさい。まずはあなたたちが無事に帰ってこられたことを嬉しく思うわ」
三人は少しこそばゆい顔をした。
「それよかオバサン。ちょっと気になったんだが、この建物の中になんにも残ってねーって、なんでそんなこと知ってんだ?」
アルカが呑気に尋ねる。
「ちょっとアルカ! 初対面の女性に対していきなりそんな呼び方、失礼じゃない!?」
「わ、わりぃナトリ……」
「謝るのはアタシじゃないでしょ!」
ナトリはチラリと名も知らぬ女性を見る。すると女性は意外にも目を丸くして驚いた顔をしたいた。
「アルカくん……? あなた、もしかしてアルカくんなの……? タマユさんの息子さんの……」
「たしかに母ちゃんの名前はタマユだけど……オバサン、俺のこと知ってんのか?」
再びオバサン呼びするアルカの脇腹をナトリが強めに突いていたが、女性はそれどころではないとばかりに驚きを深めて息を飲んでいた。
「やっぱり……! よく見れば昔の面影が残っているわ……ほかのお二人は……?」
「僕はセオンです」
「アタシはナトリ!」
すると女性は少し申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさいね……やっぱり私が知っているのはアルカくんのことだけみたい……昔、近所に住んでいたから」
セオンたちは一度顔を見合わせたあと、女性に向き合った。
「それでも……もしよかったら、十年前、ここで何があったのか、教えてくれませんか? 僕たち、まだ子どもだったので昔のこととかあんまり覚えてなくて……」
女性は一瞬気の毒そうな顔を見せたものの、すぐに笑顔に戻った。
「そうね……だったらここで立ち話もなんだし、もしよかったらウチにくる?」
そうしてセオンたちは女性に誘われるがまま、ついていくことになった。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
いくつか下のほうに表紙とリンク貼っておきます!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!










