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温泉戦隊バスバスター ☆ センターは草津グリーン  作者: nandemoE


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24/30

奴隷の少女ミスト


 アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!

 『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』


 悪役令嬢が現代日本に逆転移!?

 戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。

 しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。


 男性にも女性にも読んでほしい作品です。

 ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!



 トツィギの関所をあとにし、アシオ基地へと続く道はやがて山肌に沿って緩やかに登っていく。


 初めは雑木林の並ぶ幅広い山道だが、進むにつれて両脇は切り立った岩壁と深い谷に変わり道幅も狭まっていく。谷底からは冷たい川のせせらぎが響き、時折、風が木々の葉を揺らして涼しさを運んでくる。遠くには鉱山跡のような崩れた岩場が見え、そこから山の奥に続く細い道がまるでアシオへ誘う一本の糸のように伸びていた。


「ところでよー……ここはもうニツコゥの一部には入っているんだよな?」


「そうなるよね。僕にはまるで見覚えのない景色だけど」


「アタシたちがグンマーに捕まったのはまだ幼い頃だったから記憶も曖昧なのよね」


「それがどうかしたの? アルカ」


 釈然としない表情のアルカに向かってセオンが問う。


「いや、どうってわけじゃねーんだけどよ……会話のなかで出てきたアシオ基地っていうのがどうにもピンと来ないんだよな……昔からそんなのあったっけか?」


「う~ん……僕はそれも含めて、よく覚えてないや」


「もしかして十年前に受けた襲撃のせいで新たに拠点を構えることになったのかもね~」


「ま、そういうもんか。故郷とはいえ、時代とともに姿は変わっていくんだなぁ……」


「アルカ、なんだかおじさんみたい」


「なんだとセオン! くぉら! くすぐってやらぁ!」


「へへーんだ! 僕だってもう、そう簡単には捕まらないぞ!」


 軽く飛び掛かったアルカを軽くかわしながらセオンは少し先を行く。


「チッ! セオンめ! どんどんすばしっこくなりやがる!」


「別にいいじゃない。魔物と戦うときだって頼りになるし、もう前みたいにオドオドしてる感じはなくなったもんね」


「そりゃそーだけどよぉ……」


 アルカは口を尖らせる。


「なんかこう……前は俺が守ってやる! って感じだったんだけどなぁ……」


 そして軽い足取りで前を歩いていくセオンの背中を見つめながら小声をもらした。


「ん? なにか言ったアルカ?」


 隣でナトリが問う。


「ん~にゃ? 別になんでもねーよ」


 何事もなかったようにアルカは肩に背負った荷物を掛け直し、歩みを速めた。


「あ! もしかしてあれがアシオ基地じゃない!?」


 前方でセオンが嬉しそうな声を上げた。


「お! もう着いたのか! どれどれ……?」


「二人とも待ってよ~う。アタシ山道で疲れたぁ~」


 三人はそれぞれのペースでアシオ基地まで歩いた。


「どうやら、元々この辺りにあった小さな集落の近くに作られたって感じだね」


「しっかし、思ったよりいかつい外見をしてんだなー……」


「高い壁に見張り台……本当に軍事基地って感じなんだねぇ~」


 かつて鉱山と森に囲まれた静かな山の集落だった場所は今やアシオ基地と名を変え、トツィギ軍の対グンマー前線拠点としてその姿を大きく変えていた。山肌に張り付くように築かれた木造と鉄板の混合バリケード、風化した民家を改修して造られた兵舎や詰所がかろうじてこの地が村だった名残をとどめている。


 銃を携えた兵士たちが巡回し、見張り台の上では望遠鏡を構えた監視員が常に周囲を睨む。村の広場だった場所は軍用車の駐機場に変わり、トツィギ軍の軍旗がぱたぱたとはためいていた。


「軍の施設とはいえ基地のまわりにも民家っぽい建物も見えるから、今日はこの辺りで泊まれる場所を探そうよ」


「おう! イガッセのおっさんが路銀も弾んでくれたから大助かりだぜ!」


「だからって無駄遣いするのはアタシが許さないんだからね!」


 三人は物珍しそうに周囲を見回しながら近くを歩き回った。


 元は炭坑の絶壁に背を預けるように築かれたアシオ基地。


 そしてそれを囲むように点在する民家はどれも低い石垣と木の壁で作られていた。屋根は藁や木板で葺かれ、風雨に晒されたせいで色はくすみ、ところどころ苔が張りついている。窓は小さく板戸で閉ざされている家も多い。通りに面した家の前には干した穀物や獲物の皮が吊るされ、子どもたちが裸足で土の上を駆け回っているが、その笑い声は短く、すぐに親の鋭い声に呼び戻される。


 家の間を通る道は踏み固められた土の小径で轍や家畜の足跡が交じる。近くの畑や作業場からは鍬の音や家畜の鳴き声が聞こえるが、そのどこかに基地の影が落とす冷たい圧が漂っていた。


「な、なんかグリンシーの穏やかな雰囲気とは違って、緊張感がある村だね……」


「ま、前線基地なんていうくらいだから仕方ないんじゃねーの?」


「それを言ったらグリンシーだって前線でしょ~? 田舎すぎて、特別な理由がなければ敵が攻めて来ないだけでねぇ~」


 アシオ基地の周囲には段々畑のような畑地が広がり、そこでは粗末な布や擦り切れた毛皮をまとった奴隷たちが無言で鍬を振るっていた。


 彼らの顔は日に焼け、疲労と飢えでやつれているが手だけは泥にまみれ動き続ける。畑の隅には武装したトツィギ兵が立って鋭い視線で作業を監視しており、時折、声を荒げて作業を急かしている。


「な、なんだろう……奴隷、かな……? ずいぶんと酷い扱いに見えるけど……」


「そりゃあ違うぜセオン。奴隷ってのはあれが普通だろうよ。優しくしてくれるグリンシーのみんなが異常だっただけだ」


「アタシ不安になってきちゃった……トツィギの人たちと上手くやっていけるかな……」


「ナトリも心配すんなって。どこに行ったってそういう人間はいるってだけの話さ。グンマーにだってオンドみたいな嫌な奴はいただろ? 反対にトツィギにもイガッセのおっさんみたいな人もいる」


「そういえばダンベーさんも言ってたよね。世の中には正義と悪、白黒つくものばかりじゃないって……きっとこういう現実を僕たちに教えてくれていたんだ」


 視線をそらすように畑の脇道を進むセオンたちの耳に乾いた鞭の音が響いた。


「オラッ! もたもたしてんじゃねぇっ!」


「あううっ! い、痛いですぅ! 働くですっ! ちゃんと働くですから……」


 視線を向ければ汗と泥にまみれた奴隷たちが痩せた体で黙々と作業を続けている。そのなかの膝をついて動けなくなった少女に監督役の男が容赦なく怒声を浴びせ、肩を乱暴に押し立てる姿があった。


 作業を見守る村人たちは無表情でその場面をやり過ごす者もいれば冷ややかな視線を投げる者もいる。なかには子どもを抱きかかえ何かを囁きながら背を向ける母親の姿もあった。


「チッ! 胸糞わりーけど、今の俺たちにどうこうできる問題じゃねーしな……」


「なんか……なんかアタシ寂しい気がするな……」


 悔しげに視線をそらすアルカとナトリの隣でセオンだけは拳を震わせていた。


「どうして、どうしてこんな酷いことができるんだ……まだ子どもじゃないか……!」


「おいセオン。変な気は起こすなよ? 気持ちはわかるが、はっきり言ってこれはよそ様の問題だぜ? それに目の前の問題ばっか気にしてたって、じゃあほかの奴隷を全員同じように救えるかって話になるだろ」


「だけど、そうやって些事と決めつけるみたいに目をそらしていたら、それこそイザナやサウナって人が言ってたことと同じじゃないか!」


「うっ! そ、それは……」


 セオンの気迫にアルカがうろたえたときだった。


「サウナ……サウナだって?」


 セオンの発言を聞いていた近くの監視役が眉をひそめていた。


「お前たち、あの裏切り者のサウナのことを知っているのか? どういう関係だ?」


 三人は監視役の質問の真意について相談するように視線を合わせたあと、セオンが代表して答えることにした。


「僕たちはつい最近までグンマーに捕らえられて奴隷をしていたんです。そこで一度だけ、最高指導者の隣にいたサウナという人に出会いました」


「そうか、グンマーで奴隷だったのか……お前たちも苦労をして、ようやく帰ってきたというところか……大変だったな」


 監視官は少し気の毒そうな顔をした。


「そしてどうやらお前たちの会ったサウナは、俺たちの知っているサウナと同じ人物のようだ」


「やっぱり……イガッセさんから聞いた話だと、サウナさんはトツィギで何かの研究をしていた人だと聞きましたが……」


「ま、その研究とやらをある日突然ほっぽりだしてグンマーに寝返っちまったんだがな……俺たちが多大な損害と引き換えにようやく登別ブルーを倒したってのに、あの野郎、そうして手に入った登別ブルーの戦闘スーツを再びグンマーに持っていっちまったんだ! しかもその様子じゃあグンマーでも上手く立ち回ってるらしいじゃねーか……気にいらねぇ!」


 そう言って監視役は隣にいた奴隷の少女を強く鞭で打った。


「あううっ!」


 悲鳴を上げる少女。彼女はほかの奴隷よりも歳若く見え、背も小さくやせ細っていた。


 服はボロきれのように穴が開いて傷んでおり、首には奴隷の身分を象徴するような鉄の首輪がはめられている。地に膝をつき悔しさに唇を噛む彼女の髪は土と汗で乱れ、鮮やかな青がくすんでいた。


「やめてくださいっ! なんでそんなことをするんですか! その子は関係ないでしょう!」


 セオンが止めようとすると監視役は鼻で笑う。


「関係おおありなんだよ……なんせこいつ、その裏切り者の親族なんだからな!」


「な、なんですって!?」


 驚くセオンたちの前に少女の髪を掴み上げて投げ捨てる監視役。


「おいミスト、そこの兄ちゃんたちに自己紹介してやれよ。私があの裏切り者の親族です。お兄さんたちがグンマーに捕まって辛い思いをしたのは全部私が悪いんですって、なぁっ!」


 倒れたミストと呼ばれた少女に鞭を打つ監視役。


「あううっ!」


「やめてくださいっ!」


 セオンはミストをかばうように監視役との間に割って入った。


「おいおい兄ちゃん、いいのかよ? 兄ちゃんだってこいつに石を投げる権利はあるんだぜ? グンマーで辛い思いをしたんだろ? もしかして十年前のニツコゥ侵攻のときか? だとしたら幼少期の十年も台無しにされたんだぜ……? そんなの許せるわけねぇだろうがよ!」


「だけどそれはこの子のせいじゃない!」


「じゃあ聞くが、向こうでサウナに会ってどうだったよ? 奴は親族すら捨てて敵に寝返るような女だぞ? そんな奴がお前たちを哀れんだり優しくしてくれたってのか? ああん?」


「そ、それは……」


 言葉に詰まるセオンを見て得意げに笑う監視役。


「ほれ見ろ。どうせ散々な目にあったんだろ? それもこれも、全部サウナのせいだろ! ここには被害を被った人間がたくさんいる! 一族を皆殺しにしたところで怒りが収まらねぇんだよ……だったらこうして、いたぶって気を晴らすしかねぇだろうがぁ!」


「そんなの間違ってる!」


 セオンは手を振り払って全力で言い放った。


 だが監視役は相手にしないとばかりにまた鼻で笑った。


「おお怖い……だが兄ちゃん、まだ若過ぎるぜ。現実ってもんがまるで見えてねぇ……なぁミスト……命令だ、立て、そしてこっちへ来い」


「あ、あうう……っ!」


 監視役が命令をするとミストの首輪が赤く怪しい光を放った。そして同時に苦悶の表情を浮かべるミスト。その奴隷の首輪は特定の者が使用する原始力によって装備した者の首を締め上げ、強制的に命令に服従させるために用いられている物だった。


「ひ、ひでぇ……こんなに軽く人を扱いやがって……」


「ハルナお姉ちゃんは一度だってアタシたちに強制力なんて使わなかったのに……」


 アルカとナトリも苦しげに顔を歪ませていた。


 だがそうしているうちにもミストは身体を震わせるようにして立ち上がり、足を引きずるようにして監視役の元へ歩いていく。そんな苦しげなミストの姿を見てもセオンはなにもできなかった。


「なぁ兄ちゃん。もしかして兄ちゃんは奴隷ってのが『させられて』なるもんだなんて勘違いしてねぇか?」


「な、なにを言っているんですか……そんなの、なりたがる人なんているわけない!」


「ま、そう思うよな? だがよ? 世の中にゃあ、力の足りねぇ者、知能の足りねぇ者……奴隷として使ってもらわねぇと生きていけない人間ってのが少なからずいるんだよ」


 セオンは言葉を失った。自分たちの幼少期がハルナに守られ、そうであったことを思い出していたからだ。


「ちなみに言っておくと、ここにいる奴隷は全員そういう奴らさ。俺たちはグンマーの蛮族とは違って強制的に拉致して奴隷になんかしていない……俺たちは元々トツィギの民であったが自力で生きていけねぇ者に対し、奴隷として生きる道を与えてやってるにすぎねぇ……」


「う、ウソだ……」


「ふふん……なら、やってみたらどうだ? 奴隷解放を。そうしたら淘汰されて死ぬしかねぇ元奴隷はどうなると思う……? 果たしてそれで恨まれるのは誰かな?」


 押し黙ったセオンを得意げに見ながら監視役は隣に戻ったミストにも問う。


「なぁミスト……お前はどう思っているんだ? 解放されたいのか?」


 ミストは震え、涙を堪えながら力なく呟く。


「ボ、ボクは……身寄りももういないから……こうしないと、生きていけないのです……」


 そしてそれを聞いた監視役はさらに得意げになってセオンたちを見た。


「ほぉれ見ろ。こいつはなぁ……こういう扱いも承知のうえで、奴隷でいることを自分から選択してるんだよぉ!」


 そして高笑いをしながらミストの背に手を回してセオンたちから遠ざけるように歩かせる。


「もう少し大人になりゃあ現実ってもんが見えてくらぁ……兄ちゃんたちも苦労してグンマーから帰って来たんだろ? 俺もこの件についてこれ以上責めるつもりはないから、兄ちゃんたちも今日のところは他人の事情に口を出すもんじゃねぇってことを勉強しておくんだな」


 そう言って監視官も踵を返し、ミストとともに歩いて去っていく。


「大した仕事もしてねぇくせにへばりやがって……今日のところは医療棟で休んでろ! ったく、使えねー奴隷だなお前は!」


 さらに鞭を打ちながら歩いて去っていく姿を見ながらも、セオンたちはただ打ちひしがれたようにそれを見ていることしかできなかった。一度だけミストが振り返って小さな会釈をしたとき、セオンは力なく地に膝を落とし、少し呼吸を荒げたのだった。



 お読みいただきありがとうございます。


 拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』

 2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!


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 配信日:2026年1月6日
 アマゾナイトノベルズ様より



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