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一人パーティ

 今まさに、俺に向かって巨大ダンゴムシのモンスターが爆速で転がってきていた。それはまるで自動車のタイヤのようで――。


 逃げるか?

 いや、走って逃れられるスピードじゃない。

 迎撃だ。


 接敵までの一瞬で判断しながら両手で蔓の棍棒を握りしめ、転がってくるタイミングをはかり、ダンゴムシに向かって上から振り下ろすように叩きつけ――。

 なにっ!?


「跳ねた!? ぐふっ!」


 モンスターは俺が棍棒を振り下ろす直前、飛び跳ねてきた。


 咄嗟にわきをしめて振り下ろす両手をそのままガードに変えて直撃は防いだが、突進の勢いに負けて自分の腕が顔面にぶつかってしまった。


「いっったっ!」


 まさかジャンプするとは思わなかった、団子虫のくせに瞬発力あるじゃないか。

 だがなんとか耐えた、今度は反撃を……ぐっ、でも今ので腕が痺れて握力が。


「くそ、ちんたらしてると再攻撃が……え?」


 しかしモンスターは追撃はしてこず、丸まっていた体を伸ばしてふらふらしていた。


 これってチャンス?


 あまりにもふらふらしているので今攻めていいのかな……とためらいつつも、俺はモンスターに近寄っていく。次第に腕の痺れも収まってきたので、武器を握り攻撃を加えた。


 だが固い背中にはあまりダメージが入っていない。

 なるほどたしかに虫は背中が硬いやつ結構いるよな、だったら――。


「うわキッショ!」


 下からすくい上げるように蹴っ飛ばしてひっくり返してやると、巨大ダンゴムシのお腹側が露わになり、無数の足をもぞもぞ動かしもがいた。

 その姿のキモさは想像してみて欲しい。いややっぱり想像しない方がいいかも。ごめんもう遅かった?


 キモくてキショいが、ともかく背中に比べると格段に柔らかそうだ。

 ここなら仕留められる、と俺は棍棒を何度も振り上げ、振り下ろした。


 6度目の攻撃で『ゴローーーーー!』と鳴き声を上げてモンスターは光になった。


「ふう、なんとか倒せたか。最初の一撃で高速回転しすぎて、反動でフラフラになったんだな。初手に全ツッパするタイプね」


 なんにせよ無事に倒せて良かった。が。


 腕を見るとぶつかったところが大きな青あざになっていた。殴ってる間も骨に響いて痛かったもんな。折れる寸前だったかもしれない。

 頭の方は腕をクッションにしたから大丈夫みたいだが、それでもかなり痛いし衝撃で少しの間世界が揺らいでいた。


 耐久力スキルがあってもこれだけダメージ受けてしまうとは。勝てたとはいえ油断大敵だな。


 さて経験値はと見ると、NextEXP 4/20となっていた。今のモンスターと戦う前は1/20だったので、経験値3入っていることになる。


「3? マジかー」


 俺はあてが外れて肩を落とした。


 この[ベインロッド]、これでモンスターを倒すと経験値が増えるという効果が付与されているが、最弱の蔓のモンスターを倒した時は経験値が1→2になった。

 だからワンチャン経験値2倍になるんじゃないかと期待してたんだけど――。


 今入った経験値が3ってことは、2倍はありえない。整数を2倍したら偶数になるのだから。つまり、[ベインロッド]は経験値が+1になる装備ってことだ。


 さすがに経験値2倍なんて美味しすぎる話はなかったか、残念。

 まあ経験値1増えるのでもありがたいと思おう。

 3増えるなら今のモンスターをあと6匹倒すだけでレベルアップするのだから。

 

 次のレベルアップを楽しみに、ダンジョンを探索していこう。




 レベルアップしました。(神速)


 あれからダンジョンの探索をしばらく続けてダンゴムシや蔦のモンスターを倒していたら、ほどなくレベルアップの経験値に到達した。


 これでレベル3。

 スキルポイントは予定通り耐久力に振る。

 せっかく2ポイント貯めたし、確かめてみたいこともある。


───────────────────

[名前] 灰崎はいさき 楓真ふうま

[レベル] 3 

 NextEXP 3 / 50

[所持スキル]

・耐久力D

[クラス] E

───────────────────


 ステータスはこうなった。

 次のレベルまでの経験値は50か、結構増えたな。

 あの階段、上った方がいいか?


 そう、探索中に階段を見つけたのだ。

 その時はまずはレベルを上げてからにしようと思って道標だけ残しておいたが、レベル3になったなら行ってもいいな。


 行くかもう少し鍛えるか、どっちにするか……あ。


 だがそこで気付いた、体にずっしりと疲労がのしかかっていることに。


 体の動きが鈍いし、集中力も切れている。

 モンスターと戦うのに、不十分な状態でやるのはさすがに危険だよな。

 今日はここらで引き返すことにしようか。


 回廊をここまで作って来た目印に従って戻っていくと無事に青色の霧がある入り口に到着し、くぐれば一瞬にして俺の部屋へと戻った。


「よし、たしかに戻れた。……って戻れなかったら困るけど」


 入り口の青い霧は出入りしてもそのままベッドの後に残っている。これからはいつでもダンジョンに行ける。


 時計を見ると、いい時間になっていた。

 そろそろ親が帰ってくる頃か。


 こんなに歩いたのは久しぶりだし、今日はご飯食べてお風呂入ってゆっくり寝よう。


「しんどー」と俺はベッドに仰向けに倒れ込んだ。

 スマホを見ると、ダンジョンの中であった[インベントリ]や[ステータス]などのアイコンは消えている。


 あれはダンジョンの中にいるとき限定の機能なんだな。

 こっちでも使えたら便利だったのに、残念。


「しっかし、本当に俺がダンジョンに入る日が来るなんてなー。他人の話をネットで見るだけで、自分の番が来るとは思ってなかった。……そういえばダンジョン内で誰にも他人に会わなかったな。他にもダンジョンに潜ってる人はいるはずだけど」


 そう例えばこの人とか。


 俺は寝転んだままスマホでSNSを見る。

 そこでは玲奈という人が、何週間か前にダンジョンに入ったと書いてあった。そこで蔓のモンスターを倒したとか、他の探索者と会って一緒にダンジョンの探索をしてモンスターを協力して倒したとか、そんなことが何日かおきに書いてある。


 最近はダンジョンのこと書く人が少なくなったからこういう投稿は貴重で、チェックしていたのだ。

 これを見た時漠然と、ダンジョンに入ったら他の探索者もいるんだろうなと思っていたのだが……今日一日探索しても誰とも顔を合わせなかった。


 ダンジョンの中で見た動物は蔓と虫だけだ。

 この玲奈って人もいるわけだから、ダンジョン内に誰もいないってことはないはずだけど、相当広大ってことなのかな。


 ダンジョンに入るゲートはいくつもあるわけだし、俺の使ったゲートと他の人の使っているゲートはダンジョン内での位置が相当離れてるのかもしれないな。普通は自分の使ってるゲートの周囲を探索するから、ゲートが離れていれば会う可能性は低い。


 まあ、一人なら経験値も独り占めできるしそれならそれでいいさ。

 ある意味俺のクラスとちょうどあってる環境だ。


 ただ、他の人がどういう風にダンジョン内でやってるのか、好奇心はもちろんあるけど。


 そんなことを考えながら、俺はベッドの上で伸びをした。

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