第97話 誕生! 改造人間ルナ
広島市内の繁華街・流川で捕獲されたルナ・ベネット。
本人は「やっちゃった♡飲み過ぎちゃった♡」くらいの気分だったが、実際は徳丸さやかによって正体を暴かれ、見事にホストクラブに誘導され、がっちり御用となったのだった。
彼女は──どこからどう見ても「普通の救急車」にしか見えない、けれどよく見ると車体に描かれた十字マークが卍だったり、サイレン音が暴走族っぽかったりする怪しい車両に押し込まれ、広島市内の某所にある地下秘密施設へと送られた。すべてが闇の女王、徳丸さやか生徒会長のシナリオ通りである。
死神(殺し屋)の世界は失敗を許さない。ルナは本来、とっくに逃げるべきだったのだ。だが経験も浅い上に、年下の男子高校生たちにちやほやされる制服コスプレをやめられず原宮高校に留まり・・・遂にストレス発散で広島に繰り出した結果がこれである。
ホストクラブから送り出される時には──。なぜか生徒会副会長・書記・会計の三人がきっちり並んで、真顔で歌い始めた。
「ドナドナ ド―ナドーナ 子牛を乗せて〜」
「ドナドナ ド―ナドーナ 売られてゆくよ〜」
「ドナドナ ド―ナドーナ 荷馬車は揺れる〜」
しかも伴奏にタンバリンとカスタネットまで用意されている。
「やーめーてぇー! 悲しみで胸いっぱいになるからぁー!」
ルナが大泣きすると、さやかは般若の面越しに冷ややかに言った。
「ルナさん、しばしのお別れですわ。飲酒、喫煙、そして夜遊びの停学処分だと思って、しっかり反省しなさいね」
「いやー! 校則違反で人体改造なんて、罰則が重すぎます〜!」
「次に会うときは、わたくしに従順な立派なペットになっていることを期待してますわ。ではまた」
何か反論しようとしたルナの口に、副会長が麻酔薬を染み込ませたハンカチを「スッ」と当てる。抵抗もむなしく、ルナは「んぐぐぐ…」と声にならない悲鳴をあげ、バタリと眠りに落ちた。
◇◆◇
謎の救急車は、まるで幽霊のように街をすり抜け、秘密施設へと直行した。その後ルナは、改造手術前の意味不明な検査を一通り受けさせられた。血液採取、骨格スキャン、そしてなぜか「利き手はどっちかテスト」で延々と握力計を握らされるなど──やけに無駄に思える工程ばかり。
そして気づけば──捕獲から一日以上が経過していた。
ルナが次に目を覚ました時、彼女は冷たい金属の手術台に拘束されていた。両手両足は革ベルト、額には謎の電極。周囲には、怪しさ満点の医者や看護師がずらりと並んでいる。マスクの奥から不気味な笑み。器具のトレーには、どう見ても「手術用」ではない工具──電動ドリルやペンチまである。
「あのー、皆さん。わたし健康体なんですけど……手術なんて必要ないですよぅー。今からでもキャンセルできません?」
弱々しい声で必死に訴えるルナ。だが、その言葉を吹き飛ばすように、一人の女医がズイッと前に出てきた。
「はっはっはっ! なかなか元気があってよろしい! 手術のしがいがあるね~!」
声は豪快、目はギラギラ。手には何故かメスではなく巨大なハサミを持っていた。
「やめろー! 謎の組織〜! やめないとぶっ飛ばすぞー!」
ルナは身体をくねくねと捩じらせ、手足をバタバタと動かそうとするが、完全に拘束されているのを確かめるだけだった。
「もう観念したら? 大丈夫よ。わたし、成功するから」
「手術自体が嫌なんだけどー!」
絶叫するルナ。そのとき、後ろで控えていた助手が急にドラマのナレーターばりに解説を始めた。
「安心したまえ! このお方は組織の改造人間開発部門のエース、泥門まり子先生だ! 通称『ドクターXYZ』! 数々の難手術を手掛け、その成功率は……まあ七割!」
「七割ぃ!?……三割はどうなるのよ!? 燃えるの!? 爆発するの!?」
ルナが目をむいて叫ぶが、医師団は意に介さない。むしろ「よくある質問だな」と頷き合っている。
その時──泥門がにやりと笑い、突如として姿を変え始めた。背中からニョキニョキと二本、わき腹からも二本……元々の両手と合わせて合計六本の腕が生えている。白衣の袖を突き破り、まるで阿修羅像のごときシルエットに。
「ひぃー! 化け物!」
「ふふふ……腕がいっぱいあった方が、手術の効率がいいのよ。私は最新のオペを3倍の速さで出来るの」
さらに顔には目が三つ、四つと増殖し、視線がルナをぐるりと取り囲む。ルナは思わず「もうやだぁぁー!」と絶叫し、そのまま気絶してしまった。
「あら? ちょうどよかったわ。まあ、これから麻酔するんだけどね(笑)」
無慈悲な声が響く。こうして──ルナの改造手術は強制的にスタートしたのだった。
◇◆◇
一週間後。ルナが目を覚ますと、高級自家用車の後部座席に座っていた。革張りのシート、甘い香水の匂い、窓の外には呉へと続く広島呉道路から見える瀬戸内海。その隣には──お多福のお面を着け、姿勢よく脚を組んで座る徳丸さやかの姿があった。
「おはようございます、ルナさん。ご気分はいかがですか?」
柔らかくも冷たい声。ルナの背筋にぞわりと悪寒が走る。
(この娘を殺せば、私は自由に──!)
反射的にそう考え、指先に力を込める。だが次の瞬間──口から飛び出したのは、まったく逆の言葉だった。
「おはようございます、さやか様」
自分の声なのに、どこか機械的で抑揚がない。ルナは内心で絶叫した。
「ほほほほほ……素晴らしいですわ。本来の心とは別に、私への絶対的忠誠がプログラミングされた補助頭脳AIが機能しているみたいね」
さやかが満足げに頷く。お多福の面の口元が、薄ら笑いを浮かべているように見えた。
「そうみたいですー。私は如何なるご命令にも従う下僕ですからー」
ルナの口が勝手に動き、調子のいい返答をする。心の中では「嫌ー! 逆らいたいー!」と泣き叫んでいるのに。そのギャップが、むしろ恐怖を倍増させていた。
「では、今日は鹿田家(ホームスティ先)へ送り届けてあげますわ。退院祝いをしてくださるようよ」
「はい! ありがとうございますぅ」
(ちがうちがう! そんなの望んでないー!)と心で叫ぶが、声帯は従順なペットモード。
「あなたのお披露目は後日ね。そうそう、ハロウィンとかどうかしら?」
さやかが軽く言うと、ルナの唇は即座に笑顔を作っていた。
「はいっ。必ずやお役に立ちますから~」
(やめろぉぉぉぉ! 私はカボチャの飾りじゃないんだよー!)
「まあ、大して期待してませんけど……改造費くらいは働いてくださいね」
何気ない一言がルナの心を容赦なく突き刺す。背筋に冷汗、胃の奥がきゅっと縮む。
(ううっ……ほんとに改造されちゃったんだぁぁ! えーん!会長の言葉に逆らえない!!)
車は静かに走る。満足げにお面の下で微笑む徳丸さやかと、外見は全く変わらないが確かに何かが変わったルナ・ベネットを乗せて──。原宮高校に、新たな火種が投下されようとしていた。
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