トツィギの関所
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
私の作品が電子書籍化しました!
下のほうにリンク貼っておきますので、応援よろしくお願いいたします!
グンマー側の関所を抜けると山道はしばらく緩やかに下り、両脇には苔むした岩と低木が広がる。湿った空気と鳥のさえずりが静けさを包み、木々の合間からは遠くに霞む湿地帯の水面がちらりと覗いた。
やがて道は細くなり、谷沿いにそって蛇行しながら続く。小さな木橋をいくつか渡り、ぬかるんだ斜面を越えると、徐々に空気が張り詰めたように変わってくる。
杉木立の間から見えてきたのはしっかりとした造りの関所の門。木組みの門は丁寧に手入れされ、門前には槍を持ったトツィギ兵が二人、無言で見張っている。
石畳の道が門をくぐり、奥には簡素ながら整った詰所が見える。周囲の柵は新しく、通行者の足取りを厳しく見極める視線が静かな緊張感を漂わせていた。
「なんだお前たち。グンマーの人間か!」
門に近づいたセオンたち三人の前に立ちはだかるように門番が言った。
「違います。僕たち、元々はトツィギの人間だったんです」
セオンは相手の目を見て正直に打ち明けた。
「じゃあなぜグンマーのほうから来た? なぜグンマーの服装をしている?」
門番たちの視線には疑いが含まれていた。
「それは僕たちがグンマーの奴隷だったからです。幼い頃に集落を襲われて……」
「本当だぜ? もう十年くらい前だけど俺たちはこの先のニツコゥってところに住んでいたんだ。だけどグンマーが攻めてきて、両親は殺されて……」
「アタシたちはつい先日までグリンシーという集落にいました……そこにトツィギの人たちが攻めてきて、大混乱となったなかをやっとの思いで逃げてきたんです」
それを聞いて門番たちは憐憫な顔を見合わせた。
「そうだったのか……お前たち、かなり大変な思いをしたんだな……」
「嘘を言っていないのはわかる。十年くらい前にニツコゥがグンマーに襲われたのも、数日前にグリンシーを攻めたのも事実だからなぁ……」
それを聞いてセオンたちは安堵から表情を緩めた。
「だがスマンなぁ……こういうご時勢じゃあ、俺たちの判断だけじゃあそう簡単にここを通してやるわけにはいかないんだよ」
「「そんなぁ……」」
三人そろって落胆するなか、セオンは思い出したように腰の小袋からダンベーに貰った魔物の牙を取り出して見せた。
「そういえばこれ……さっき向こうの関所で貰ってきたんです。昔、こっちの関所と仲良くしていた頃に協力して倒した魔物の牙を分け合ったって聞きました」
それを見て門番たちは驚いた顔をする。
「これは……! お前たち、これを貰ってきたと言ったな? 向こうの者は無事なのか?」
「いえ、ダンベーさん……一人を除いて全滅していました……これは詰所の下敷きになっていた人から貰ったものです」
門番たちは悔しそうな顔をして目を瞑った。
「残念だ……こっちも軍が動いたので、下っ端の俺たちにはどうしようもなくてな……だが、ダンベーさんが生きていてくれたのは知れてよかったよ……お前たち、伝えてくれてありがとうよ。実は俺たちも心配していたんだ」
「そうだったんですね……」
「ああ! くそ! 俺たちにもっと力があればお前たちを通してやれたのに!」
門番たちは悔しそうに頭を抱えて大きな声を出した。
「おい、この子たちは嘘なんか言ってないだろ……せめて抜け道を教えてやるべきだ」
「ばっかやろう。あんな魔物だらけの道を、こんな子どもたちに勧められるわけないだろ」
「じゃあ夜になったらコッソリさぁ……」
「それ、バレたら俺たちがタダじゃ済まんぞ……? お前、こないだ子が生まれたばっかだろ」
「あぁーっ! ちくしょー!」
などと騒いでいると、門の向こうから騒ぎに気づいた別の兵が様子を見に近寄ってきた。
「どうしたんだ? なにか騒ぎか……?」
近寄ってきた男は門番やほかの兵とも異なりやや立派な鎧を身につけていた。腰には鞘に入った剣をつけている。
男はセオンたち三人の姿を見ると驚いた顔をした。
「あっ! キミたちは!」
男は見覚えのあるような反応をするが、セオンたちのほうは見覚えがないとばかりに不思議そうに顔を見合わせた。すると男はため息を一つついて軽く微笑む。
「そうか、さすがにキミたちは覚えていないよな……なにせ、十人でキミたちの命を取ろうと取り囲んだうちの一人だからな、私は」
それを聞いてセオンたちはハッと身構える。
「もしかして、遺跡で戦ったトツィギ兵!?」
しかし警戒するセオンたちを前に男はさらに軽く笑い飛ばした。
「あっはっは。そう警戒しないでくれ、今はキミたちと争う気はないよ……と言うか、勝てる気もしないけどね」
男がそう言うと門番たちはギョッとした顔をした。
「ま、まさかこの子どもたちにでありますか!?」
「そんなご冗談を……イガッセ様がこんな子どもたちに勝てぬとでも……?」
「いやぁ。実際に十人で飛び掛かって負けたうえ、命も取らずに見逃してもらったんだよ。だから私はこうして無事に帰ってこれたというわけさ」
門番たちの反応にも笑って返しながらイガッセと呼ばれた男は三人に語りかける。
「申し遅れてすまない、私はイガッセという者だ。あのときは済まなかったね……こちらにも引けぬ事情があったのだ……だが、こうしてここで再会するとなると、キミたちにも何か事情があると見えるね……?」
セオンたちは多少の戸惑いを見せたが、改めてイガッセに事情を説明した。
「そうか……なるほど。キミたちは元々トツィギ側の人間だったのか……ますます申し訳ない。事情を知らなかったとはいえ、キミたちを刃にかけようとしたこと、詫びさせてほしい」
イガッセは丁寧に三人に対して頭を下げた。
「いえ、誤解が解ければ僕たちはそれで構いませんから……」
「本当に済まないな……なにか私にも恩を返せる機会があればよいのだが……そうだ! キミたちは故郷に向かうのだろう? ならば私にキミたちの身元を保証させてもらえないだろうか」
「「えっ!? 本当ですか!?」」
セオンたちは驚きのあまり声を上げた。
「本当だとも。キミたちはグンマーの奴隷であった以上、トツィギ側でキチンとした身分証明はできないだろう? それではこの関所に限らず、行く先々で困ることになる……だからここでキチンと手続きをしていこうじゃないか」
「い、いいんですか? そんなこと……」
「ああ……言い忘れたが、私はこれでもトツィギの首都、ウミノツヤの貴族なんだよ」
「「えっ!?」」
「驚くだろう? なんでそんな身分の者が戦場からは離れたあんな場所にいたのか……だけど、その答えをキミたちは知っているはずだよ?」
三人は合点がいったとばかりに重く頷く。そしてアルカとナトリの視線はセオンに集まった。イガッセが言おうとしているのが草津グリーンの戦闘スーツの件であることを悟ったのだ。
「あまり人前で話すような内容ではないけれど、私がキミたちを引き入れたい理由としては十分なことがわかるだろうか?」
「……わかります」
セオンは暗い声で答えた。
「そう暗くならないでもらえないか。別に私はキミたちを利用しようとしているわけじゃないんだ。戦火から逃れてきたキミたちが、戦争についてどう思っているかくらいは想像に難くない……戦力になることを無理強いしたいわけじゃないんだよ。……だがアレを知っている以上、関所は通さぬとグンマーに追い返してしまうわけにもいかない。そんなふうに考えた結果、トツィギにいてもらったほうがいいと判断したまでのことなんだ」
「それなら……」
セオンは少し身体の力を抜いて答えた。
「よかった。それじゃあ私について来てくれ……まずはキミたちのことをよく聞かせてもらいたい。そしてそれを元に身分証明になるものを作ってしまおう……安心してほしい、トツィギはキミたちを歓迎するよ」
イガッセはそう言ってセオンの隣に並ぶと、背中に手を回して関所内へ迎え入れた。
お読みいただきありがとうございます。
毎日投稿とは言いましたが、さすがに年末年始は……
少しお休みしようかと思います。
そして新年は!
拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
下のほうに表紙とリンク貼っておきますね!
よろしくおねがいします!










