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第85話 ときめきの家政婦さん壱号

 白岳研究所の地下中央ホール。


 光葉ちゃん、いや――神原日美子様の「悪霊退散パーンチ!」によって、父・康太郎はまるで憑き物が落ちたような顔をしていた。しかしそれだけで終わるはずもなく、耳たぶをぎゅーっとつままれたまま、父は日美子様の怒声に晒されることになる。


「康太郎! 貴様、ええ加減にせいよ! 側に聖母オーラのスヴェトラーナがおったから手遅れにならなかったが、もう少しで邪悪な魔王のオーラに飲み込まれておったのだぞ!」


 鬼の形相で耳を引っ張られながら、父は情けない声で叫ぶ。


「痛い痛い痛い! すいませんでした! もう悪ふざけで空間を捻じ曲げたりはしませんから!」


「ちゃんと封印するか?」


 日美子様が眉を吊り上げて問い詰めると、父は涙目で即答した。


「はい! 許してちょんまげ!」


「この男……もう二、三発ぶん殴っておくかのう」


 目を細めて呟く日美子様に、僕は思わず食い気味に声を上げる。


「日美子様! 絶賛よろしくお願いします!」


 拳を握って応援してしまったその瞬間、割って入ってきたのはマリナだった。


「日美子ちゃん~、康太郎パパを許してあげて! ママと私でちゃんと更生させるからー!」


 両手を広げて懇願するマリナの声に続くように、スヴェトラーナ博士が鋭く言い放つ。


「あなた! 真剣に謝りなさい!」


 ビシッと指を差され、父は観念したように頭を下げた。


「わかったよー。もうしません。すいませんでした……」


「ちっ! 妻子に免じて今日は許してやるわ。しっかり反省せい!」


 渋々といった様子で、日美子様はようやく制裁の手を止め、静かに光葉ちゃんの身体の奥へと戻っていった。


 次の瞬間、ぱちりと瞬きをした光葉ちゃんが、まるでスイッチが切り替わったかのようにいつもの穏やかな表情に戻る。


「あ! ヤスくんのお父様! はじめまして~、長谷光葉です。よろしくお願いします!」


 全く別人のような彼女の挨拶に、父は一瞬目を丸くし、それから破顔した。


「おおっ!? 君が光葉ちゃんか! モニター越しでも可愛かったけど、実物は桁違いだね!」


「てへへ、照れますわ!」


 頬を赤らめながら笑う光葉ちゃん。


 ◇◆◇


 微妙に和んだ空気の中、突如として会話に割り込んできたのは、あの人体模型──アマビエ様だった。


「あのー、こちらで私の依り代となる身体を見繕っていただけると聞いて参上したのですが……」


 相変わらずの異様なビジュアルで、しれっと本題を突く。


「おお! そうですな! ふふふふ、この天才にお任せあれ! 話を聞いて、既に用意してますぞ!」


 ドヤ顔の父が胸を張って叫ぶと、隣のスヴェトラーナ博士も肩を竦めながら笑う。


「まあ、期待していいかしら?」


「では皆さん、こちらへ!」


 父と博士に導かれ、僕たちはホールの奥へと続く廊下を歩き出した。長く続く無機質な通路を抜け、到着したのはサイボーグ研究室に隣接した“特殊格納庫”だった。その中央には、メイド服を着た美女のアンドロイドが静かに立っていた。まるで眠っているかのように目を閉じたその姿は、人工物とは思えないほど人間的だ。


「こちらが私の自信作、『家事用アンドロイド・ときめきの家政婦さん壱号』です! ご覧の通り、外見は実際の人間から培養した生体部品(外皮)を使用しており、全く人間と変わりません!」


 胸を張る父の横顔からは、並々ならぬ自信がにじみ出ている。その説明に、僕たち一同がどよめいた。


「内部の骨格や駆動装置などは全てマシン! まあ、某映画に出てくる人型殺人アンドロイドを想像していただければいいでしょう! 今なら充電ユニット&バニーガール衣装もお付けして、破格の十億円でお譲りできますよ!」


 さらなる情報の濁流に、僕の頭が軽くクラクラする。


「うーん……高いニャ」


 福浦が呆れたように鼻を鳴らす。


「でもいい感じじゃない? 耐用年数はいかほどかしら?」


 アマビエ様の質問に、父がすかさず答える。


「メンテ次第で百年以上は大丈夫かと。アフターフォローもうちでやりますよ」


「お試しに一回、憑依してみていいですか?」


「それもそうだニャ。ちゃんと動くか試すニャ」


「霊体と科学の融合がどうなるか……是非見せてほしい!」


 それぞれの期待が交錯する中、父は満足げに頷き、許可のジェスチャーを送った。その合図と同時に、アマビエ様の霊体がふわりと人体模型から抜け出す。半透明のその姿は、人魚というより、まんま半魚人だ。一応、アマビエ様の名誉のために言っておく。──カワイイ半魚人である、と。アマビエ様の霊体が、ゆっくりと「ときめきの家政婦さん壱号」へと溶け込んでいく。


 ◇◆◇


 しばらくの静寂ののち──アンドロイドがぱちりと目を開き、生命感を帯び始めた。


「うんうん、いい感じよー。思い通りに体も動くわ。……あれ?これ、なんだろう?」


 アマビエ様の霊体がアンドロイドの内部の何かのスイッチを押したのか、次の瞬間──口から、轟音と共に超高熱の火炎が噴き出した!


「うわぁぁぁぁぁぁぁ! 危ないっ!!」


 間一髪、僕は光葉ちゃんを抱きかかえるようにして横っ飛びに避けた。壁に直撃した火炎は、特殊素材でコーティングされた金属板を焦がし、赤黒く変色させていた。


「はっはっはっ! どうです? 六千度の熱線を放つ、この攻撃力!」


 まるでプレゼンのように胸を張る父。


「こっちはなんだろう?」


 今度は両手を前に出すアマビエ様。その手のひらから、超高速の電磁弾レールガンが放たれた。鋭い轟音と共に、弾丸が壁に突き刺さり、そのままめり込んでいく。


 『ピコン! こりゃ陸自の主力戦車くらいの装甲なら貫通しますよ』


 僕の補助頭脳AIが、例によって能天気な声で分析をしてくれる。……いやいや、これ本当に家事用なのか?


「うん……気に入りました」


「「えっ!?」」


 即決するアマビエ様と、絶句する僕と光葉ちゃん。


「そうでしょう! 一家に一台! 家族を守る保安装置付き!」


「いやいや……空き巣を消し炭にする気かよ!」


 父の変態発明精神は、やはり今日も絶好調だった。僕は頭を抱えながら、静かに思う。──こいつに掃除を任せたら何もかも消去されかねないぞ。

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