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温泉戦隊バスバスター ☆ センターは草津グリーン  作者: nandemoE


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故郷の町ニツコゥ


 アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!

 『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!


 悪役令嬢が現代日本に逆転移!?

 戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。

 しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。


 男性にも女性にも読んでほしい作品です。

 ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!



 山道を抜け、長い杉並木を通り抜けると、視界が一気に開け整った街道沿いに活気ある町並みが現れる。


 石畳の通りには市場が広がり、香ばしい焼き物や甘い果実の香りが漂う。木造の二階建て家屋が立ち並び、煙突からは昼餉を告げる白い煙がのぼる。遠くには修道院の尖塔が見え、人々の往来で町は活気に満ちていた。


 行き交う人々の衣も鮮やかで、商人たちの呼び声が絶え間なく響き、荷馬車や駄獣が忙しく行き交っている。遠くには立派な瓦屋根の建物や高い見張り塔がそびえ、ニツコゥがこの地方でも有数の繁栄を誇ることを感じさせた。


「うっわ~! セオン! アルカ! 見てみて! アタシたち、ようやく故郷に戻ってこれたのね!」


 ナトリが弾むように二人の前に駆けて出て、両手を広げてクルリと回った。


「十年ぶりなんだよね……なんだか僕も感慨深いや」


「なんだか着く前はもっと飛び上がるように嬉しいもんだと思ってたけどよぉ……なんだろうな、なんて言うか、ジーンと来ちまって、上手く言葉が出ねぇや……」


 セオンもアルカも立ち止まって静かに言葉をもらしていた。


「セオンはいいけど、アルカまで静かになっちゃうなんて、らしくないんじゃない?」


 ナトリがアルカの顔をイタズラな笑みで覗き込んだ。


「べ、別に俺だっていいだろ!? 少しくらい感傷に浸らせろっての!」


「あっは! ま、それもそっか~! だって、それくらいアタシたちにとって遠い故郷だったってことだもんね!」


「うん……僕はずっと奴隷のままで、もう一生帰ってこれないかもって考えたこともあったよ」


「それは俺もだぜセオン。ハル姉のことだからそんなことはねーとは思ってたけど、どうしても考えちまうよな」


 喜びも束の間、少しずつ落ち着いていくセオンとアルカの顔を見ながら、ナトリも釣られるように哀愁を帯びた表情に変わっていった。


「どうしてかな? アタシ、なんだか今度はグリンシーが恋しくなってきちゃったな……」


「俺もだ」


「僕も……ハル姉、元気かなぁ……」


 嬉しい帰郷であるはずなのに、しんみりと静かになってしまう三人の胸中にはどこか別の故郷の風景が浮かんでいるようだった。


「ね、ねぇ! あんまりしんみりしちゃわないでさ。せっかく帰って来たんだし、ここでアタシたちの覚えてること、探してみない?」


 あえて明るい声で言うナトリ。


「そうだね! きっと色々思い出せば、もっと懐かしい感じになるはずだよ!」


「おう! じゃあまずは町中でも歩いてみようぜ!」


「「さんせー!」」


 セオンたちは元気に取り繕って町中を歩き始めた。


 しかししばらく歩き回っても三人の表情はどこか浮かない。帰郷の喜びよりもむしろ期待していたものがなくなってしまったかのように、無表情に近い顔で辺りを見渡しながらぼんやりと歩くだけになってしまっていた。


「なんとなく見覚えあるような建物もいくつかあるが……なんて言うか、いざ来てみればあんまり帰ってきたって感じがしねぇや……」


 アルカがだらしなく口を開いて言う。


「セオンやナトリは何か思い出したこととか、あるか?」


「アタシは全然だめ。自分の家がどの辺りにあったのかさえ思い出せないよ……」


「僕もナトリと同じ。きっと十年前、グンマーが侵略してきたときに燃えちゃった家も多いんだよ。わりと新しい建物も見えるから、風景や印象も様変わりしてるんじゃないかなぁ……」


「そっか……俺ん家ならこの辺りにあったはずなんだけど……両親とも、そのときに死んじまったからな……今も残ってるかどうか……」


「行ってみる?」


 セオンの問いにアルカは力なく首を振る。


「いいや、今さら俺だけ戻っても仕方ないしな……それよか、セオンやナトリの記憶に残ってそうなものを探そうぜ」


「うん……そうしよっか」


 弱々しいアルカの微笑みに少し困ったような微笑みを返して、セオンはそれ以上のことを言わなかった。




 やがて町の外れまで歩いた三人は、ひときわ目立つ高く白い外壁に囲まれている建物の前にたどり着いた。


 何かの研究施設だったと思われるが現在は廃虚のようで、外壁の一角が大きく崩れて石材が荒れ放題の草むらに散乱しており、かつてのグンマー侵略の爪痕を痛々しく残している。


 建物自体の姿も物々しく、窓のほとんどは鉄格子で固められ、静けさのなかにどこか人を寄せつけない重苦しさが漂っていた。


 そこでふと、セオンの歩みが止まった。


 数歩ぶん先に歩んだアルカとナトリが振り返ると、セオンはその崩れた白い壁の先にある建物を茫然とした表情で見つめていた。


「セオン? どうかした?」


 ナトリが心配した様子で尋ねる。


「あ、ううん? 別に大したことじゃないんだ」


 セオンは二人を心配させまいと微笑む。


「遠慮はなしだぜセオン。何か記憶に引っ掛かったなら、俺たちも付き合うからよ」


「アタシたち仲間でしょ?」


「みんな……ありがとう」


 セオンは少し照れたように微笑みながら、やがて切り出しにくそうに話し出す。


「実は僕、なんかこの白い壁、見覚えがあるような気がするんだ……」


 それを聞いてナトリだけは一瞬だけハッと不安そうな顔を見せた。明らかに異様な雰囲気を放つ建物とセオンの関係性によからぬものを感じ取った様子だった。


「それなら、セオンはこの近くに住んでたってことだよな?」


 無頓着なアルカの横からナトリが脇腹を肘でつついていた。


「いや、むしろ見覚えがあるのは壁の向こうにある崩れた建物のほうで……」


「見覚えがあるって、お前……」


 アルカはそこで言葉を止めた。


 目の前の建物は崩れた白い外壁の先に見えているものだ。そして唯一存在する正面の門はセオンたちのいる位置からは正反対にある。高くそびえる外壁が崩れていなければその姿を見ることもできないのは考えれば解り、それが意味することを察したのだ。


「前にも言ったけど、僕は町の景色を覚えていない……でもこの白い壁と建物は覚えている気がする……もしかしたら僕は幼い頃、この壁の向こう側にいたのかもしれない……最初から町の景色なんて知らなかったのかもしれない……今、この白い壁と建物を見て、そんなことを考えてしまったんだ……」


 三人の脳裏に浮かんでいたのはアシオ基地で見かけた研究資料の内容である。


 ゴールド計画の被検体について書かれた資料のなかに、偶然か、セオンの特徴に当てはまる記載があったことをそれぞれが思い出していたのだ。


「セオンの気のせいだって可能性もあるよね……?」


 ナトリがおそるおそる言う。


「でもよ……白くて、こんなにも高く作られた壁なんてそう滅多に見かけねーだろ……? まるで何かを隠してるみたいじゃねーか」


 アルカがセオンを気遣うように見ながらも遠慮がちに発言した。


 そしてそれに重く頷くセオン。


「僕もそう思う……そして崩れた壁、きっとこれは、グンマー軍がここに攻め入ったってことなんだと思う」


 三人の間には少しの間、沈黙が訪れた。


「な、なぁセオン……俺、ちょっとだけ考えちまったことがあるんだが、言ってみてもいいか?」


 アルカが唾を飲み込み、喉を鳴らして言う。


 ナトリは無言のままハラハラした様子で二人のやりとりを見守り、セオンは覚悟を決めた表情で頷いた。


「アシオ基地にあったゴールド計画ってのが実はここで行われてて、十年前、それを止めようとグンマー軍が攻めてきた……そしてこの壁を破壊して、施設の中から奪い去った研究成果、被検体ってのが……セオン、なんてことはねーよな?」


 茶化して笑おうとしているのを心の奥に引っ掛かる確信が邪魔をしているような乾いた笑みになるアルカ。


「僕も……アルカと同じことを考えてた」


 余裕のないセオンの表情。


「やっぱりアシオ基地で見た資料に書かれていたこと……何かの声を聞いた、とか、どこで知ったのかわからない知識を持っているっていうのは、きっと僕のことなんだと思う……」


「石の声が聞こえる、そして石の声に教えてもらった不思議な知識を持っている……ってことかよ」


「僕も最近までよく考えたことがなかったけど、やっぱり石の声ってなんなんだろう……? 研究の成果で聞こえるようになったってことなのかな……? もしかして、何か良くない力なのかな……?」


「たしかゴールド計画だったよな……アシオ基地じゃあ詳しく調べてる時間なんかなかったけどよぉ、やっぱこうなると、どんな内容だったのか気になってくるよな……」


 セオンとアルカの声がどんどん暗くなっていくのを防ぐように、ナトリが二人の間に割って入った。


「あ、あのさ……あえて言わせてもらうけど……二人とも、それがどうかしたの?」


 間の抜けたナトリの声に二人は不思議そうな顔を向けた。


「なぁ~んか二人して難しそうな顔してるけどさ、アタシに言わせてもらえばセオンはセオン! 昔がどうだったは知らないけど、今のセオンは変わらないんでしょ?」


 ナトリはあえて元気な声でとわかるように明るく笑い飛ばす。


「だったらアタシ、昔あったことなんかどうでもいいけどな! アタシ、そんなことで今のセオンを悪く思ったり絶対しないからね! 今こうして元気にいてくれてるだけで嬉しいよ!」


「「ナトリ……」」


 セオンとアルカは胸を打たれたように言葉に詰まった。


「わりぃセオン。別に俺もセオンが研究施設にいたからどうだとか言うつもりはなかったんだ……ただ、なんか悪い後遺症みたいのがねーかとか、セオンのことが心配なだけでよ……」


 後頭部をかきながら申し訳なさげに言うアルカを見て、セオンは少し頬を緩めた。


「アルカ……ナトリも、二人ともありがとう。僕なら平気だよ。身体だって、何か具合の悪いところがあるわけじゃないし……」


「だよな! セオンは元気! そうに決まってらぁ!」


 そう言ってアルカはセオンの背中を強く叩いた。


 だがセオンは完全には浮かない顔と少し遠い目で施設を見た。


「でも、僕の記憶にある唯一の施設を見つけてしまった以上、目をそらして立ち去ることもできないかな……」


 アルカとナトリは心配そうにセオンを見る。


「どうする? 入ってみるのか? どう見たって廃虚だろ?」


「みんなは怖くないの……? アタシ、怖い研究とかあったら嫌だよ……」


 ナトリは引き止めるようにセオンの服を摘むが、セオンはその手をゆっくりと握って離す。


「でも僕は、もっと僕自身のことを知らなくちゃいけないんだと思う。だって、石の声が聞こえたから僕は草津グリーンになったんだから」


「そういや俺たち、石の声がなかったらここまで辿り着けなかった可能性すらあるんだよな……」


「うん……それにもしかしたら僕が草津グリーンの戦闘スーツに認められたのも、僕の中にある、研究成果か何かの影響なのかもしれないからね」


 セオンの決意がこもった目を見てナトリも自分に言い聞かせるように頷いた。


「わかった……怖いけど、セオン自身がそれに向き合うって言うのなら、アタシも付き合うよ」


「ありがとうナトリ……それじゃあ二人とも、行こうか」


 セオンは二人に軽く笑いかけてから、気を引き締めるように表情を固めたあと、勇んで崩れた白い壁の向こうへと踏み出していった。



 お読みいただきありがとうございます。


 『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!

 2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!


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 配信日:2026年1月6日
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