敵襲
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
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朝方、地下牢の天井付近にある小窓から日の光が差し込む頃、アルカは耳に届く音の正体をぼんやりと考えたあと、急にハッとなって、背中を向けて眠るセオンの肩を揺らしていた。
「おい起きろセオン! なんだか外が騒がしいんだ」
「ん~? どうしたの、アルカ?」
セオンは寝返りを打ちながら手で目をこすって応える。
「寝ぼけてんじゃねー! なんかさっきから変な音や騒がしい足音が聞こえるんだよ」
「変な音? 声?」
そこでようやくセオンも異変に気づいて眉をひそめた。
「この牢屋の中からじゃうっすらとしか聞こえねーが、こりゃあもしかして、地上で誰かが戦ってるんじゃねーか? たぶんこれ、トツィギ兵の持つ銃声ってやつだぜ?」
「そんな! いったいどうしてこんなところにトツィギ兵が!?」
「わからねーけど、考えられる理由や目的は一つ。ここへ攻めてきたってことだぜ?」
「攻めてきたって……それじゃあキーリュは落ちたってこと!? それはおかしいよ! だって昨日、キーリュには登別ブルーが向かったばっかりじゃないか!」
そこへナトリが息を切らしてやってくる。彼女は旅立ちの準備とばかりに大きなカバンに荷物をいっぱいに詰め込んで、両手にも武器となる槍を二本抱えていた。
「セオン! アルカ! 大変なことになったの! 早く逃げよう!」
ナトリのただならぬ雰囲気にセオンとアルカは顔を見合わせる。
「ナトリ、いったいどうしたの? 上で何かがあったの?」
「アタシにも何がなんだか……今朝、いきなりトツィギ兵が攻めてきたのよ!」
「じゃあこの物音はやっぱり……キーリュは抜かれてしまったんだね……?」
セオンは冷静に問う。
「それが違うの……たぶんキーリュへの攻撃はトツィギの陽動作戦だった……トツィギの本当の狙いは南東のキーリュを攻め落とすことじゃなくて、北東のニツコゥ側からここへ攻め込むことだったのよ!」
「そ、そんな……それじゃあ、戦力の大半をキーリュに向けてしまったグンマー陣営は……」
「そうね……少なくともここグリンシーにはもう敵兵と戦えるだけの戦力は残っていないわ」
サッとセオンの顔から血の気が引いていく。
「それじゃあ、僕たちはいったいどうすればいいんだ」
そこへバシッとアルカのツッコミが背中に入った。
「どうすればってセオン……どの道、俺たちは今日グリンシーを追放される予定だったんだ。ここはひとまず逃げるっきゃねーだろ」
「そのとおりよセオン。そのためにアタシはハルナお姉ちゃんから二人と一緒に逃げるように言われてここに来たの!」
「でも、それじゃあハル姉はどうなるのさ!」
「ハルナお姉ちゃんは、グリンシーに残るって言ってた」
「じゃあ僕たちも助けに行かないと!」
「ダメよセオン、わからないの!? 今のアタシたちではハルナお姉ちゃんの足手まといにしかならないの!」
「なんで!?」
「こうなっちゃった以上、またセオンたちに疑いの目が向けられるからに決まってるでしょ!?」
セオンとアルカは押し黙るしかなかった。
「ね? 詳しいことはあと。とにかく今はグリンシーを離れるのが先だよ!」
ナトリの諭すような口調でようやくセオンたちも落ち着きを取り戻した。
「わかった……ここはナトリの言うとおり、素直に三人で逃げよう」
「だけど逃げるにしても、いったいどこに逃げるっていうんだセオン」
セオンは少しの間押し黙ったあとに口を開いた。
「当初の決まりどおりトツィギのニツコゥを目指そう……。色々考えたけど、やっぱり僕はもうグンマーを信用することはできないみたいだ」
「だよな! アカギの命を言葉一つでなかったことにしようだなんて……あいつら、俺は絶対に許さねー!」
セオンの言葉に賛同するアルカは力強く握った拳を震わせていた。
「でもトツィギに向かうとしてもキーリュはもちろんのこと、今は北東のルートからもトツィギが攻めてきているってことだよね? 聞いた話だけど、昨日は二人とも山に潜伏していたトツィギ兵に襲われたんでしょ? もしトツィギに向かう道中でまたばったりとトツィギ兵に見つかっちゃったらどうするの?」
ナトリが心配そうに言う。
「どうにか身を隠しながらトツィギ方面に向かうしかない」
「ああ。それが一番いいだろうな」
セオンとアルカが続けるが、なおナトリは心配そうな表情を崩さなかった。
「じゃあ県境の関所は? グンマーとトツィギの県境を越えるにはどうやったって関所を通る必要があるんだよ?」
「それは……」
言葉に詰まるセオンの代わりにアルカが身を乗り出す。
「セオンもナトリも、今はそんなことをここで話してても仕方ないだろ? それより一刻も早くここから離れようぜ?」
「……たしかにアルカの言うとおりだね」
「じゃあ、細かいことは道すがらにでも考えていきましょう」
そうして三人は牢を出て北東に向かうこととなった。
「じゃあホレ、荷物は俺に任せなナトリ」
アルカはナトリから奪い取るようにカバンを受け取った。
「ありがとう、アルカ」
「なぁに、このなかじゃ俺が一番力持ちだからよ! ……ところでこんなにたくさんの荷物、いったい中には何が入ってるんだ?」
「ほんの少しの旅支度よ。それから、なんの役に立つかはわからないけど、セオンたちが持ってきたトツィギ兵の槍なんかも持ってきちゃった!」
「ははは。ナトリお前、いざってときは戦う気満々じゃねーか。ビビりのセオンよりよっぽど頼りになるぜ」
アルカはそう言ってセオンに槍を一本渡す。
「ほらよセオン。ナトリは俺たちが守るんだぜ?」
「わ、わかってるよ……僕だって、もう戦いくらいできるんだ」
「へへ、その調子だゼオン……お! なんだ、ちゃんとアカギのナイフも入ってるじゃねーか」
「うん……アカギの形見だからってハルナお姉ちゃんに残していこうと思ったんだけど、何かの役に立つかもしれないから持っていきなさいって押しつけられちゃって……」
「そっか……ハル姉が……」
アルカは少し言葉を休めた。
「ならナイフはナトリが持ってろよ。セオンと俺が槍で戦う。だがいざってときはナトリも自分の身は守れたほうがいいからな」
「うん! アタシも二人の足を引っ張らないように頑張るからね!」
ナトリは力いっぱい頷くと、アルカからアカギのナイフを受け取った。
「それじゃあ準備もできたことだし、覚悟を決めていこうぜ、みんな」
「「おー!」」
場を仕切るアルカの掛け声にセオンとナトリは力強く拳を突き上げた。
青空はどこまでも澄み渡り、風はいつもと同じように畑の麦を揺らす。子どもたちの笑い声が遠くから響き、誰かが井戸の水をくみ上げる音が日常の静けさを彩っていく。そんな平穏のただなかにあるはずのグリンシーはもうどこにもなかった。
セオンたちが地下牢のある建物から飛び出したとき、何よりも先に目に飛び込んできたのは村の道を逃げ回るグリンシーの民と、それに剣や槍を向けて追うトツィギ兵の姿だった。
見知った顔が泣き叫びながら、あるいは子どもたちをかばうように身体を丸めて自身を追う銃弾から逃げている。
遠く丘のほうでは土煙が立ち昇り、今まさに誰もが想定していなかったところに敵が攻めてきたばかりといった様相が見て取れた。
「酷い……一方的な侵略じゃないか……」
「くそっ! トツィギ兵の奴ら、なんたってこんな何もない辺鄙な村を襲うってんだ!」
「ハルナお姉ちゃんも不思議がってたな……キーリュならともかく、なんでこんな戦略的価値も低いグリンシーに陽動作戦まで仕掛けたうえで攻めてくるのかなって……」
三人は口々に言った。だが次の瞬間、そんな三人の思いなど待たぬとばかりに村の外れで家畜が逃げ出し、鋭い金属の音が大地に跳ね返った。
「考えるのはあとだ! とにかく今は僕たちも逃げよう!」
三人は頷きあってトツィギ兵の目を避けるようにグリンシーのなかを駆けた。
そうしているうちにもトツィギ兵は規律正しく、無駄のない動きで村を包囲し一つずつ道を制圧していく。火は放たれず血も流されなかったが、グリンシーの空気はたしかに変わった。見えない刃が喉元に添えられたような緊張だけが村中を覆っていた。
セオンたちは物陰に身を潜め、息をひそめながらも視線は東の山道トツィギの方角へと向いていた。
「ああ……ハル姉とこんな形のお別れになっちゃうなんて……」
セオンは最後にもう一度、赤瓦の屋根と見慣れた洗濯物の揺れる路地を振り返った。すぐそこにある日常がもう二度と戻らないかもしれないと悟ったのはそのときだった。
「おいセオン! ボサッとしている余裕なんかねーぞ!」
「早くグリンシーを離れないと! 戻ってきたグンマー兵と乱戦になったらどうなるかわからないんだから!」
アルカとナトリに言われて振り切るように踵を返し、走り出すセオン。
「……やっぱり何か変な感じがする」
走りながらセオンは言う。
「何がだよ?」
「グリンシーは田舎村だし、一面に草原が広がってるだけで防衛には適さない。戦略的価値がどう考えたって低いんだ。だからそこをあえて攻める理由がわからない……そして仮に理由があったとしても攻めるにしてはトツィギ兵が少なすぎる気がするんだ」
「そりゃあグリンシーに兵力がまともに残ってねーからじゃねーの? 取れる土地は取れるうちに取っておこうぜ、みたいにな」
「だけどそんなのキーリュからグンマー兵が戻ってきたらひとたまりもないじゃないか。僕にはまるで、最初からグリンシーの制圧が目的ではないかのように思えるんだ」
「じゃあトツィギの目的はなんだって言うんだよ? 虐殺か、それとも奴隷としての拉致か?」
「それとも違う気がする……さっきから、僕にはトツィギ兵が何かを探しているように見えるんだ」
「探すって……もしかして奴隷として連れ去られた俺たちのことか?」
「それはもう十年も前のことだし、違うんじゃないかな」
「じゃあほかに何があるって言うんだ?」
だがアルカが首を傾げる一方でたしかにトツィギ兵たちは無言のまま村の路地を歩き、鋭い目つきで地面や壁を見回していた。
腰に下げた探査装置のような機械が時折低く唸りながら反応し、小さな光を点滅させる。そのたびに兵の一人が足を止め、地面を蹴り、石畳をはがし、古い井戸の縁を覗き込む。
彼らの動きには無駄がなく、暴力を振るうでもなかったが、たしかに村を調べるための意志だけは冷たく滲んでいた。まるでこの地の奥深くに何かが眠っている事実を知っているかのように。
「おいおい、まさかこのグリンシーの地下に昨日見た巨大ロボの仲間でも埋まってるとか言わねーよな……?」
アルカは引き気味に言う。
「でもそれは否定もできないんじゃないかな……トツィギがこれほどまで手を回して攻めてくる以上、何かがあるのはたしかだろうし……」
「でもこんな『草の緑』しか目に入らねーようなグリンシーに、はたしてそんな大層なモンが眠ってるもんかねぇ……?」
さらに首を傾げるアルカであったが、答えは出ないまま一行は先を急ぐことになった。
グリンシーの草原を抜け、緩やかな傾斜を登るにつれて道の両脇には低木や小さな広葉樹が増え、やがて柔らかな陽射しを葉の隙間からこぼす林へと変わっていく。
ふと前方に見えた物陰に眉をひそめてセオンたちを手で制した。
「待て二人とも! 前方にまたトツィギ兵だっ!」
刹那、草陰に身を隠す三人。そして見つからぬように顔を覗かせながら前方のトツィギ兵の動向を盗み見る。
前方の木陰には数人のトツィギ兵が歩哨のように立っているのが見えた。三人は息を殺し、またすぐに茂みに身を潜める。陽の光がまだらに差し込むなか、風に揺れる葉の陰にまぎれて三人は静かに気配を消した。
「くそ、村の中心部からかなり離れたと思ったが、こんなところにもまだトツィギ兵がいるのかよ……」
アルカが苦しげに言う。
「いや、むしろこの辺りのほうがトツィギ兵を見かける頻度が高くなってる気がするんだけど……」
セオンがポツリとこぼす。
「こんな何もない場所でそんな訳あるかよセオン。どうせこれから村に向かう連中なんだろうぜ?」
「そうかなぁ……? それにしてはこの辺りをよく探ってるようにも見えるけど……」
セオンとアルカが首を傾げたときだった。
「二人とも待って! うしろからも別のトツィギ兵が来てるみたい!」
ナトリの声に驚いて振り返る二人であったが、たしかに後方からもトツィギ兵の鎧が鳴らす音が聞こえてきていた。
「ここはまずい。道を変えよう」
アルカの提案にセオンとナトリは頷き、速やかにその場を離れてトツィギ兵を避けるように三人は進んだ。
朝の光が差し込む林道はまだどこか夜の静けさを残していた。だが不穏なことに、セオンの疑問どおりなぜかトツィギ兵の密度は林の奥に向かうほどに増していく。
三人は理由もわからずその目から逃れるように紆余曲折しながら進むことになったのだが、その足はやがて森の中の開けた場所に出ることになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
実にタイムリーなことに、スーパー戦隊『永久資格停止』の情報が飛び交ってますね。
東映からの正式な報告ではないらしいですが、最悪50年続いた戦隊シリーズ終了もあるとかないとか。
あのスキャンダルが響いたのかな……
さてさて、それはさておき拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
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よろしくおねがいします!










