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第92話 大海獣現る

 ムー大陸──かつて太平洋上にあったとされる謎の大陸。


 高度な文明が栄え、世界を支配していたとも言われる超大国ムー。しかし、伝説によればその大陸は地殻変動によって深く海底に沈んだという。太平洋各地では超古代文明の痕跡を求めて探究が続いている。


 その大海獣は、かつてムー帝国の守り神のひとつ。帝国の科学の叡智によって生み出され、海の覇者として恐れられた存在だった。 しかもその頭脳には、歴代皇帝の中でも「正義感と公平さ」で知られた皇帝の魂が宿っていた。


 ──そして今、約一万年の眠りから覚めた大海獣は直ちにサーチを開始する。見えてきたのは、汚れ切った現代の海。海洋ゴミ、原油流出、乱獲の爪痕……。


 大海獣は激怒した。必ずや、この邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの人類を除かねばならぬと決意した。 大海獣は海の守り神。かつては世界の海を泳ぎ、鯨たちと遊び、悠久の時を平和に過ごしてきた。だが邪悪に対しては、誰よりも敏感であった。


(なんやねん、この海洋汚染に環境破壊……。わしらの海が泣いとるがな……! 一言モノ申して、言うこと聞かへんなら、ムーの恐ろしさを思い知らせなあかんやろ。ああぁーかったるい。目覚めてすぐにこれかいな。──まあ、大神官も堪忍袋の緒が切れたっちゅーことやね)


 そうつぶやくと、大海獣は北を目指す。ゆっくりと──しかし確実に。目指すは、日本。そしてムー帝国のかつての大神官・波多見遥。


 ◇◆◇


 偵察衛星がその影を捉えてから数日。


 日米合同艦隊は、謎の物体に対応するため急遽編成されていた。対象は正体不明。だが、世界のどの国も「自国の兵器ではない」と表明した以上、これは敵国との戦争ではなく「未知との遭遇」。そう位置づけられ、日本はしぶしぶながらアメリカとの協力体制を敷いたのだった。


 日本の海上自衛隊の対潜能力は、世界でも屈指──いや、世界一かもしれない。過去にシーレーンを絶たれて滅亡寸前まで追い込まれた教訓から、海自は「潜水艦は絶対に見つけて叩き潰す」を合言葉に装備と練度を積み上げてきた。最新式の通常型潜水艦艦隊と護衛艦群、それにアメリカ第七艦隊が連携して、深海を行く謎の物体を追跡していく。


 ──僕ら原宮高校で「ムーの歌」を必死に練習して三日目のころ。


 海自の最新鋭潜水艦「げいげい」のソナーが、グアム島沖で“かつてない巨大な潜水艦?”を捕捉!

 対潜哨戒機の報告も重なり、アメリカ第七艦隊の空母「オバマ」が直ちに急行する。次々に発艦する攻撃機。


 提督の叫びが艦橋に響く。 「ファイアー!!」日米艦隊の一斉攻撃が始まった。爆雷、魚雷、対潜ミサイル──あらゆる兵器が火を噴く。炸裂の連続が海を震わせ、巨大な影に命中するたび、白い水柱が噴き上がった。


 しかし。大海獣の巨体はびくともしない。分厚い皮膚は衝撃を吸収し、ミサイルも魚雷もまるで豆鉄砲だ。


(痛ない痛ない! こそばゆいわ〜。あんたら小魚か? そんなんで海守れると思とるんか? ……まぁ、努力は買うけどな)


 大海獣はくすぐったそうに身を揺らすと、突如として深海から浮上を開始する。やがて──。轟音とともに海面を割り、巨大な影が現れた。海水は壁のように押し広げられ、艦橋の窓を白く染める飛沫が叩きつける。レーダーに映る巨体に、艦橋の空気が凍り付いた。


「なんだ!? あの姿は……ジュゴン……だと!?」


 誰かが叫ぶ。そう、姿はジュゴン──だがその体長は1000m。空母「オバマ」でさえ、その半分以下にすぎなかった。ジュゴンはのっそりと空母を見下ろすと──突如、滑るように追いかけ始めた。


「な、なに! めっちゃ速い!」


(おっほぉ〜! このデカい鉄の箱船、バランスゲームにちょうどええやんけ)


 艦隊は慌てて散開。イージス艦から対艦ミサイルが放たれるが、巨大ジュゴンはどこ吹く風。やがて一隻の駆逐艦を追い詰め、前足(?)でつん、と転がす。


(ほれ、指先でコロコロ〜……あ、転覆してもーた。すまんの〜!)


 駆逐艦が傾き、海面に煙が上がる。艦橋から「すまんの、じゃねえ!」という悲痛な叫びが漏れるが、もちろんジュゴンの耳には届かない。ジュゴンは悪びれもせず、次の獲物を見つけて追いかけていく。


(こらー!人類!もっと遊ぼうや!逃げるなやー!……でも、ほんまは怒っとるんや。遊んでるうちに、お前らが海をどうしたか考えてみぃ)


 ◇◆◇


 太平洋のど真ん中で──。日米合同艦隊と巨大ジュゴンによる、前代未聞の“鬼ごっこ”が繰り広げられていく。そして大海獣ジュゴンは心の奥で呟く。


(……こいつらを楽しくシバいたら次は地上や!覚悟しときや、人類)


 人類滅亡まで、残された時間は一週間。鬼ごっこは始まったばかり。


 頑張れ一年A組!! ──僕らの歌声は、まだこの巨獣には届いていなかった。

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