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第94話 響け! フォルティシモ

 太平洋の最終防衛ライン突破まで──残り一時間。


 いよいよ、僕ら一年A組の出番が巡ってきた。指揮を執るのは、日美子様の秘術で霊能力パワーをマシマシにしている長谷光葉。伴奏を担うのは、ムー帝国の大神官の魂を宿したアンドロイド教師、波多見遥。


 そしてクラス全員は「表向きはカラオケに行くぜ!」という合言葉を胸に一致団結していた。全員の手のひらには、黒マジックで描いたムー帝国の印「神の眼」。それは臨時に“ムー神官”としての霊的な資格を与える証だった。


「ムー帝国の歌を歌うときは、両手を上げて神の眼を観衆に見せながら歌うように。それで霊的なパワーが数倍増すからね」


 波多見先生が舞台袖でささやく。光葉ちゃんは真剣な目で頷いた。


「了解です! この紋章って、太平洋のあちこちの海中遺跡に刻まれてるヤツですよね。やっぱりムーのだったんだ……!」


「ふふふ……そうなのよ。ただのサインじゃないの。心と心の回路が開くの。いい? 光葉さん……あなたなら感じられるはず。私も歌うから、それを太平洋の大海獣へ届けて!」


「はい! きっと届けてみせます!」


「光葉ちゃん……頼んだよ。他に何か注意はありますか?」


 僕が尋ねると、波多見先生はすっと微笑んだ。


「あと、練習中に何度も言ったけど、みんなで『海を守る』って念じながら歌ってほしい。その約束がないと、大海獣は納得しないから」


「ああ、それは任せてくれ! 海を愛する俺が請け負うぜ。きっと海を守るってな!」


 古新開が胸を叩いて力強く叫ぶ。その声に、緊張していたクラスの空気が少しだけ軽くなった。


「じゃあ、行きましょう。失敗は許されないわよ!」


 光葉ちゃんの号令に、クラス一同「おう!!」と声を合わせる。その掛け声が、舞台裏に張り詰めた勇気の火を灯した。


 ◇◆◇


 僕らはついに──舞台へ。


 まずは肩慣らしの課題曲。十日間の猛特訓のおかげで、これも完璧な仕上がりだった。課題曲が終わり、いよいよ自由曲へ。ホールに波多見先生のピアノが響き渡る。その旋律は単なる伴奏ではなく、まるで神に捧げる鎮魂歌のような荘厳な響きだった。


 僕らの歌声がそれに重なり、神事めいた神聖な空気が客席を包み込んでいく。両手を掲げ、「神の眼」を観衆に見せる。するとその印から淡い光のような霊的な力が滲み出し、ホール全体を覆った。不思議な催眠効果が働いたのか、原宮高校の全校生徒が涙を浮かべ、知らないはずのムーの歌を口ずさみ始めていた。


 ムー帝国 望郷の歌


 第1番

 悠久の時の流れに 沈みし光の都

 ああ深海の底に響く 懐かしき故郷の歌よ

 ムー ムー 大ムー帝国


 → 第一番、静かに切なく、祈るように。観客の心をそっと掴む。


 第2番

 海流は穢れ淀みゆき 海底山脈は怒りを秘める

 汝らが知るべきは 深き慈愛と魂の調べ

 ムー ムー 大ムー帝国


 → 第二番、声が膨らみ、力強さを帯びる。歌う者の決意と怒りが混じり合う。


 第3番

 響け人類の天を越え 我が故郷の調べ

 帰れ眠りし理想郷へ 共に歌わん大いなるムーを

 ムー ムー 大ムー帝国


 → そして第三番。全員の声が爆発するように一つとなり、ホールの壁も震わせるフォルティシモ!


 歌声は強く、弱く、重なり合って一つの波となり、心と心を結びつけていく。光葉ちゃんの霊能力がそれを増幅し、太平洋の大海獣へと届けていた。


 ◇◆◇


 その頃、深海を進む大海獣。


(なんやなんや!? これは……ムーの望郷の歌やんけ。大神官とムーの民が歌っとるんかいな?)


 巨体がぴたりと止まる。脳裏に、かつて栄えたムー帝国の光景が鮮やかに蘇った。宮殿、祭壇、海に生きた民の笑顔……。


(おおぉー、この歌声はわしにムーに還れちゅーとんかい。人類をシバくのを止めるかぁ……)


 大海獣は迷った。ここまで来て、何もせずに帰るのは惜しい。だが、その時──歌に紛れて、強烈な思念が混ざってきた。


 『俺は海が好き〜!』(古新開)

 『僕が環境問題頑張ります!』(靖章)

 『私って、ムー帝国LOVEですからー!』(光葉)

 『あぁー、早く終わらせてカラオケ行きたい~』(波多見先生)


 その声を聴いた大海獣は、笑うように、だがどこか底知れぬ眼差しで心の中につぶやいた。


(ふーん。まあ、人類にもええやつおるんかな。……けど忘れるなよ、ほんまは怒っとるんや。笑いながら手加減してるだけやぞ。よっしゃ……わしもムーに帰って、もっぺん昼寝すっか。人類よ……もう少しだけ猶予をやるわ)


 そして巨体をゆっくりと回転させ、進路を百八十度反転。南へ──。その後、大海獣ジュゴンは日米の海軍を振り切り、探査不能な深海……大海溝の奥深くに潜り……やがて姿を消した。

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