イジュワク遺跡
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
私の作品が電子書籍化しました!
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森の奥深く、静寂に包まれた窪地にその遺跡はひっそりと口を開けていた。
崩れかけた石柱と苔むした岩肌がかつての営みをかすかに物語っている。地面には黒曜石の破片や焼けた土器のかけらが散らばり、誰かの手が触れた痕跡だけが時を越えて残されていた。風が吹くたびに草が揺れ、洞の奥からは不気味な気配が滲み出ていた。
「なんの遺跡だろう……? グリンシーにこんなところがあったんだ……」
セオンは誘われるように呆然と頼りない足取りで遺跡に近づいた。
「おいセオン。そんなの気にしてないで、とっとと先に進もうぜ?」
「だーめだめアルカ。あの遺跡がいったい何で造られているのか考えてみなよ」
ナトリが呆れた顔でアルカに諭す。
「遺跡が? ……って、石かよ!」
「そうそう。石集め大好きのセオンが素通りできるわけなくない?」
「くっそ、こんな状況で悠長な……ナトリはセオンに理解ありすぎだろ……」
アルカは頭を抱えた。
「なんか僕、遺跡に呼ばれてるような気がする……」
「あ、ダメだこりゃ。セオンの奴、幻聴まで聞こえだした……」
「こうなったらサッと済ませたほうが早いかもね、アルカ」
「だな」
諦めた様子のアルカとナトリがセオンのあとを追って歩き出したときだった。
「おい! 誰かそこにいるのか!」
三人の後方にある樹木の奥からそんな荒々しい声が響いた。
「ヤバい! セオン、ナトリ! ひとまず隠れるぞ!」
「「わかった!」」
アルカの号令によって三人はおのずと遺跡の内部へと飛び込んだ。
「おかしいな、さっき人影が見えたような気がしたんだが……」
そこへ駆け寄ってきたトツィギ兵が見失った三人の姿を探すようにして現れる。
三人は遺跡の入り口の陰に身を隠しながらトツィギ兵の動向を見守っていた。
「くそっ、こんな穴倉みたいな遺跡に逃げ込んじまったらもう逃げらんねーぞ……?」
「このまま隠れてやり過ごしたほうがいいかもしれないね」
「あっち行け……あっち行けぇ~……」
アルカとセオンは冷静にトツィギ兵の様子を観察し、ナトリは拝むように小声で念じ続ける。
「しっかしよぉ……俺たち、本当に前途多難だよな。旅立ちからして敵兵から逃げてるんだもんな……」
「敵兵って……アタシたち、いつトツィギ兵の敵になったの……?」
「あぁそっか。よく考えてみれば見つかっちゃまずい気がするだけで、別に俺たちの敵ってわけでもないのか」
「でも、昨日みたいに見つかったらいきなり襲われるかもしれないよ? 戦争をしてるトツィギ兵からしたら僕たちはどう見たってグンマーの人間だからね。殺されなくたって捕虜にされるかもしれない」
「そしたらアタシたち、人質としてまたグリンシーに逆戻りになっちゃうのかな……? ハルナお姉ちゃんにまた迷惑かけちゃうよ……」
「グンマーからは追放され、トツィギからも逃げ回らないといけない……こんな状況で俺たちにいったいどうやって生きていけって言うんだよ」
「アタシたち、こんな状況で本当にトツィギに近づいていっても大丈夫なの……?」
アルカとナトリは会話を続けるうちに元気を失っていく。
「みんな。どうせしばらくはここから動けないんだ。どうせだったらこの遺跡の奥を調べてみない?」
そんなふうに能天気に言うセオンを見て、アルカとナトリは重くため息をついた。
「ったく……セオンの性格は羨ましいぜ」
「でも、暗いほうにばっかり考えてちゃダメだよね! セオン、意外と頼りになるぅ~」
「そうそう! ……と、言うわけで、さっそく遺跡内を探検してみよう!」
落ち込む二人を励ますように元気な声と胸を張ってセオンは遺跡の内部に向かって歩き出した。
岩宿遺跡の内部はまるで大地が長い眠りのなかで育んだ秘密のように静かだった。苔に覆われた石の通路がうねるように続き、天井からは鍾乳石が垂れ、時折ぽたりと水滴が落ちる音が闇にこだまする。壁面には風化しかけた古代の紋様が彫られており、薄く光る鉱石の粒がまるで呼吸するようにかすかに脈打っていた。
外の世界とはまるで異なる、時の流れすら違うような空間。その冷たくも荘厳な空気の中にセオンたちは無言で足を踏み入れた。
「あれぇ? 意外と奥行きがないんだなぁ……もう行き止まり?」
入口からの光もまだ見えるうちに天井の高い広間に出た。壁はおおむね滑らかで、ところどころ風化した紋様が刻まれているが目立った装飾もない。床には細かい砂が薄く積もり、長い年月誰も足を踏み入れていないことがわかる。広間の奥の薄暗くなった一角に崩れた石材が山のように積まれているが、それ以外に目を引くものはない。
「なんだよ、何もねーじゃねーか。期待して損したぜ」
「昔の人が雨風を凌ぐために作った……とかなのかなぁ?」
「う~ん……僕にはもっとほかに意味があるような気がするんだけどな~……」
一見して行き止まりにも思える空間であったが、セオンが壁を手でなぞっていくうちに不審な顔をして立ち止まる。半ば埋もれた石の列にごくかすかに不自然な隙間と形状があったのだ。まるで誰かが気づくことを前提に、密かに仕掛けた何かの痕跡のように。
そのときだった。セオンの脳裏に何かの声が響いた。
「えっ!? なに!?」
セオンは驚いて声を上げる。
「どうしたのセオン?」
ナトリが尋ねるとセオンは不思議そうな顔で振り返った。
「今、なにか声が聞こえたんだ……」
「声? アタシには聞こえなかったけど……アルカはどうだった?」
「俺も聞こえなかったぜ? また石の声なんじゃねーのか?」
「いや、いつもの石の声の聞こえ方とも違うんだ……いつもなら石そのものが語りかけてくるって感じなんだけど、ここは……なんというか、遺跡そのものが語りかけてくるような……」
「意思を持った遺跡、みたいな感じ?」
「うん」
「それで、なんて言ってるの?」
「よくわからないんだけど、奥のほうに呼ばれている感じがする……」
「奥って、遺跡はここで行き止まりだろーがよ」
「そうなんだけどさ……」
セオンはまたそこで再び言葉を止めた。
「待って! また声が聞こえる……うん、うん……積まれた石の中に……うん、わかった」
セオンはそう言ったきり、おもむろに広間の一角にあった崩れた石材の山に近寄り、それをかき分け始めた。
「セオン、いきなりどうしちゃったんだろ……」
「さぁな。あいつには宝の山にでも見えてるんじゃねーの? 俺には崩れた石の残骸にしか見えねーが」
呆然と取り残された二人をよそにセオンは石材の山をひたすら漁り続け、やがてその中から何かを取り出して高々に掲げた。
「あった! これのことだよね!?」
それはどう見てもこの時代の物ではない機械的なブレスレッド。緑の草模様が描かれた宝石をあてがっただけのシンプルなデザインであるが、長い時のなかにあっても風化することなく特別な輝きを保ち続けているような存在感を放っていた。
「お、なにか見つけたのか?」
「見せて見せて!」
アルカとナトリが近づこうとするが、セオンは夢中になったまま気づかず、先ほど立ち止まった不自然な隙間があった場所へと駆けていった。
「ここに填めればいいんだね……?」
セオンはまるで何かの声に導かれるように見つけたばかりのブレスレッドを隙間に填めた。しかしそれだけでは周囲になんの変化も見られなかった。
「なるほど、これを腕に装着してからじゃないと意味がないんだね……?」
セオンはひとりごとのように呟きながらブレスレッドを左手に装着し始めた。
「セオンの奴、さっきからなに一人でブツブツ言ってやがるんだ?」
「ちょ、ちょっと心配になってきたかも……」
アルカとナトリが眉をひそめたときだった。同時にセオンが腕に装着したブレスレッドを壁の隙間に填め込んだのであるが、その瞬間、まるで遺跡そのものが甦ったかのように明るく輝き出したのだ。それまでところどころ淡く光っていただけの鉱石がまるで照明のように輝き、入口からの日光が届かない広間の奥に至るまで昼間のような明るさとなる。
「な、なんだよセオン! いったいなにをしたんだ!?」
「だ、大丈夫なの!?」
突然の出来事に慌てふためく二人をよそに、セオンはまた何かに導かれるように周囲を見渡す。
「あ! ここ、隠し通路になってたんだね……?」
そう言ってセオンは目の前の壁をまるで扉を押すようにして開いた。
「うそ……アルカ? セオンがなにか見つけちゃったみたい……」
「だな。俺たちも追いかけようぜ? あいつ、夢中になって俺たちの存在を忘れてやがる」
アルカとナトリは半分呆れたような顔を見合わせて、隠し通路の奥に一人で踏み込んでいくセオンのあとを追った。
隠し通路の奥はまるで時間そのものが封じられたような静寂に包まれていた。壁面には規則的な紋様が刻まれ、天井から漏れる淡い緑光が中央の台座だけを照らし出している。
そこに飾られていたのはどこかで見たことがあるような原色の緑色をした戦闘スーツ。その装甲は深い緑に鈍く輝き、自然と機構の調和を思わせる有機的な曲線を帯びていた。そして隣には翡翠色の石を埋め込んだ長柄の槍と小型銃が静かに置かれている。
「これ……昨日見た登別ブルーのスーツに似てるけど……」
セオンがそっと手を伸ばすと光る鉱物の粒が共鳴し、空気が微かに震えた──それは、選ばれし者だけが交わす約束のように。
お読みいただきありがとうございます。
「イジュワク遺跡」って、「イワジュク遺跡」みたいに見えませんか?
ところで岩宿遺跡とは群馬県みどり市にある新石器時代あたりの遺跡で教科書にも載ってます。
「みどり市」→「グリーンシ」→「グリンシー」 ……まさかな(笑)
こんな感じで、物語の進行につれ日光の「いろは坂」っぽい所では「イハロ坂」とか登場します(笑)
さて、以下広告です。
拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
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