深冷蒼龍ノボリュオン
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
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茜色の空を引き裂くように村の上空に巨大な影が現れた。
雲をまといながらゆっくりと姿を現したその機体『深冷蒼龍ノボリュオン』は、蒼い装甲を陽にきらめかせ、背に冷却翼のような長いヒレをなびかせていた。
龍を思わせる頭部からは低く唸るような音が響き、吐く蒸気が空に霧を描く。
その場に居合わせた兵や村の者たちは誰も声を上げず、ただその異形の出現に時が止まったかのように見上げていた。
「な……なんだ、あれは……」
セオンはその姿を見上げ、戦慄していた。
「あ、あれはサウナ殿の機体、深冷蒼龍ノボリュオン……!」
先ほどまで傲岸な態度をとっていたオンドですら恐れ震えるほどの脅威だった。
「「ノボリュオン?」」
セオンやアルカは聞きなれぬ言葉を聞き返す。
「……貴様ら奴隷が知る訳はあるまい。あれが、あれこそが登別ブルーであるサウナ殿の専用巨大ロボ……だがしかし、それがいったいなぜこのような田舎村に……!?」
オンドは震えながら足を一歩引いた。
「あ、あれが……登別ブルー……?」
セオンはことの重大さすらわからぬとばかりに呆然とするだけであったが、そうしている間にノボリュオンはゆっくりと地上へ降り、やがてその中から二人の人物が降りてきた。
言わずもがな片方は青い戦闘スーツに全身が覆われた登別ブルー。
そしてもう一方、登別ブルーを従えるように前を歩く人物は明らかに人間とは違う骨格をしていた。その肌は一部が鉱物のように無機質であり、背には翼のようなものが生えている。着ている衣装も布ではなく、どこか鎧めいた堅苦しさを持っていた。
「あっ! あれはっ! イ、イザナ様ぁっ!?」
その人物を見た瞬間、オンドは倒れ込むように地に膝をつけた。
「イザナ……?」
「さっきまであんなに偉そうにしていたオンドがこんなふうに頭を下げるだなんて……あいつ、いったい何者なんだ……?」
突然の状況にセオンやアルカは呆然としていたが、それはオンドの連れていた兵士たちも同じであった。
「なっ、何をしている者ども! イザナ様の御前であるっ! 頭が高いっ! 控えおろう!」
そのような状況で一人慌てふためくオンドは周囲に向かって喚き散らすように命じた。それを聞いて兵士たちは同じく膝を折るが、それでもセオンたちは呆然と立ち尽くすだけだった。
「おいそこの兵! その生意気な奴隷も解放してやれ」
「よ、よろしいのですかオンド様。こやつはオンド様に殴りかかった者ですぞ!?」
「こんなお見苦しいところをイザナ様にお見せするつもりか!」
完全に動きを制圧していたアルカをも解放しようとするオンドに兵は驚いていたが、オンドはなお厳しい口調で兵に命じ、やむを得ず兵もそれに応じる。
「こ、こらっ! 娘に奴隷ども! お前たちも早く頭を下げないか!」
オンドはさらにセオンたちに対しても命じる。
「そんなこと言われたってなぁ……俺たち奴隷にあんたらお貴族様の事情なんかわかる訳ないだろ」
アルカは先ほどまで抑えつけられていた手足をさすりながら呆れたように言う。
「聞いて見事驚け……! あのお方はイザナ様! このグンマーの最高指導者様にあらせられるぞ! だからお前たちもイザナ様のお怒りを買う前に頭を下げてくれ……!」
それを聞いてセオンたち三人は不思議そうに顔を見合わせる。
「セオン、アルカ。ここは大人しく言うことを聞いておきましょう」
「わかった。ハル姉が言うなら僕は文句なし」
「へっ! オンドの奴がそこまで頼むってなら俺も聞いてやっていいぜ」
そして三人はオンドたちに並ぶように膝を折った。
「それにしてもあのイザナって人……どう見ても人間とは違うような気もするけど……」
セオンが首を傾げる。
「お前たち奴隷はそんなことも知らんのか! その昔、文明が滅びるに至った原因くらい幼子でも知っておろう!」
「もしかして……温泉戦隊バスバスターと戦ったと言われる謎の組織ヘルズスパ?」
「そうだ! 地球の海をすべて温泉に変えたあと、ヘルズスパの方々は次の惑星へと向かい地球を去った……だが、あのお方は絶滅に瀕した我ら人類を保護するため、この地球に留まって下さったのだ!」
「ちょっ、ちょっと待てよ! じゃあなんでそのヘルズスパがバスバスターと一緒にいるんだ?」
「そんなことは知らん! だが勝ったのはヘルズスパだ。敗北したバスバスターの戦闘スーツを支配下に置いていても不思議ではあるまい」
セオンとアルカは不思議そうな顔を見合わせた。
「ということは、僕たち人類はあの人に管理されてるってこと……?」
「な、なんだよ……それじゃあ、あいつはまるで雲の上の存在みたいじゃないか……」
アルカが呆然とこぼす。
「みたいではない! 神なのだ! 頼むからもうお前たちは黙っていてくれ!」
それきりオンドは口を閉ざし、静かに頭を下げたまま動かなくなった。
そしてそこへやって来る登別ブルーのサウナとイザナ。
「イザナ様、よもやこのようなところで拝謁が叶いますとは……」
「挨拶は不要です。オンドさん、これはいったいどういう状況なのですか?」
オンドの発声を遮るように、登別ブルーの仮面の下から若い女性の冷たい声が響く。
「こ、これはサウナ殿……どういう状況か、と言いますと?」
「キーリュを守っているはずのあなたが、なぜこのようなところに兵を引き連れているのか……と、いうことです。とても戦略的な意図があるとは思えませんが……まさか戦局が悪くなったので自分だけ逃げ帰ろうとは考えていませんよね?」
「まっ、まさか! たしかに思わぬ敵の攻撃を受け苦戦しましたが、だからこそ、だからこそなのです。戦況の巻き返しを図るためにも私自らがこうして兵を集めて回り……」
「嘆かわしいですね」
サウナは一蹴する。
「すでに一度徴兵を終えたばかりのこの村から兵を搾り取ったとて、いったいどれほどの戦力が得られましょう?」
「そ、それは……」
「そしてなにより、イザナ様が状況を知らぬとでもお思いですか?」
それを聞くなりオンドはすくみ上がって、地面に滑り込むようにイザナの前に土下座をした。
「もっ、申し訳ございませんでした! イザナ様! こ、このオンド、我が身可愛さからついおめおめと戦場を部下に託し逃げ帰ってしまいました!」
するとイザナがゆっくりと口を開く。
「よい。元より貴様では対応できぬであろう……まさか箱根レッド不在のまま『焔湯覇王カザンリオス』を用いてこようとは……」
オンドはキツく目を瞑り震えていた。
「さ、さすがはイザナ様。す、すべておっしゃるとおりでございます……!」
「オンドさん、そう恐れることはありません。寛大なイザナ様は正直に事情を打ち明けたあなたをお許しくださいました。言いにくいこともありましょうが、以後においても、何事も包み隠さず報告すべきだとお勧めしておきます」
「は、ははぁー! このオンド、イザナ様に全身全霊を込めて忠誠を誓います!」
その様子にセオンたちはただ呆然としているだけだった。
「さてオンドさん。私たちがここへ来た理由ですが、もうお解りですね?」
「ま、まさかサウナ殿がノボリュオンをもって戦っていただけると……?」
「そうですね。敵がカザンリオスを用いてきたというなら、こちらはノボリュオンを当てるしかないでしょう……予想外の出来事でしたが、これはそういうレベルの争いになったということです」
「語る言葉もございません……このオンド、ただただ圧倒的な敵戦力の前になす術もなく……」
「ですが私がノボリュオンとともに来た以上は状況も変わりましょう。あなたはいかがなさいますか? このままマヴァエシに逃げ帰るか、私たちを援軍として引き込んできたこととするか」
「そ、それは兵たちの手前、私のメンツも鑑みて温情をかけて下さるという意味でしょうか……?」
オンドはおそるおそる問う。
「わかりませんか……? イザナ様は無意味な言葉を好みません」
「は、ははぁー! 幸甚の極み! 恐悦至極にございます。このオンド、次こそは必ず、命に代えましても!」
「わかりました。ではすぐにでも兵とともにキーリュに引き返しなさい」
「ハッ!」
セオンたちを置き去りにして進められた会話であったが、そこでようやくサウナの仮面の下の視線がセオンたちに向かった。
「それで? ここではいったい何の騒ぎが起こっていたのですか?」
それを聞いてオンドはまたすくみ上がった。
「そ、それは! とてもイザナ様のお耳を濁すようなことでは」
「よい。話してみよ」
短くイザナが発したあと、かしこまってオンドが口を開く。
「しからば……私がこの村で兵を求めていたところ、このような奴隷二人がいきなり現れ、卑しい言いがかりをつけてきたのです」
「どのような?」
端的にサウナが問う。
「それが証拠もなく、私の装飾品が知人の所有物に似ているなどと……」
そこでセオンはハッと立ち上がった。
「ま、待って下さい! こいつは……! この人は僕の、僕たちの兄にも等しい人を殺して……!」
「黙れ奴隷! 許可もなしに口を開くなっ!」
オンドは声を上げてセオンを制した。
「挙げ句の果てにはこやつの仲間が急に殴り掛かってきたので、兵をもって取り押さえたところでございました」
「くっ! それはお前がハル姉に汚ぇ手を出そうとしたから……!」
アルカが悔しそうに口を開く。
「私はこの奴隷の主人から事情を聞こうとしたまでにございます。なぜなら、この奴隷たちが所持していたのは憎っくきトツィギ兵の武具ではありませんか」
「違うっ! 僕たちは山でトツィギ兵と遭遇したので報告に来ただけです! この武具だって僕たち奴隷の言葉だけよりも信じてもらえるだろうと思って……」
「奪ってきたと言うのか? ろくな武器も持たぬお前たちが、敵兵を相手に」
「そうです!」
「話にならんな……」
オンドは呆れた顔で首を振り、改まってイザナのほうへ言葉を向ける。
「やはりこの奴隷どもは内通者の疑いがあります……信用してはいけません」
「違う! 僕たちは幼い頃からこのグリンシーで育ってきたんだ! 感謝もしてる! 裏切るわけなんかっ!」
「だからどうした? 大体、山で遭遇したと言っていたが、お前たちはいったい何用でそのような場所にいたのか?」
「そ、それは……」
仕事を放り出して石集めをしていただなどと答えられずに言葉に詰まるセオン。
「敵兵と密会でもしていたのではないか? そして我々を欺こうと偽りの情報を持ってきたのではないか?」
「違う……!」
セオンが回答に窮していたところで会話を止めるように割って入ったのはサウナだった。
「わかりました。もう十分です。念のためと思い聞きましたが、どうやらこれは本当にどうでもよい些事のようです。わざわざイザナ様の耳に入れるようなことではありません。あとはあなた方だけで解決するように」
その冷たい口調にセオンはサウナにも食ってかかる。
「これが些事だって!? 僕たちの大切な人が殺されたんですよ!?」
だがそんなセオンをも傲岸に見下しながらサウナは答える。
「奴隷一人の命まで気にかけていられるわけがなかろう……我々は戦争をしているのだ」
「そうだ小僧。それにお前の行いの責任はすべて主人であるこの娘に跳ね返る……よいのか?」
オンドの言葉にセオンがハッとなってハルナを見ると、彼女は今にも泣き出しそうな顔で小さく首を横に振った。
「お願い。もうやめてセオン……」
畳み掛けるように言論を封じられたセオンは自身に向くまわりの視線を見たあと、黙って俯くしかなかった。
「……本来であればこの件の裁定はオンドさんがすべきであろうかとは思いますが、元より今この場にいるべきでないオンドさんにも問題の一端があるようにも見えます。さらにオンドさんは今すぐにでもキーリュへ戻らねばならぬ立場である……そこでどうでしょうか。オンドさんにおいては奴隷の分を弁えぬ言動に腹を立てる気持ちもわかりますが……」
そして意気消沈するセオンを憐憫に見下ろしつつサウナは口を開く。
「ここは一つ、なかったことにしては」
「……ここはサウナ殿の提案に従うべきでしょうな。このオンド、異論はありませぬ」
オンドは伏せたまま静かに語った。
「もちろん、この村娘への手出しもさせませんよ。あなたは一度、戦場から逃亡を図った身。本来どのような罰がくだるべきかをお考えいただければ、今後は厳しい監視の元に置かれる立場となることもわかるでしょう」
「はっ……寛大なるお心遣い、感謝申し上げます。このオンド、この場で起きましたあらゆることに今後一切の報復等を行わぬことをイザナ様の御前にて誓います」
「ふむ……では奴隷の主として、娘のほうはどうか。何か不服があろうか」
「……ありません」
ハルナは静かに、ただ無感情にそう言っただけであり、その場で悔しそうに震えていたのはセオンとアルカだけだった。
お読みいただきありがとうございます。
むかし友人の息子と熱唱したものです。
「聞いてみごと驚け! 獣○戦隊 バモラ! キョウ○ュウジャー! 無礼部員♪」
さて、拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
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