イハロ坂
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
アシオ基地を離れたセオンたちはしばらく道なりに進んだものの、監視官に貰った地図によって進路上に強力な魔物が巣食っていることを知り、迂回のために道なき斜面を登るよう強いられた。そしてその斜面を登ることしばらく、山々の懐に抱かれるようにして広がる大きな湖に出たのだった。
「すっごく広い湖だねぇ~! 僕、海なんじゃないかと思っちゃったよ!」
「ああ! こりゃあすげぇ! なんつーか、神秘的な感じがするよな!」
「本当にキレイ! 自然の美しさを感じるよね~!」
三人は感嘆しながら、しばらく湖の前に立ち止まった。
風はなく、穏やかな水面は鏡のように澄み渡り、空と雲、そして周囲の緑深い木々をそのまま映し込んでいた。
「地図によれば、ここはチューゼン湖……キレイでも多少は魔物も生息するようだから泳いで渡ろうとはするなって地図に書いてあるよ」
アシオ基地で監視官に貰った地図を広げてセオンが言った。
「そうなると、回り込むのは少しばかり大変そうだな」
「じゃあさ! せっかくだし西側に回ってみようよ! アタシこのリュウガミの滝っていうところ見てみたいな~!」
「残念だけどナトリ、それはやめておいたほうがいいかも……地図に書かれたメモによると、そっちのほうはかなり強力な魔物がウヨウヨしてるらしいからね」
「あっぶねーなー! 地図があってよかったぜ」
「それなら仕方ないな~。我慢して、東側に回ろっか」
ナトリもしぶしぶ納得して三人は湖を東に回る。そしてまた少し進むと崩壊した時代の影響を受けつつも細々と生き延びてきた人々の集落が見えてくる。
木組みの家屋や桟橋が水辺に並び、漁を営む姿や山菜を売る露天の旗が時折吹く風に揺れる。大規模な集落ではないが、旅人にとっての休息の場には適しているような集落だった。
数こそ少ないものの、湖を渡る小舟がゆっくりと行き交う姿も散見されて旅情を誘う。
「もしかしたら、この辺りはその昔、観光地とかだったのかな?」
セオンが集落を見ながらポツリと言った。
「そうかもね~。だってこの辺り、見るもの全部美しいって感じ!」
ナトリが周囲の景色にはしゃぐようにクルリと回って応える。
「今もこの景色を楽しみに来る人たちがいるから集落が残っているのかもな……ちょうどいい、どっかに立ち寄って旅の補給でもしていくか」
アルカの言葉にセオン、ナトリも頷いて、三人は集落で支度を済ませた。
山間の集落を抜けると道は右へ左へと折りたたむように曲がりうねり、セオンたちはやや辟易した表情を見せながらものんびりと坂を下っていた。
やがて谷沿いを流れる清流のせせらぎが耳に届くようになる。両脇には杉や檜が立ち並び、朝の陽光が木漏れ日となって斑模様を描いていた。ところどころに崩れかけた石垣や草に覆われた廃屋が点在し、かつての人の営みを静かに物語る。遠くにはマッスルマウンテンと呼ばれる山の影が青くかすむ。
「あっ! セオン、アルカ、見て見て! あれが地図に書いてあるビョーブ岩じゃない!?」
だいぶ坂を下ったところで見えてきた崖のような岩壁を見てナトリが言った。植物が伝いながらも厳しく切り立った荒々しい岩肌の大岩である。
「どうやらそうみたい……イハロ坂の入口付近にあるビョーブ岩だって。地図に目印になるようなモンまで書いてあるとか、監視官のおじさん、意外と親切な人だったんだねぇ」
地図を広げて見ながらセオンが応える。
「……なになに? ビョーブ岩の近くには雷神窟という風穴があって……うわ! 風神と雷獣が出るんだって!」
ナトリがセオンのすぐ隣に肩を並べて地図を覗き込むように言う。
「なはは! そこは本気にするなよナトリ。それは実際のモンスター情報じゃなくて、ただの伝承みたいなもんだ。実際にゃあ風神も雷獣もいやしねーよ」
「それならいいけど……」
少し安堵の表情を見せながらも、ナトリはセオンの服を少し摘みながら周囲を警戒するようにキョロキョロと見回しだした。
「でもさ。むしろ風神や雷獣どころか、ちょっとこの辺りになってから普通の魔物も少なくなってきたような気がしない? 山道を抜けたせいなのかなぁ……?」
セオンが地図を畳みながら言う。
「案外、本当に雷獣の住処だから魔物が近づかないだけだったりして……」
「なはは、そんなわけねーだろ? セオン、まぁだ心配性が抜け切らねーのかよ?」
「そうじゃないよ。むしろ僕、もうちょっと近くでビョーブ岩が見たいなぁって思ってるくらいだしさ……」
セオンが言うとアルカもナトリも呆れた顔でため息をする。
「そういやセオンが石のことになるとこうなるの、忘れてたぜ……」
「そうだよね~……セオンの前で見つけちゃった以上、立ち寄っていかなきゃだよね~……」
「楽しみだなぁ……もしかしてビョーブ岩からも声とか聞こえるのかなぁ……」
山道を下りながら辟易していた顔が途端に緩み出したセオンを見て、アルカとナトリは肩をすくめながらも黙ってセオンの好きなように歩かせた。
山道の急坂に突如そびえ立つビョーブ岩は、その名のとおり屏風を広げたように切り立った岩壁だった。陽を受けてまだらに光る灰色の岩肌には苔や低木がへばりつき、ところどころに小さな鳥が巣を作っている。
「うわぁ! 近くで見るとすっごい立派な岩だなぁ!」
石好きのセオンは思わず足を止め、手のひらでその冷たい表面を確かめるように撫で、割れ目や地層の筋を食い入るように眺めていた。
背後ではアルカとナトリが少し呆れたように見守りながらも、彼らの足を休める小休止の場となっていた。
「どうだセオン? なんか興味のあることでもあったのか?」
そう言うアルカはどこか空のほうへ無造作に視線を投げたまま、セオンのほうを見ていない。そしてセオンもアルカの声が聞こえていないとばかりに岩肌をなぞることに夢中だ。
「だめだめアルカ。セオンはあぁなっちゃったら止められないんだから。少しの間放っておこ? その間アタシたちは休憩だと思って休んでおけばいいんだし」
ナトリは近くにあった切り株の上に腰掛け、頬杖をついていた。
「ま、そのうち飽きて戻ってくるだろうし、ナトリの言うとおりここはしっかりと休んでおくか」
アルカも諦めた様子でナトリの隣に腰を降ろす。
「セオンの奴、相変わらず石のことになるとまわりが全然見えなくなっちまうよな」
「いいんじゃない? 男の子は少しくらい夢中になれるものを持ってたほうがカッコいいよ」
「へぇ。じゃあナトリはセオンのあーゆーとこが好きってわけか」
アルカはイタズラな視線をナトリに送った。
「べ、別にアタシは好きとも言ってないけど……ま、まぁ嫌いじゃないのは認めるけどね」
ナトリは少し頬を赤く染めてアルカから顔をそらす。
「それにセオンはまだハル姉のことが好きなんじゃないかなぁ……アタシのことなんかちっとも気にしてくれないもん……」
そんなナトリを見てアルカは小さくため息をついた。
「はぁ~……まったく。お前ら二人を見てるとなんとも言えない気分になるぜ。もしかして俺、お邪魔虫なのかよってな」
「そ、そそ、そんなことないよ! アタシ、アルカのことも頼りになる仲間だって思ってるからね!」
「そりゃどーも」
アルカは苦笑いで応えた。
「俺からすりゃあ、草津グリーンとしてどんどん強くなるセオンに、アシオ基地に潜入したときみたいに原創術を器用に使いこなすナトリを見てると、本当に置いて行かれちまうんじゃねーかって思いもあるんだけどな……」
アルカは自嘲気味に小声をもらす。
「ん? 何か言った? アルカ」
「んーにゃ? なんでもねーよ」
今度はアルカがナトリの視線から逃げるように顔を背けた。
「にしても……おーいセオン! いい加減にして先に進もうぜー? もたもたしてると魔物が寄って来ちまうからよー?」
アルカが大きな声でセオンに呼びかけると、今度はその声を聞き取れたのかセオンは耳を押しつけていた岩壁からゆっくりと離れた。
「あ、うん! ごめんね二人とも! つい夢中になっちゃって……」
セオンは申し訳なさそうに後頭部をかきながら二人のもとに戻ってきた。
「でも大丈夫だよ。この辺りで聞こえた石の声によれば、どうもこの辺りには魔物を遠ざける波長のようなものが出ているんだって」
「「波長?」」
アルカとナトリは首を傾げる。
「うん。僕にもよくわからないけど、そういうものらしいよ? このビョーブ岩にもそういう不思議な力があるっぽい」
「魔物を遠ざける……って、どっかで聞いたような気がするな」
「アルカ、それってイガッセさんが言ってた原律石の話じゃない?」
ナトリが言うとアルカはポンと手を打った。
「それだナトリ! ……ってことは、この大きなビョーブ岩も原律石なのか?」
アルカがセオンに問うが、セオンもはっきりと答えられないとばかりに首を横に振った。
「そこまではわからないんだ……。でも、最近ちょっと考えてたことがあるんだけど……」
「なになに?」
ナトリが少し興味が出たとばかりに問う。
「ほら、前に僕、石にも声が聞こえる石とそうじゃない石があるって言ったよね?」
「そーいや、そうだったな」
「え~? アルカ、それ本当に覚えてるの~?」
ナトリがアルカをイタズラな横目で見て笑った。
「お、覚えてらい!」
アルカは焦ったように取り繕う。
「それでセオン、それがどうかしたのかよ?」
「うん……僕が思うに、もしかしたら声が聞こえる石こそが原律石と呼ばれている石なんじゃないかと思うんだ」
「そりゃまたどうしてだ?」
「まだハッキリとそう言える根拠はないんだけどさ……前にグリンシーの遺跡でイガッセさんたちが言ってたでしょ? あの遺跡が全部原律石でできてるって」
「そういえば、アタシもそんなふうに聞いたの覚えてるよ!」
ナトリがそう言うとセオンは肯定するように深く頷く。
「そこなんだよ……あの遺跡の中にいるとき、僕、いつのも石の声とは少し違った聞こえ方がするって言ったよね」
「うん……たしか、遺跡自体が語りかけてくるようだとか言ってた」
「たまに見かける石は小さいから、石から直接聞こえるような気がするんだけど、あの遺跡ではまわり全部が原律石だったからそんなふうに聞こえていたのかもしれないなって思ってさ……」
そこへアルカが怪訝そうに眉をひそめながら言う。
「でもそれはセオンの感覚的な話なんだろ?」
「うん……だから自信を持って言い切れるわけじゃないんだけど……」
「なるほどな」
アルカは頷いているように見せたが、理解ともまた異なるようで、ついていけない話を変えるきっかけとばかりに切り株から腰を上げ、お尻に付いた土を両手で払った。
「ま、そういうことはいずれわかるだろ。ウミノツヤに着いてイガッセさんと再会できたときにでも詳しく聞いてみようぜ?」
「そうだね」
セオンもそれほど気にした様子もなく笑って答えた。
「それじゃあようやくセオンも気が済んだようだし、また先に進もうぜ。故郷のニツコゥはもう目と鼻の先なんだからよ」
「うん! 僕たち、ようやく故郷に帰れるんだね!」
セオンは笑顔で言う。
「十年ぶりか~? どんなふうになってるんだろうね~?」
ナトリが笑顔のなかに一抹の不安を残したように続く。
「ま、それも着いてのお楽しみってわけだな! 早く行こうぜ!」
アルカがそうまとめて、三人はまたニツコゥに向けての足を進めた。
お読みいただきありがとうございます。
日光いろは坂で調べてみると、本当に屏風岩なんてのがあるそうで、雷獣にまつわるお話もあるそうです!
さて、『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
いくつか下のほうに表紙とリンク貼っておきます!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!










