石集めの少年
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
私の作品が電子書籍化しました!
応援よろしくお願いいたします!
緑の草原が地平線の彼方まで続いている。
穏やかながらも青空の上から射す日光によって朝露も消えた青々しい大地。
そこに太い木製の杭が何本かまっすぐに突き刺さっていた。そしてその杭からはさらに四方に伸びる手すりがあり、それを二人の少年が全身で押して回している。
ガラガラと音を立てて何周も何周も、ただその杭を回しているのだ。
「よーし、午前はこれくらいにしておこうぜ、セオン」
筋肉の鎧をまとったように体格のよい短髪の少年が言った。するとセオンと呼ばれた小柄な少年も嬉しそうに微笑む。
「そうだねアルカ。僕はもう喉がカラカラだよ」
少年セオンの額には少しの汗が滲み、前髪が少し貼りついている。彼はその額を腕で拭って、手のひらで顔をあおぐ仕草をした。
二人の少年は同じく獣の毛皮を腰に巻いただけの格好で、少し日に焼けている。
「ハル姉たちが来るまで、俺たちは少しばかり休憩だな」
「うん。じゃあ僕はその間、ちょっと石探しに……」
「ダメだ」
アルカはセオンの肩を掴んで引き止めた。
「まったく……休むときはしっかりと休んでくれ……午後もまたこいつを何百回と回さにゃならんのだから」
アルカは憎たらしそうに地面に突き刺さった杭を親指で指して言った。
「うへぇ。これを毎日毎日、朝から晩まで、僕は嫌になっちゃうよ」
「文句を言うな。仕事だろ?」
「ねぇアルカ。僕たち、なんでこんなただの杭をずっと回しているんだろ?」
「そりゃあ俺とセオンが奴隷だからだろ」
「そうじゃなくて……いったいなんのために回しているのかってこと」
「そんなこと、俺たちが考える必要あるのか?」
「だってバカみたいじゃないか。ただ地面に刺さっているだけでタービンに繋がっているわけでもない杭をただ回しているだなんて」
「タービン?」
アルカは初めて聞いた言葉とばかりに首を傾げた。
「昔はそういう文明があったんだって」
「まぁた石から流れてきた知識ってやつか?」
「そう」
「やめとけやめとけ、そんなウソくさい。十六歳にもなって石の声が聞こえるなんて言ってる奴はセオンくらいだぜ?」
アルカは呆れた顔とともにため息をついた。
「本当に聞こえるんだって! ……たまにだけど」
セオンはムキになって言う。
「あ~はいはい。セオンは選ばれし特別な存在だよ、奴隷だけどな」
「あ! アルカ! 僕をバカにしたな!?」
「なっはっは。でも、そろそろそういうのも卒業しておかねぇと、ハル姉にそっぽ向かれちまうぞ?」
「な、なんでハル姉が出てくるんだよ」
「俺が気づかないとでも思ってんのか? 最近ホレ、ハル姉もすっかり大人っぽくなっちまって、お前よく見とれてるもんな。好きなんだろ? ハル姉」
「だ、だだ、誰があんなブス!」
狼狽するセオンに、いたずらな笑みを浮かべるアルカ。
「わっかりやすぅ! 言ってやろ~。ハル姉にブスって言ってたこと言ってやろ~」
「や、やめろ! このぉ!」
セオンは顔を真っ赤にしてアルカに飛び掛かる。
「な~はっは! ムダムダ! セオンの体格で俺に敵うかよ。くぉら! くすぐってやらぁ!」
アルカは軽くセオンを転がして上にまたがり、その脇腹をくすぐる。
「うわっ! ちょっ! アルカやめっ……」
などと二人がじゃれ合っていると、そこにやってくる女性の影があった。
「あなたたち、本当に仲がいいのね」
獣の毛皮を片方の肩から斜め掛けにした若い女性が草原の上に転がりあってもみくちゃとなっている少年たちを見下ろしていた。
背中まで伸びる長い髪をまっすぐにおろした彼女は少し呆れた表情で、その両手には大きな毛皮のカバンを持っている。
彼女の名前はハルナ。綺麗に整った顔立ちで長身細身。優しい彼女の性格を表すような明るいピンク色の髪と、透きとおる白い肌がセオンやアルカの目を奪うようだった。
「あっ! ハル姉!」
セオンは飛び上がるように驚いてアルカから離れた。その顔は真っ赤になっている。
「ハル姉、聞いてくれよ~。さっきセオンの奴がさぁ~」
「あっ! アルカ! やめろって!」
「もがもが~!」
言い掛けたアルカの口をセオンがうしろから両手でふさぐ。二人の体格差からおんぶのような格好になっており、その不格好さにハルナは小さく笑みをこぼした。
「も~。ハルナお姉ちゃん、こんな二人、置いていこ? アカギも来るからアタシたちだけでも平気だって」
そしてハルナのうしろからひょっこり現れた少女が同じく呆れた様子で言う。
少女の名はナトリ。セオンやアルカと同じ十六歳であり、彼女もまたハルナと同じように獣の毛皮を斜め掛けにしている。体格はセオンと同じくらいだが女性としての発育はよく、身体の曲線にはメリハリがある。彼女の活発さを示すかのように肌色は健康的で、金色の髪は短く肩くらいまでに整えられ、彼女の軽やかな身のこなしとともに小さく揺れていた。
「そうね~? ナトリの言うとおり、そろそろアカギくんも戻ってくる頃だし、セオンとアルカは放っておいて私たちだけでお弁当を食べちゃおうね~?」
「うん! いこいこっ! 今日は天気がいいから、きっと高台から見えるグリンシーはすっごく綺麗だよ!」
ナトリは笑顔でハルナの背中を押すようにその場を離れようとする。
「わ~っとっと! 待ってくれよナトリ! 俺たちも行くって!」
「ひ、酷いよナトリ~」
じゃれ合っていたセオンとアルカは慌てて離れ、駆け足でハルナとナトリに並んだ。
「まったく……二人とも、いつまでも子どものままなんだから」
ナトリが口を尖らすように言う。
「そんなことないって……あ、ハル姉。カバン、僕が持つよ」
セオンが慌てながらも大人ぶってハルナの持ったカバンを代わりに持とうとする。
「あら~? セオンはブスの私にも優しくしてくれるの?」
「う……! ち、ちが……それは……」
ハルナはいたずらな笑みで軽やかに言うが、セオンは一瞬にして動かなくなった。
「ど、どこから聞いてたのハル姉……?」
セオンが心配そうにハルナの顔を見上げる。
「さぁ? セオンが私をお嫁さんにしてくれるって言ってたあたりかな~?」
ハルナはクスクスと笑い、それに対してナトリが飛び上がって驚く。
「わ! ハルナお姉ちゃん! セオンはそんなこと言ってないよぉ!」
「うふふ。ナトリも慌てちゃって、かぁわいい~」
真っ赤になったナトリの顔を胸に抱き寄せながらハルナは笑った。
そんな和気あいあいとしたところへまた一つの影が近づく。
「あいかわらず賑やかだな、みんな」
そこへやってきたのは精悍な顔立ちをした青年だった。同じく毛皮の腰巻きであり、爽やかな笑みを浮かべ片手に竹槍、もう片手には仕留めたてと見える小動物を持っている。
バランスの取れた体格であり、ごつごつと筋の見える引き締まった手足に割れた腹筋。サラサラと流れる程度の赤い短髪に獲物を確実に捕らえるであろう鋭い目つき。
彼の名はアカギ。十八歳の戦士であり、ここに集まった五人のリーダー的存在でもある。
「あらアカギくん。その様子じゃあ狩りは上手くいったみたいね」
「おう、特別に獲物を分けてもらってきた」
「さすがね~。おかげで素敵なピクニックになりそう」
アカギとハルナは微笑み合った。その一瞬のアイコンタクトに気づいたセオンは人知れず拗ねた表情を見せる。
「じゃあ、みんなそろったことだし、早いところ高台に行ってお弁当にしようか。アルカ、ハルナの荷物が重そうだ。代わりに持ってやってくれないか?」
アカギはセオンの視線に気づきながらも場をまとめるように指示を出す。
「りょ~かい! ほれハル姉。重い荷物は俺が持つよ」
「ありがとうアルカ」
ハルナは両手に持ったお弁当の入った大きなカバンをアルカに渡し、アルカはそれを軽々と肩に背負った。
「アカギ、僕は?」
「セオンはこれだ」
そう言ってアカギは鞘に収まった小さなナイフをセオンに手渡した。
「村を離れれば魔物が出るからな。この辺りに生息する魔物は弱いが、そろそろセオンも戦いには慣れておくべきだ」
「え~? 僕が戦うの~?」
セオンは嫌そうに顔をゆがめたが、まわりはそんなセオンを見て笑った。
「いいじゃないか。アカギの言うとおりだぜ。セオンもこれを機に石集めばっかしてないで筋肉をつけるべきだ、この俺みたいにな」
「アルカほどムキムキになる必要もないけど、アタシもセオンはもうちょっと強くなったほうがいいと思う」
「うふふ。セオン、頼りにしてるわね」
アルカ、ナトリ、ハルナは口々に言う。
「もう……わかったよぅ」
セオンは肩を落としながらもナイフの柄を握りしめた。
「よぅし、セオンもやる気になったことだし、そろそろ出発だ」
アカギはみんなをまとめるように言い、まわりもそれが当たり前であるかのように文句も言わずに動き出す。まるで一つのチームであるかのように慣れた動きで五人は目的地である高台に向けて歩き出した。
お読みいただきありがとうございます。
拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
よろしくおねがいします!










