解放と追放
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
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湿った空気が肌にまとわりつく石造りの地下牢は薄暗く、一つの小さな明かりだけが揺れていた。
苔の生えた壁面には古びた鉄の輪が打ち込まれ、錆びた鎖が床にだらりと垂れている。水のしずくが天井からぽつりぽつりと落ち、静けさのなかに不気味なリズムを刻んでいた。
セオンとアルカは背中合わせに横になり、湿った藁の上で身を寄せ合うしかなかった。
そこへ静かな足音が近づき、ハルナが顔を覗かせた。
「セオン、アルカ。二人とも無事かしら?」
そしてハルナの背中から飛び出すようにナトリも姿を現す。
「二人とも心配したよ~」
セオンとアルカは飛び起きて鉄格子に駆け寄った。
「ハル姉、ナトリ! 来てくれたんだね……その、心配をかけてゴメン」
「ううん? アタシはいいんだけど……」
ナトリは心配そうにハルナを見た。
「ハル姉、すまん……俺、ついカッとなってあのオンドって野郎に飛び掛かっちまった……」
「いいのよ。アルカが私のために怒ってくれたの、わかっているから」
「でもよぉ……そのせいでハル姉は……。あのとき登別ブルーとイザナって奴が来なかったら、今頃あのいけ好かねぇクソ貴族に……」
アルカは悔しそうに舌打ちをする。
「僕たちが乱入したせいで状況を悪化させちゃったよね……本来なら僕たちがハル姉を守らなきゃいけなかったのに、逆にハル姉に守ってもらう形になっちゃった……」
セオンも意気消沈して肩を落とした。
だがハルナはそんな二人に優しく微笑む。
「うふふ、セオンやアルカが気にすることはないのよ……? だって、私からしたら二人きりでアカギくんの仇に近づく絶好のチャンスがふいになっちゃったくらいなんだから……」
そう言うハルナの手にはアカギが持っていたナイフが光っていた。
セオンとアルカは初めて見るハルナの殺気立った目に言葉を失った。ハルナから見ればオンドは恋人の仇にもなるということを改めて思い知っていたのだ。
「その……ハル姉? アカギのことは、何かの間違いってこともあるんじゃないかな……?」
ナトリにはそう気休めを言うことしかできなかった。
しかしそんなナトリにもハルナは気丈に笑って答える。
「ううん。現実から目をそらしてもいいことはないわ? だって、私たちは今、戦争をしているのよ? 大切な人を亡くしたのはなにも私たちだけじゃないの」
「ハル姉……アカギ……」
セオン、アルカ、ナトリはそれぞれ悔しそうに涙を流した。
「ほら、三人とも泣かないで。それよりもまず、やるべきことをやってしまわないと」
「「やるべきこと?」」
セオンたち三人は首を傾げる。そしてそんな三人をよそに淡々とした動作でハルナは地下牢の錠を外し、牢の中へと侵入したのだった。そしてハルナは申し訳さなそうな表情でセオンとアルカに頭を下げる。
「その前に、ごめんなさいね? さっきは私、セオンやアルカに奴隷とか所有物だとか、とても酷いことを言ってしまったわ……」
セオンとアルカは呆気に取られていたが、すぐに顔を見合わせて微笑む。
「大丈夫だよハル姉、そんなのは僕たちだって理由はわかってる」
「ああ、あの場では俺たちを守るためにああ言うしかなかったんだろ? サンキューな、俺たちを守ってくれてさ」
ハルナは安堵の表情を見せつつも、またすぐに表情に影を落とす。
「でも、今回はサウナ様のご配慮でお咎めこそなかったものの、あなたたちはあのオンドに目をつけられてしまった……私ではもうあなたたちを守り切れないかもしれないの。だから、だからね……?」
ハルナはセオンとアルカを鉄格子越しに抱きしめた。すると同時に三人の身体を不思議な光が包み込む。
「これは……?」
「ハル姉? いったい俺たちに何をしたんだ……?」
不思議そうな顔をしている二人を離して、ハルナは笑顔で答える。
「あなたたちとの奴隷契約を解消しました……もちろんナトリ、あなたもね」
そう言って同じくナトリも抱きしめるハルナ。
「ア、アタシも……?」
突然のことにセオンたちは呆然と自分自身の手のひらを見つめたりしていた。
「な、なんで僕たちを解放したりしたの、ハル姉……?」
「なによりもあなたたちに無事でいてほしいからよ。もうここグリンシーはあなたたちにとって安全な土地とは言えなくなってしまった……だけど私は、あなたたちにだけは生きていてほしいのよ。だから、あなたたちはここグリンシーから旅立ちなさい」
セオンの問いにハルナは優しく答える。
「で、でもいきなりそんなことを言われたって、僕たちこのあとどうすれば……」
「なにを言っているのセオン? あなたたちは、もう自分の力で生きていけないような奴隷とは違うはずよ?」
そして今度は少しからかうような口調で、まるで三人の自立を促しているかのようだった。
「ハル姉……じゃあやっぱり今まで僕たちを奴隷にしていたのは、トツィギから連れてこられた僕たちの身柄を守ってくれるためだったんだね……?」
「それは今さらってもんだぜセオン。俺たちは奴隷だったけど、貴族であるハル姉の奴隷だったからこそまわりが雑に扱えるような奴隷でもなかった……そんなこと、前々からわかってたことじゃねーか」
「よそから来たアタシたちがグリンシーに馴染めたのはハルナお姉ちゃんが村のみんなから好かれていたからこそ……それに、アタシたちに十分な教養も与えてくれたよね……」
「ハル姉……」
セオンたちは目を潤ませながら、そろってハルナを見た。
そしてハルナは嬉しくも寂しくも、複雑で柔らかい微妙な表情を見せて告げる。
「三人とも、元気でね。とっても名残り惜しいけれど、いつもの仲良し五人組は今日ここで解散よ……明日の朝、セオン、アルカの二名は、オンド様に不敬を働いた罪によってここグリンシーから追放することにいたします」
それが本心ではないことは明らかであり、ハルナの瞳は必死に涙を堪えていた。
「……わかったよ」
「ごめんな、ハル姉」
セオンとアルカは深々とハルナに頭を下げた。
「それから……ナトリもセオンたちと引き離しちゃ悪いから……一緒によろしくね」
「でも、そしたらハル姉は一人に……」
言い掛けたセオンはそこで言葉を止めた。
「いいの。私は、私にはやらなければならないことがあるから」
静かだが力強いハルナの口調。握りしめて震える彼女の手。三人はハルナの決意を前に何も言うことができずにいた。
やがてハルナはまた穏やかな表情に戻って三人に問う。
「あなたたちは……故郷であるニツコゥでも目指してみたらどうかしら」
三人は互いに顔を見合わせたのちに答える。
「そうだね。今の僕たちにはほかに行くあてがあるわけじゃないし」
「じゃあ、ここグリンシーからは北東を目指して出発することになるのね」
ハルナが言う。
「だろうな。グリンシーからトツィギに行こうとしたら北東の山道ルートか、南東のキーリュを通るしかねぇし」
「でも今はキーリュで戦闘が続いているから南東のルートは通れないもんね」
アルカとナトリが続いた。
「そうだね……だから僕たちの進路は北東の山道ルートってことになる」
「うん……私もそれがいいと思う……三人とも、無事に故郷まで辿りついてね」
ハルナの優しい笑みに三人はつられるように笑顔をこぼした。
「ハル姉……今まで本当にありがとう……僕、ハル姉のこと、大好きだよ」
「あっ! こらセオン! どさくさに紛れて告白してんじゃねー! お、俺だってハル姉のこと……た、大切に思ってるんだぜ! うん!」
「まったく。うちの男の子ときたら……でも、アタシもハルナお姉ちゃんのこと、大好きだからね。ここでお別れしたって、ずっとずっと!」
そんな三人を見てとうとう涙を堪えきれなくなったハルナは笑顔で泣いた。
「みんな……元気でね……元気でね……」
四人はお互いに大泣きしながら抱きしめあった。
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拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
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