レッスン1:体力を回復しよう
コボルトがぶんぶん振り回す棍棒が俺の腿をかすめる。
膝を机の裏にぶつけたくらいの痛みはあるが、戦闘には支障はない。[耐久力D]スキルのおかげで耐えた俺は、[ウッドメイス]を振り回し返し、コボルトに打撃を与える。
それを何度か繰り返し、最後には脳天を鐘のように鳴らしてフィニッシュ。
「よし撃破。もうこの階のモンスターも危なげないな。攻撃力も防御力も問題なし。経験値は……」
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NextEXP 46 / 50
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あと一息でレベルアップだな。
……ん? そういえば……。
確かウッドメイスを手に入れた時、俺の経験値は17だった。
そこからコボルトを4体、兎を1体倒した。コボルトの経験値は4、兎の経験値は3だから本来ならNextEXp36/50となっているはず。今の経験値はそれより+10、一体ごとに見たら+2されている。
「これまでの違いといったら……このウッドメイスの効果か」
前に持ってた[ベインロッド]は経験値+1の効果が俺の[E]のクラスによって付与されていた。だが新しい武器は+2になっている。
ということは、強い武器であればあるほど経験値増量効果も大きくなるってことだな。
「くくっ、これは新たな装備を手に入れる楽しみが増えたぞ」
もっと強い武器を手に入れたら経験値上昇効果がさらに増すわけだし、探索を進めてぜひ見つけたいね。
そう思い探索を進めていると、ほどなくして上り階段を見つけた。
こういうのは大抵先に行くほど強い装備があるはず。ちょっと三階を覗いてみよう。
そして三階の探索を始めるやいなや、コボルト2体に襲われた。
二階では1体でしかあらわれなかった相手と2対1は結構きつそうだけど、やるしかない。別のモンスターにやったのと同じく片方に攻撃して、もう片方の攻撃は受ける作戦をとろうかと思ったが、考え直した。
コボルトの攻撃は大ダメージってほどじゃないけど、ノーダメージというほどじゃない。それに耐久力もまあまあ高いから、無防備にダメージを受ける時間が長くなってダメージが蓄積する。
それでは勝てたとしても、この後の探索に支障が出かねない。
ここは無理せず防御重視の立ち回りに変更しよう。
間合いを取って、攻撃を受けないことに集中。バラバラに動いている二体がちょうど同時に攻撃して同時に隙が出来るタイミングを待って、そこで一撃入れて再び離れる。
アクションRPGで複数ボスを相手にする時に身に着けた立ち回りをリアルでやるのだ。
たまに事故って攻撃を受けたりもしたけど、じっくりと戦って勝利。
そしてレベルアップ。
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[名前] 灰崎 楓真
[レベル] 4
NextEXP 8 / 100
[所持スキル]
・耐久力D (SP1)
[クラス] E
[装備]
・ウッドメイス
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スキルポイントがあらたに増えたけれど……さてどうするか。
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所持タレントスキル
・持久力E 必要1p ・クラフトE 必要1p
・自然治癒E 必要1p ・(耐久力C) 必要3p
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耐久力をさらにあげようと思うと、さらに2レベル分あげる必要がある。
そして必要経験値は一気に100に爆増した。
この調子だと次は200必要とか言われそうだし、2レベルあげるのは結構遠い。
コボルト達を倒すのにかなり時間がかかった。
攻撃をもらわないように立ち回るとどうしても時間はかかる。しかし攻め重視で行って攻撃を受けると、一撃でやられないにせよダメージが蓄積していってすぐにダンジョンから撤退せざるを得なくなって結局稼げない。
だから今回はスキルポイントを使っちゃって何か取得して強化したい。
となると、選ぶのは。
「んーー……………………[自然治癒E]、だな」
回復は大事、これゲームの基本。
特に今の俺はソロだし、やられた時に助けてくれる人がいないのだから生存の優先度は高い。コボルトに殴られたりウサギに引っかかれたりしたところも地味に痛いし。
腕一本を見るだけでも切り傷擦り傷が結構ある。
一回の戦闘では勝てるとしても何戦もするなら回復は必須。これでいこう。
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[名前] 灰崎 楓真
[レベル] 4
NextEXP 8 / 100
[所持スキル]
・耐久力D ・自然治癒E
[クラス] E
[装備]
・ウッドメイス
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それでは、さらに経験値稼いでいこうか。
とりあえず三階での初戦闘は勝てたので、探索を引き続き行う。
しばらく歩いていると、石造りの回廊に空いた、部屋の入り口のような穴を発見した。
1,2階ではひたすら回廊だけで、こんなものはなかった。ダンジョンの作りも先に進むとちょっと変わるらしい。
中に入ってみると、石の祭壇や石の飾り棚などが壁に沿っておいてある部屋になっていた。しかもその祭壇の上には宝箱が!
ダンジョンの通路を進んだ先の部屋に宝箱が。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
「でも、その前には試練あり、か。今度は少しパワーアップしてるぞ、コボルトズ」
部屋の中にはコボルト2匹がまたもやいた。
しかしこっちはレベルが上がってスキルも追加されてる、試させてもらう。
ゴリ押しはしないが、さっきよりも攻め気味にいく。
コボルトは攻め攻めの俺に棍棒をぶん回して肩に当ててくる。
だがこれでいい。
その後一体を撃破。さっきと違い攻撃重視でいったので傷をそこそこ負ったが、最初に殴られた肩を見てみると――。
お、傷が消えてる。
殴られた直後は服が破れて赤くなり擦り傷にもなっていたが、今見るとなんの傷もなくなっている。
戦闘中に自然治癒したってことだ。[自然治癒]スキルの効果、はっきり目に見えるほど大きいぞ。
「これはいいな。気兼ねなく戦える。はっ!」
俺は気分良くウッドメイスをコボルトの脳天に振り下ろした。
そして戦闘は終了、しかし勝利以上に自然治癒の効果がわかったことが大きい。
実は結構心配だったんだよね、自然治癒系のスキルってゲームじゃよく見かけるけど、効果の大きさはまちまちだから。
最大HPが1000あるのに1ターンに10しか回復しないみたいな、それ意味ある?って感じの自然治癒も世の中にはあったりするし、それだと完全に取り損だから。
しかしこのダンジョンのダンジョンマスターは話のわかる奴だ。
戦闘中に負った傷が戦闘中に回復するほどの治癒力。ヒーラーのいないソロでも十分やっていける。
スキル振りが正解した時って最高に気分がいいよな。
さーて良い気分のまま宝箱を空けますか。
はいガチャリ、と。
宝箱を開けた中から出てきたのは数本の薬瓶だった。
スマホを使って薬瓶の名前を調べると、[ライフポーション]と明らかになった。
これは…………これは!?
「完全に体力回復アイテムじゃないか!」
うっわ。まじかよ。1,2階で手に入らないかったから回復アイテムはレアかと思ってたのに。
だからこそ自然治癒スキルをとったのに。
回復アイテム普通にあるし、しかも10本近くまとめて入ってるってことは別にレアアイテムってこともなさそうだし。
自然治癒スキルとらなきゃよかったああああああああ。