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第89話 合唱コンクール・自由曲決まる

 202X年秋・・・謎の海底火山の大噴火により、南太平洋の海は世界に牙をむいた。水蒸気爆発に巨大な噴煙、そして津波が太平洋沿岸に向けて放たれた。だが──本当の脅威はそれだけでは終わらなかった。世界の災害を監視する偵察衛星が捉えたのは、海底火山の近くから浮上した“常識を超えた巨大物体”の影。深海から姿を現したそれは、全長約1000m。動物型の何かがゆっくりと北上を開始していた。


 アメリカ海軍の空母艦隊。海上自衛隊の護衛艦隊群。中国海軍太平洋艦隊。ロシア極東艦隊。大国の軍事力が次々と迎撃態勢を取るが、それを無視するかのように──大海獣は悠然と海中を進む。まるで、何かに導かれるように。


◇◆◇


 原宮高校の昼休み。朝一限目で校内を大混乱に陥れた波多見遥(=アマビエ様)だったが、なんとか午前中の授業は形だけでも成立していた。幸いにも、超音波歌唱による恍惚状態は記憶にほとんど残らないらしく、生徒たちも「なんかぼーっとした?」程度で済んでいるようだ。


 だが──SF超常現象研究会の部室は別だった。関係者全員、額を押さえ、胃を痛めながらの緊急会議である。


「というわけで、波多見先生の目覚めの歌によって、遠くムー大陸の水没した古代都市に眠っていた大海獣を目覚めさせちゃいました」


 僕が説明すると、光葉ちゃんは目をきらきら輝かせた。


「やったね、ヤスくん! 生きてるうちにムーの超古代文明を見られるなんて、超ラッキーだよ!」


「そお? そんなに喜んでもらえるなら、目覚めさせた甲斐があったわ〜」


 波多見は嬉しそうに微笑む。だが、青山先生は机を叩き割りそうな剣幕で詰め寄った。


「こらこら! そいつが人畜無害なら百歩譲って褒めてやってもいい! だが、実際はどうなんだ!? 人類の脅威にはならんのだろうな!?」


 その表情は般若そのもの。波多見先生が慄きながら呟く。


「青山先生……顔が怖いです」


「もう一度だけ聞いてやる。このぽんこつアンドロイド!私に壊されないうちに答えるんだ」


 空気が凍りつく。波多見は顎に手を当てて少し考え──さらりと爆弾を落とした。


「そうねぇ……あいつは海獣型の自律戦闘型ロボット兵器なんだよね。意思も自我もあるから、簡単には止まらないし、今の海洋汚染やら見たら、きっと激怒して人類に攻撃をしてくると思うなぁ」


「やはりそうか……! ああああああ……終わりだ! 私のキャリアも、人類の未来も終わったわ〜!」


 青山先生、床に沈没。


「先生、落ち着いて! まだ何か手があるんじゃないかしら?」


 ジェシカが肩を抱くように声をかける。


「全世界の海軍が一緒に立ち向かえば沈められるとか?」


 マリナが提案するが、古新開が即座に首を振る。


「可能性は無くはないが、日米中露が仲良く手を組むとは考えられないぞ」


「うーん……今の人類の通常兵器じゃ太刀打ちできそうにはないわね。それに、下手に攻撃すると怒って自爆するわよ」


 波多見の爆弾その2。部室にどよめきが走る。


「その……自爆するとどうなるんですか?」


 おずおずと麗が尋ねる。


「高さ百メートル以上の巨大津波が全世界に押し寄せるかな」


 僕の補助頭脳AIが即座に計算を叩き出す。


『ぴこーん! 太平洋沿岸のすべての地域が、内陸部の数十キロにわたり水没します!』


「未曽有の壊滅が来るみたいだ……」


◇◆◇


 場の空気が一気に暗転する中、光葉ちゃんが真剣な目で問いかける。彼女の声は、今にも泣き出しそうな空気を切り裂くように響いた。


「波多見先生! どうにかして静かにお帰りいただくいい手はないんですか?」


 皆の視線が一斉に波多見へ集まる。彼女は腕を組み、目を閉じ──わざとらしいくらいに沈黙を長引かせた。ごくりと息を飲む僕ら。部室に時計の秒針の音が響く気さえする。


「あるにはあるけど……」


 その一言に、全員が身を乗り出す。波多見は腕を組んだまま、演説前の政治家のようにわざと間を置き、やがて重々しく口を開いた。


「ムー帝国の神官が歌う望郷の曲を聴かせれば、きっと元の住処に帰ってくれるはずよ」


 部室がどよめいた。超古代文明の単語が、あまりにあっさり飛び出したせいで、逆にリアリティが増す。


「波多見先生! 今からでも、その神官たちに命じて歌を歌ってもらえませんか?」


 ジェシカが身を乗り出し、藁にもすがる思いで問い詰める。だが──波多見は、肩をすくめて笑った。


「それがねぇ……ムー大陸の沈没と同時に、みんな人工冬眠中だから、誰一人として音信不通だったりするの」


「「くっそー! もう手はないのか……」」


 僕と古新開が同時に叫ぶ。絶望が頭から爪先まで一気に染み込んでいく。その瞬間、部室の空気はまるで重油のように濁り、全員が沈黙した。


 ──だがその時。


 光葉ちゃんの身体がぱっと金色に輝いた。部室の空気が一変し、眩い後光とともに、彼女の守護霊・神原日美子が姿を現した。


「みんな、落ち着け! まだ手はあるぞ!」


 その力強い声に、部室の全員が思わず顔を上げた。


「日美子様! どうしたらいいですか!?」


「私たちにできることなら、何でもやるよ!」


 ジェシカとマリナが前のめりになる。


「ふっふっふっ……。俺と白岳が大海獣とやらに潜り込んで、動力ユニットをぶち壊すのか!?」


 古新開が拳を握り、目をぎらつかせる。


 (え? 僕も行くの!?)


「古新開は相変わらず物騒じゃな。まあ、みんな聞け。わしらの歌で鎮めるのじゃ!」


 神原日美子は堂々と告げ、まっすぐに波多見を指差した。


「ここにいる波多見遥の魂は、まだ固くムー帝国と繋がっておる。波多見の演奏で、我ら一年A組がムーの歌を素晴らしいパフォーマンスで歌いきれたら、大海獣のハートにも響くはずじゃ!」


 一瞬、息を呑む沈黙。だが──その場にいた全員の瞳に、かすかな光が灯った。


「うーん……。じゃあ、合唱コンクールの自由曲をムーの歌にすればいいかな?」


 マリナがぽつりと口にした瞬間、空気が変わった。あり得ない提案のはずなのに、不思議と全員の心にスッと落ちてくる。


「その手があったか!」


 僕の顔がぱっと輝く。胸の奥で、閉ざされていた扉が開いたような気がした。


「ダーリン、超古代文明の歌なんて私たちが歌えるかしら?」


 ジェシカは腕を組み、不安そうに眉を寄せる。それでも、その声には微かな期待が混じっていた。


「よーし! やるからには努力あるのみだぜ!」


 古新開が机を叩いて立ち上がる。瞳は真剣で、その姿はまるで戦場へ赴くヒーローのようだ。


「じゃあ〜! 今日の放課後から特訓するわよ!」


 波多見は、にっこりと教師スマイル。まるで「次の宿題よ〜」と言うくらいの気軽さだ。だが、その背後にはムー帝国の残響と、大海獣の影がちらついているのを僕らは知っている。


 麗はその光景を横目で見ながら、底知れぬ不安と、言い表せない希望を同時に覚えていた。


(この人達ったら……人類の命運を、こんなにあっさりと、ゆるーく決めてくだなんて……!)

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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