レベルアップとスキル振り
Eとかいう妙な名前のクラスがあるとはね。
と最初は思ったけど、ゲームではオリジナルの用語なんてよくあることか。
このダンジョンは明らかにゲームのダンジョンを参考に作られてるし、ダンジョンを作った謎の存在がきっと地球のゲームのファンなんだろう。
さて、せっかく経験値を稼ぎやすいクラスなのだからレベリング――レベリングというのはレベルを上げることなんだけど、せっかくだからそのレベリングをしたいところだ。
そしてレベリングの基本はモンスターを倒すこと。
この大回廊を進みながら、モンスターを探して倒すのがいいだろう。
植物に侵食された石造りの迷宮を俺は歩いていく。
やはり景色は壮大だが、今は景色を楽しむだけでなく、モンスターを見つけるために周囲を注意深く見ながら進む。
すると、
「今度は二体か」
またもや蔓のモンスターが木陰からひょっこり現われた。
今度は二体相手だが、問題はないだろう。
まず一体はこれまでと同じように倒す。
その間にもう一体からは当然攻撃を受けるが、殴られた脇腹はたいして痛くもないので、サクッと耐えてからもう一体も倒して大勝利。
[耐久力]のスキル、便利だな。
一対多だとどうしても全員同時に対処するのは難しいけれど、このスキルがあるおかげで多少の攻撃を受けることを気にせず一匹ずつ倒していける。
これは一人パーティにとってはかなりありがたい。
地味扱いしてスマン。
さて、経験値は?
NextEXP 7 / 10
ステータスから確認すると、こう表示されていた。
今のモンスターを倒す前には3 / 10 という表記だったから、経験値が+4になっている。やっぱり、一匹につき経験値が2入っているな。あの武器を装備すると経験値が1→2になるという推測は正しいようだ。
「経験値が2倍入るとかおいしすぎか? もうレベルアップ寸前だし。もっとモンスターいないかな。……っと、浮かれすぎはよくないな」
大回廊の分岐に差し掛かり俺は立ち止まった。
ここはダンジョン、分かれ道が結構あるので、ちゃんと覚えておかないと帰れなくなる。モンスターよりも危険なくらいだ。
んー、とりあえずこの花を置いておけばいいか。
そこらに咲いている白い花を手折って、来た道にいくつか置いておく。
こうしておけば、引き返す時に花のある方へいけば出入り口に戻れる目印になる。
目印をつけてから分岐を右に曲がり、さらに回廊を進んで行くと、再び二匹の蔓のモンスターがいた。
これを倒せばレベルアップだと今度はこちらから先制攻撃をしかけ、一匹に集中してまず倒す。そしてもう一匹の攻撃を耐えてから反撃する作戦で危なげなく勝利。
これで経験値は溜まったはず。さあ、どうなる。
効果音シャキーン!
光キラキラッ!
うお、めちゃくちゃいかにもなレベルアップ演出だ。
これはダンジョン初の人でもレベルアップって気づくな。
身構えた瞬間俺の体の周囲をプリズムな光が螺旋を描いて昇り、シャキーン!といういかにもな効果音が石壁に大きく反響した。
「これがレベルアップか? わりとあっさりだな」
『レベルアップによるスキルポイント1獲得。ポイントを使用しますか?』
ここで俺は新たな機能に気付いたのだが、スマホの画面を空中に投影することができる。そうすると大画面で見ることができるし、その投影した画面をタップすればスマホをタップしたのと同様に操作もできる。
この機能を使えば正面を向いて情報の閲覧や操作ができるので、スマホを見るために下を向いていて周りからくるモンスターに直前まで気付かないということも避けられる。この機能リアルのスマホにも欲しいな。
というわけで、空中に投影された画面に表示されたレベルアップアナウンスの文字を見て、レベルが上がってスキルポイントが手に入ったことがわかった。
このスキルポイントでいわゆるスキル振りをしてキャラ強化……っていうか自分を強化していくというわけだ。
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獲得可能スキル
・持久力E 必要1p ・クラフトE 必要1p
・自然治癒E 必要1p ・耐久力D 必要(2p)
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続いてこんな画面。
自身のクラスに応じて獲得できるスキルが決まっている。
俺が伸ばせるのはこの四つってことらしい。
この中で耐久力だけDで必要なスキルポイントが2pになっているのは、すでに[耐久力E]のスキルを俺が所持しているからだろうな。
新しいスキルを覚えるだけじゃなく、既存のスキルを伸ばすこともできると。それにはポイントが多めにいると。
おおよそルールは理解したところで、どれにするかを決めよう。
ふと思いついてスキルをタップしてみると、説明を閲覧することができた。インベントリのアイテムと同じように。
それによると、持久力はスタミナが増えダンジョン内での活動時間が延ばせる。クラフトはポーションとかのアイテムを作るためのスキル。自然治癒は傷や体力がオートで回復するようになり、耐久力はそのまま攻撃への耐久力があがるという効果。
現状素材になるようなアイテムを持ってないからクラフトはなし。持久力でダンジョンでの活動時間が増えるのはいいし、自然治癒で傷が回復するのも便利そうだ。
どっちも捨てがたい。
「が、俺はどちらも選ばない」
[耐久力]スキルの効果ははっきりと実感している。
だったら、これを伸ばす方が良い。
なにしろスキル制で一番怖いのは『貴重なスキルポイントを使って覚えたスキルが全然役に立たなかった』時だからね。
結構あるよねそういうこと。
その点[耐久力]ならすでに効果を実証済みなのでそんな心配なく確実に強くなれる。
そのためにはスキルポイントがもう1増えるまで待たなきゃいけないが、急がば回れ、将来的には得をすると信じて、俺は今回のスキル振りは見送ることにした。
「今のところ余裕を持ってモンスターを倒せてるし、今のままでももう1レベル上げることくらいはできるだろう。そうと決まれば、もう1レベル、レベリングだ」
俺はレベリングのためにダンジョンを再び先に進むことにした。
見たことのない植物や壊れた石像を見ながら。
『ゴロロロロ!』
だが出発した矢先のことだった。
甲冑のような体を丸めて激しく転がる虫のモンスターが、回廊の奥から高速で俺を轢き殺そうと爆音とともに転がって来たのは。
「やっぱりスキルポイント使っとけばよかったかな」