お約束破り
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
一同は廃坑道を目指して走り、もう少しで辿りつくところにまで来ていた。
「そーいえばよ……ユナミの奴はちゃんと逃げられたんだろーな……」
あとから追いついて並んだナトリとミストを待っていたかのようにアルカが言った。
「ユナミのことなら心配いらないよ。ミストの救出が成功したことはもう管理室にも伝わっているだろうしね。……ユナミ本人が大丈夫だって言ってたこともあるし、剣技を見ていればわかるけど、たぶん彼女、本当は僕たちよりもずっと強いから」
「さすがに俺だって気づいてたぜ。世のなか上には上がいるもんだよなぁ~……よかったぜ、ユナミみたいな奴が俺たちの敵じゃなくてよ……」
「二人とも、ここはまだアシオ基地内なんだから気を抜いちゃダメだよっ!」
「ボ、ボクも最後までしっかり走るです……!」
三人はミストの手を引くように廃坑道を目指して暗闇のなかを走っていた。
「よぉし! 廃坑道の入口が見えた! もうここまで逃げてくりゃあ……」
アルカの表情が華やいだときだった。
「とぉころがギッチョン! そぉーは問屋が卸さねーときたもんだっ!」
突如として夜の闇を割くように明るい声が一帯に響いたのだった。
そしてその声はセオンたち四人を一瞬にして緊張状態に縛り上げた。
「誰だっ!」
誰何するアルカは同時に周囲を見回すが、辺りに人影はない。来たときと同じく、廃坑道の入口と、切り立った岩壁が視界を塞ぐようにそびえているのみである。
「ふふふ……上さっ!」
「なにぃ!?」
その声にセオンたち一同の視線が岩壁の上へと向かう。そこには月明かりを背にして岩壁の上に堂々と立つ男の姿があった。
「シュシュッと参上! 巻き起こせ勇気のトルネード!」
毛皮を基調とした衣の上に鮮やかな黄色の布を無造作に巻き、陽気さを漂わせながらも目には明らかな戦意の光を宿す異様な風貌の男。
足元では砕けた岩が白く月光を反射し、背後の山々は闇に沈み、冷たい夜風が彼の髪と衣をはためかせていた。
「お、お前は……っ!?」
アルカが戦慄の表情を浮かべる。
そして男は自分に集まった視線を嬉しそうに胸を広げて受けながらも名乗りを上げる。
「天知る、地知る、人が知る! まさしく神だとみなが呼ぶ! この世を揺るがす孤高の男ォ……オレっちだぜ!」
その男、イオウは名乗りと同時に手足を大きく広げてポーズを決めたかと思いきや、
「とうっ!」
両足を丁寧にピッタリとそろえてから高らかに跳躍し、途中で華麗に一回転を決めながら、
「スチャッ!」
着地音のような擬音を自らの口から発声し、忍者のように手足を伸ばした恰好の良いポージングによって見事着地を果たしたのだった。
そしてその一瞬あとにはそんな派手な登場が一切なかったものであるかのように直立に戻り、勝手に一人で話し始める。
「う~ん。オレっち、天才すぎるのも限界ってもんがあるでしょ……トツィギのこんな奥のほうまで単身で潜入してきて、どうやってセオン君たちを探そうかと思ってたところなんだけどさァ……なぁんかさっき、ゲロゲリオンで感知していた基地からの電波が変化したんで何かあるぞと思って来てみたところなんだけ、ど!」
その語尾を押しつけるような口調にセオンたちは一歩引く。
「ヒャハハハ! いいねェ……! 何か変化が起きたところに必ず絡んでるってところがまたヒーローの素質があるってもんだよセオン君!」
「くっ……! こんなときに、こんなところでイオウと遭遇しちゃうだなんて……」
セオンが苦虫を噛み潰したような表情で言う。
「そう言うなよセオン君。こっちはキミを追いかけて来たんだからさァ……会いたかったんだよォ? それがこんな月明かりの下で出会えちゃったんだから! こういうとき、こういうときは文学的にどんなふうに言えばいいんだっけ? ……あ、そうそう!」
そこでイオウは妙な決め顔になって言う。
「月がキタネェですね」
そしてその決め顔は次第に狂気と愉悦に歪んでいく。
「ヒャハハ! 最っ高の気分だぜェ……! だぁい好きなキミたちと、ついでにこの立派な基地をもろともブッ潰せちゃうんだから、オレっち、今、ハイってやつさァ……!」
「き、基地もろともブッ潰すって……おいイオウ! お前いったい何をするつもりだっ!」
アルカがすごむもイオウはケラケラと笑うばかり。
「あれ? 前にも言ったよね? 次に会ったときは完膚なきまでにプチって潰してやるってさァ……! やっつけちゃって懲らしめちゃってセイセイセイするから、覚悟覚悟覚悟しろよ絶対ィ……」
「お、おい……まさか……」
アルカの表情が青褪めていく。
「言っておくけど、オレっち一人で戦ったって本気を出せばキミたち程度なら簡単に捻り潰せるんだよ? だけどさ、だけど、キミたちにもしかしたら勝てるかも、みたいな顔をされて戦うのもちょっと気分が悪いじゃないか」
「な、なんだと……?」
「よーするに最初から全戦力で戦ってやるってことさ。ほら、古来からの伝説にもあるだろ? バスバスターと戦った怪人どもは一度倒されると巨大化して復活するとかって話。……で、結局はバスバスターも巨大ロボで応戦することになったらしいんだけど、だったら『最初から巨大ロボで戦えよ問題』みたいのが当時からあったみたいじゃん?」
イオウはそこで舌を出して挑発的に笑みを見せた。
「ま、ヒーローにも見せ場が必要だったとか、戦隊だけにカラフルな大人の事情もあったんだろうけどさ、オレっち、あんまりそういうの興味ないんだよねェ……」
そこでイオウは力強く手を振り払いながら宣言する。
「だから! そのお約束をオレっちが! 今ここでブチ壊してやろうってわけさァッ! さぁ来いっ! 快楽雷鳴ゲロゲリヲン!」
するとイオウの呼び掛けに応えるように何か巨大な獣のような咆哮が一帯に響いた。
一瞬あとには音が絶え、次に月夜の静寂を破ったのは地鳴りのような低い振動だった。
アシオ基地内に存在する建物の外壁を震わせるような轟音はかの巨大ロボ、快楽雷鳴ゲロゲリヲンがゆっくりと足を踏みしめることによって生じる振動。それは岩壁の上からポロポロと小さな石粒をセオンたちの前までこぼれ落とすものだった。
やがて月をも食らい尽くすかのように影を落とす巨大な姿――黄色を基調とした異形の機体ゲロゲリヲンがまるで獲物を見つけた猛獣のように岩壁の上に現れ、セオンやアシオ基地の全貌を睨み据えていた。
「ハァイ! ロックオンかんりょ~う! ご愁傷さまァ!」
その両目はカエルのように膨らみ、舌を思わせるケーブルはチロチロと揺れている。空気が圧し潰されるほどの威圧感とともにゲロゲリヲンはゆっくりと重心を岩壁の上に固定した。
「ウ、ウソでしょ……? 僕にはまだ対抗できる巨大ロボなんてないのに……」
「お、おい……基地内のトツィギ兵も騒ぎ出したようだぜ……? こりゃあワンチャンどさくさに紛れていけるんじゃねーか……?」
「アルカったらバカ言わないでよ! こんな状況で廃坑道になんか逃げ込んだら廃坑道ごと潰されちゃうし、かと言って基地のほうに逃げたって、アタシたち侵入者なんだよ!?」
「に、逃げるです……ボクにはどうしようもないのです……」
右往左往する四人を眺めながらイオウは満足そうに笑みをこぼす。
「そうそう、それそれ! オレっちがわざわざ岩壁の上から降りてきたのはさァ……キミたちと戦いたいからじゃないんだよねェ~。その素敵なお顔を見に来た、だ・け・だ・よ!」
「俺たちと戦うのが怖いだけだろ! この最低最悪の臆病者め!」
「そうだけど、それがなにか? ヒャハハハ!」
アルカの罵声にも余裕の態度で笑い続けるイオウ。
「くっそ! こいつ、一発ぶん殴ってやる!」
「待ってアルカ! 挑発に乗っちゃダメだよ! どう考えたって今の僕たちじゃまともに戦えるわけがない!」
アルカが拳を握るもセオンがそれを制する。
「じゃあどうしろって言うんだよ! このまま黙ってやられろって言うのか!?」
「そうじゃない……そうじゃないけど……今、僕たちはイオウと関係のないミストを連れているんだよ……?」
「うっ……くそ……俺たちが巻き込んじまったってのか……」
アルカが悔しがりながらも言葉を飲み込んだのを見てセオンは一歩、イオウに向けて歩み出た。
「悔しいけどイオウ……今の僕たちじゃ巨大ロボには抵抗のしようもない。でも一つだけ頼みがあるんだ……この子、ミストだけは見逃してやってくれないかな……?」
「ミスト……? あぁ、そこのボロボロの服を着た、みすぼらしい姿のお嬢ちゃんかい? 見たところ君たちの仲間ってほどには見えないけど……」
「さっき基地内から連れてきた無関係の女の子なんだ……僕たちの戦いに巻き込みたくない」
「ふぅん……ま、いいよ? オレっち、そんなの興味ないからね」
その淡々とした言葉を聞いてセオンたちは安堵する。
「じゃあそこのミストちゃん、だっけ? オレっちたちの……戦い? になるのかどうかはわからないけど、巻き込まれたくなかったらちょっとこの場から離れてなよ」
イオウの言葉を聞き、もの言いたげに不安げな顔をセオンたちに向けるミスト。しかしセオンたちは彼女に当然とばかりに笑顔で返すのみだった。
「わ、わかったです……足手まといにはならないです!」
ミストはそれを受けて苦渋の決断でもするかのように口元を締めて一人で駆け出し、その場を離れた。
近くにあった倉庫の下まで駆けてからミストは振り返り、いかにもこれから戦闘とばかりに向き合っているセオンたちの行く末を見守る。
だがそんななか、盛大に吹き出して笑ったのはイオウだった。
「ぶはっ! キミたちって本当に能天気だよねぇ……常識ってものに囚われすぎっしょ」
「なんだって!?」
アルカが拳を握りながら応えるが、それを受けてさらにイオウはニヤニヤと見返す。
「だってさ、強敵との戦いを前に、戦えない者を避難させれば巻き込まれないとか考えちゃってるっしょ? ま、お約束の流れとしてはそのとおりなんだけどさ……それ、オレっちに通用するとかホントに思ってる? ミストちゃん、一人にさせちゃって大丈夫?」
それを聞いた瞬間に凍りつくような寒気が背筋を駆け抜け、戦慄するセオンたち三人。
「「ミスト!」」
刹那、セオンとアルカは慌ててミストのほうへ駆け寄ろうとするが、それを見てもイオウは少しも表情を崩さず、余裕の笑みを浮かべていた。
「ババンバ・バンバン!」
そして下呂イエローへと変身したイオウはあとからセオンたちを追い抜く猛スピードで駆け抜け、セオンたちよりも早くミストの元へと到達し、彼女の首根っこを押さえるように掴んでいた。
「わ、わぁぁ……! セ、セオンお兄ちゃん、アルカお兄ちゃん……」
顔を真っ青にしながらも微動だにできず、小刻みに身体を震わせているミスト。
駆けつけようとしていたセオンたちも急停止し、人質を取られたように動けなくなる。それがまたヘルメットだけは装着していないイオウの表情をたまらなく醜く歪めていた。
「ハーイ! 人質ゲットォ! オレっち、このたまらなく有利な状況にもかかわらず、さらに相手を騙して絶望を与えていくゥ~!」
「く……どこまで俺たちをバカにすりゃあ済むってんだ!」
「こんな卑怯な奴、どこにもいないよ!」
「おおっとォ、お褒めの言葉を賜りました~ん!」
アルカ、セオンは悔しげに呟くが、イオウはそれを聞いても嬉しそうだった。
「さぁて……ここからさらにキミたちの顔を最悪にするにはァ……おっ! さっすがオレっち天才! こんな場面でもさらにお約束に囚われない、いいことを思いついちったぞ?」
イオウは嬉々として声を上げ、反対にセオンたちは眉をひそめる。
「人質ってさァ……生かしておくから意味があるわけじゃん? それってつまり、人質になった直後は死なないってことなのかなァと思う、わ・け」
「な、なんだって……?」
イオウの言葉の意味を理解して顔を青くしていくセオン。
「そもそもオレっち、人質がいないと戦えないわけじゃないしさ。ここはいっちょ、人質は死なないっていうお約束を、あ・え・て、覆していこうかと思うわけよ」
「や、やめろ……ミストは俺たちに関係ねーだろ……!」
アルカもそれに気づいて震える手を力なく伸ばす。
「ヒャァーッハッハッハァ! イイネ、イイネェ! その絶望の表情……そんでもって本当にこの子が死んじゃったらさァ? もしかしてキミたち、ショックのあまりオレっちと戦う前から戦える状態じゃなくなっちまうんじゃないのか~い!?」
イオウは高らかに笑う。
「最っ高だぜィ! これぞ完膚なきまでに叩きのめす戦い方ってやつさァ! 戦意喪失して崩れた敵をォ、圧倒的な巨大ロボでプチプチと踏み潰すゥ! ……まずはその手始めに、このお嬢ちゃんを消し炭にしてやろうってなァ!」
そう言ってイオウはミストの身体を空高く放り投げた。
それはまるで岩壁の上で構えるゲロゲリヲンに生贄として捧げるかのように。
「わ、わあああああぁぁ! や、やだ! やだよぉっ!」
ミストは空中で手足を激しく振り回しながら叫ぶが、それにはなんの物理的効果はない。ただゲロゲリヲンの目の前に無抵抗のまま身体一つで放り出され、その砲撃の照準が自分に向いているという恐怖をほんの少しだけマヒさせる程度の抵抗だ。
「さァッ! やれ! ゲロゲリヲンッ!」
そしてイオウの号令とともに今まさにゲロゲリヲンの砲撃がミストの身体を焼き払おうとしていたときだった。
眩い金光が、岩壁の下を暗雲のように覆っていたゲロゲリヲンの影を貫いていった。
お読みいただきありがとうございます。
大好きな最低最悪ブッ壊れキャラ2回目の登場でテンションが爆上がっております。
忍○戦隊ハリケ○ジャーのようにシュシュッと参上し、
手○剣戦隊ニ○ニ○ジャーのようにやっつけちゃって懲らしめちゃってセイセイセイ希望です。
ま、ストーリー的に覚悟覚悟覚悟するのは誰なのかってメタ的な予想は立つんですけども。
さてそれはさておき、拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
いくつか下のほうに表紙とリンク貼っておきます!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!










