草原の坂道
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
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草原の縁を縫うようになだらかな坂道が緑に埋もれて続いていた。膝丈ほどの草が風にそよぎ、小さな黄色い花が点々と咲くその道を登る五人は常に賑やかだった。
「ほらセオン! そっち行ったぞ!」
「ちょっ、アカギ! どうすればいいのさ!」
鋭い爪をした猿型モンスターの背中をアカギが蹴り出し、セオンのほうへ送りつける。だがセオンは体勢を崩したモンスターを前にしても激しく狼狽していた。
「「頑張れセオ~ン!」」
ハルナとナトリが笑顔で手を挙げ明るい声援を送る。
「落ち着け! 武器にしっかりと原始力をまとわせるんだ!」
「力をグッと込めてズバーン! って振り抜んだよ!」
アカギとアルカの助言を受けつつセオンはナイフを構えた。
「くっ! 僕だってこんなモンスターくらい!」
向かってくるモンスターは眼前で構えるセオンに向けて爪を光らせる。だがセオンは表情を引き締め、モンスターの体勢が整うよりも早く前へ踏み出していた。
「やああああっ!」
そしてすれ違いざまにセオンのナイフがモンスターを切り裂いていく。猿型のモンスターはそのまま前のめりに地に倒れ、動かなくなった。
「やったぁ! セオン、カッコいい~!」
「すごいわ! 思わず見惚れちゃった!」
ナトリとハルナが歓声を上げる。
「初めてなのに大したもんじゃないかセオン!」
「そうだな……これは意外といい戦士になるかもしれんぞ」
アルカは太陽のように明るい顔でセオンに駆け寄って豪快に肩を組み、アカギは顎に手を当てながら感嘆の声をもらしていた。
「え~? 僕は戦士にはならないよ~」
セオンは苦い顔をして応える。
「そうなのか? せっかく筋がいいのに残念だ。なぁアルカ」
「ははっ、なんたってセオンの趣味は石集めだかんな~。石の声が聞こえる~ってさ」
「別にいいじゃないか二人とも。何が趣味だって僕の勝手だろ?」
「それはそうだが、いつか戦わなければいけないときもくるだろう? ハルナの身に何かあったときはどうするんだ?」
「そうなったらさすがに僕だって盾となって戦うしかないよ。身分くらい弁えてるつもりさ」
セオンは不満げに答える。
「そうだ。だからこれからはセオンもアルカを見習って筋肉をつけるんだ」
「だな。それにハル姉は優しく接してくれるけど、それでも俺たちやナトリはトツィギから捕まってきた奴隷なんだぜ? ご主人様を害そうと考えるだけでも胸の奴隷紋で……要するにだな。俺たちはどうあってもハル姉を守らなければならないし、守れるくらいには強くないといけないんだ」
「わ、わかったよ~……」
セオンはアルカやアカギに言われ、拗ねたような口調で応えた。
戦闘を終え、五人はまた高台を目指して坂道を登り始める。そんななかセオンがふと隣を歩いていたアカギに問う。
「ところで、さっきは僕も無我夢中だったけど、冷静に考えてみて原始力っていったいなんなんだろうね」
「なんだ今さら。お前やアルカがグルグル回してる杭だって原始力発電だろ? 原始的な行為によって生じる不思議な力のことじゃないか」
「それはわかってるよ。でも原始力の利用は電力としてだけじゃない……戦闘や、時には火を起こしたり便利で万能に使えたりするでしょ?」
「それは原創術な。ウリャ! って気合いを入れて原始力を消費すれば使える色々な現象の総称。たしか前にセオンが聞いた石の声にそんな文明や考え方がなかったか? 魔法とかいう……もしかしたらそれと同じなんじゃねーの?」
アルカがダラダラと歩きながら二人の会話に口を挟む。
「アルカは石の声なんて信じてないくせにさぁ」
「な~はっは。それはそれだ。でも俺は好きだぜ? セオンのオリジナリティ溢れる作り話がよ」
「ふむ……だがたしかにオレもセオンの話は面白いと思う。……特に科学だったか? 大昔には本当にそんな文明があったのかもしれないと思ったものだよ」
「やめとけってアカギ。セオンが調子に乗るだろ? 大体、それが本当だとしても科学の力じゃ悪の組織ヘルズスパには敵わなかったんだろ? そんなもん大したことねーって、絶対」
「ま、そうだな……セオンも夢物語や現実逃避はやめて、そろそろ武器を握るタイミングなのかもしれんな」
「そうやって二人は、いつだって僕を戦わせようとするんだ……」
セオンは肩を落としながらトボトボと歩く。するとしばらく先のほうを歩くハルナとナトリが笑顔で振り返って手招きをした。
「お~い男子~! 早くおいでよぉ~!」
「今日は晴れてるし、すっごくいい眺めよ~」
そんな晴れやかな女性二人の笑顔を見て顔を見合わせるセオンたち。
「はは、お姫様たちがお待ちだ。戦士たるもの、いち早く駆けつけてやらなきゃいかんぞ」
「それじゃあ競争だね! 一番遅かった人が今日の獲物を捌くってことで!」
アカギが言い出してセオンが一番に駆け出す。そしてそれを追うようにアカギも呆れ顔で駆け出す。ただその場に残されたアルカだけがお弁当の詰まった大きなカバンを持って呆然と出遅れていた。
「あっ! お前らズリぃぞ! 荷物持ちの俺にハンデありすぎだろ!」
「アルカは鍛えてるから平気なんだろ~?」
ここぞとばかりに得意げな表情で振り返って言うセオン。
「くそ! セオン待ちやがれ! またくすぐってやるからな!」
急いでアルカも駆け出し、セオンたち三人は笑いながら一気に坂を駆け上がった。
林道の景色を後方に押しやるように坂を登りきるとやがて視界は大きく開け、グリンシーの村が陽光にきらめく板の屋根とともに遠く一望できた。青く澄みきった空の下、鳥の影がゆっくりと流れていく。
「うわ~! これはいい眺めだな~!」
「おおよ。たしかにこれは見応えあるぜ」
「たまにはこういうのも悪くないな。ハルナに誘ってもらってよかったよ」
セオン、アルカ、アカギは口々に感嘆を漏らす。そしてそんな様子を見てハルナとナトリが嬉しそうに顔を見合わせた。
「そう言ってもらえてよかった~。ね、ナトリ」
「うんっ! アタシたちも一生懸命にお弁当を作った甲斐があったよ~!」
「うおおおおっ! 早く食べようぜ~! 俺、もうおなかペッコペコでさぁ!」
アルカは大きなカバンを地面に置いて腹を抱え、ひときわ大きな声を発した。そしてそれを涼しげに見るアカギ。
「その前に競争に負けたアルカは獲物を調理しないと、な」
「そりゃないぜアカギ~!」
途端にゲンナリと肩を落とすアルカ。そこに同情の顔を寄せて軽く肩を叩くセオン。
「文句を言う暇があったら手を動かしたほうがいいよ。毛皮を剥いで、内臓を取り除いて、塩と野草で軽く味をつけて、削った枝に刺して、原創術でじっくり炙らないとね。そうそう、ちゃんと命にお祈りも捧げないと……早くしないと僕たちでお弁当食べ終わっちゃうかもね」
「お、おいウソだろセオン! 俺がそんなに器用じゃないの知ってるだろ!? 俺たち親友じゃなかったのかよ!?」
焦りきったアルカの様子に一同は大笑いする。
「あっはは! 仕方がないからアタシも少し手伝ってあげるよ、アルカ!」
ナトリが明るい声を上げる。
「た、助かるぜナトリぃ……」
「そうねぇ。最後に焼く工程まで大雑把なアルカに任せたら真っ黒焦げにされそうだもの……そういう意味よねナトリ?」
「そうそう、だから最後だけはアタシも手伝ってあげる」
「ちくしょ~、ハル姉まで……みんなして酷ぇや……」
肩を落とすアルカのまわりで笑い声がわき上がり、五人の楽しいピクニックが始まった。
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拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
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