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第76話 改造人間現る!

 長谷光葉が囚われている雑居ビルの一階、その薄暗く狭い空間で、僕とマリナは中国情報部の戦闘員たちと激しい戦闘を繰り広げていた。


 天井の蛍光灯はすでに破壊され、緊急灯が薄ぼんやりと赤く空間を照らしている。室内に響くのは、敵の足音、僕らの息遣い、そして何よりも、ぶつかり合う肉と武器の重い音。


 敵は銃火器を使わない。閉所での跳弾や誤射を避けるためなのか、それとも静音重視か、いずれにせよ、手にしているのは偃月刀や手槍、明らかに近接戦特化の殺傷武器だ。


 僕とマリナは背中合わせで互いを守りながら、敵の殺到に応戦していた。振るわれる刃を避け、武器を叩き落とし、折り、投げ、弾く。そのすべてが、一瞬の判断を要求される。


 だが、古新開が警告していたとおり、相手はただの雑兵じゃない。おそらく何百回と実戦を潜り抜けてきた精鋭ばかりだ。僕の拳が顎を打ち抜いても倒れず、マリナの回し蹴りを食らっても呻きながら立ち上がる。


「こいつら、なかなかやるな。マリナ、情報以上に強くないか?」


 僕が息を切らせながら言うと、背中越しにマリナの悔しげな声が返ってきた。


「そうなのよ、お兄ちゃん。物理攻撃に耐性が高いの。あれを使いたいけど、いいかな?」


「OK! じゃあ僕が動きを止めるから、マリナがトドメを頼む」


「わかった! お兄ちゃん、よろしくね!」


 合図と同時に、僕たちは動きを切り替える。マリナの一撃で崩した隙に、僕が敵の腕を取り、体勢を崩し、床へと叩きつける。


 バァーン!


 鈍い音がビル内に響き渡った 受け身も取れないように投げられた戦闘員は、床に大の字になって倒れたが、信じられないことになおも立ち上がろうとする。硬身功、もしくは特殊な筋肉改造か。生身であって生身ではない異様な耐久力。


 だが、そこへマリナが滑るように踏み込み、両手でその首元に優雅に手刀を当てる。


 「……ぐっ!?」 


 バチンッ! 


 瞬間、火花が散った。焦げたような匂いとともに、敵の身体がびくんと跳ね、そのまま完全に沈黙した。


「ごめんねー。殺しはしないけど、しばらくは身体が動かせないくらいのヤツだから」


 そう言いながらマリナは軽く手を振る。両手の内側に格納された高電圧スタンガン──軍用仕様のそれは、普通の人間なら即昏倒するレベルだ。


(マリナが味方でよかった……こんなの、僕でも食らったらただじゃすまない……)


 倒れ伏す敵を見て、残りの戦闘員たちの表情に一瞬のためらいが走った。だが、まだ彼らの目から闘志が消えたわけではない。むしろ、仲間の敗北により一層、警戒と殺気が増している。


 ◇◆◇


 ──その頃。


 地下では、そんな上階の戦いを知らず、光葉と麗が向き合っていた。突然、地下に設置されたインターフォンから、低く冷たい声が響く。


王麗玲おうれいれい……一階に侵入者だ。小娘を拘束してすぐに上がってこい。一緒に始末するぞ」


「はっ! 直ちに向かいます」


 応答し、受話器を置くと同時に、麗は光葉の方へ静かに振り返った。


「麗ちゃん、誰か来たの?」


「そうみたいよ。たぶん白岳くんたちだと思うわ。古新開くんの敵討ち……かしらね」


 光葉の声には安堵と心配がごちゃ混ぜになっていた。


「行くの? 本当は戦いたくないんでしょ?」


 優しく問いかける光葉に、麗は目を伏せ、小さく首を振った。


「ごめんね、光葉ちゃん。私は強化人間なの。裏切れば、心臓の側に埋め込まれた爆破チップが作動するんだよ。だから、命令には逆らえない」


「そんな……ひどい……」


「私の組織じゃ家族を人質にされるか、天涯孤独の工作員はこうやって命を差し出すか、そうしなければ信用されないの」


 光葉の目に、大粒の涙がこぼれる。それは彼女の心から流れ出た、偽りのない、友への思いの結晶だった。


「泣かないで。私はこの春から原宮高校で過ごした昨日まで、人生で一番楽しかったの。光葉にも出会えてよかった。もう少し大人しくしててね。あなたの安全は、私が守るから」


「うん……麗ちゃん……でも危なくなったら逃げて。ヤスくん、とっても強いから」


 光葉の言葉に、麗は小さく微笑んだ──それは、覚悟を決めた戦士の顔だった。


 そして、彼女はゆっくりと踵を返し、扉の向こうへと歩き出す。その姿は、すでに人間ではなく、戦闘用に特化された“兵器”へと変わりつつあった──


 ◇◆◇


 僕とマリナの連携により、襲いかかってきた戦闘員たちはすべて沈黙していた。足元には、うめき声すら上げられぬまま意識を失った屈強な男たちが、まるで人形のように転がっている。照明の壊れたビルの中、床に散らばる刃物や装備品が、わずかな光を受けて鈍く光っていた。


 そんな静寂を破るように──


 ビルの奥、薄暗い通路の先から、一人の人影が現れた。黒く艶やかなボディスーツに身を包んだ長身の美少女。長い黒髪が歩くたびに揺れ、その目には一切の迷いもない鋭い光が宿っている。まるで戦場に降り立つ戦女神のような──それが、戦闘モードの黄幡麗だった。


 彼女の出現と呼応するかのように、今度は反対側の出入り口からも別の影が姿を現す。あの町中華「東和園」の主──黄幡遼きはたりょう。表情には余裕があり、その歩みは不気味なまでに堂々としていた。自信と傲慢さを纏いながら、僕とマリナに対峙する。


「派手にやってくれたな。見たところ公安も来てないようだが、お前たちだけで乗り込んできたのか?」


 彼の問いに、僕はあえて何も返さず、口元を引き締めたまま構えを取る。


「さあ、どうかな?」


 横からマリナが、あえて大きな声で虚勢を張る。


「そうよ! もうすぐ青山先生が来るんだから!」


 遼は鼻で笑うと、敵意を隠そうともせず、低い声で命令を下す。


「小賢しいガキどもめ。麗玲! 二人で始末するぞ。お前は娘をやれ。俺はガキを殺す」


「はっ! この二人は例のサイボーグです。……マリナちゃん、覚悟して」


 その言葉に、マリナの目が怒りに燃え上がる。


「麗……古新開の敵討ちだからね。手加減しないよ!」


 僕も、遼を見据えて言葉を絞り出す。


「おやじさん……僕も手加減しませんよ」


 すると──黄幡遼の口元が大きく歪む。


「ハハハハハ……この姿を見てから、同じことが言えるかな?」


 その言葉と同時に、異変が起きた。彼の全身がぐにゃりと形を変え始めたのだ。骨が膨張し、筋肉が蠢き、皮膚が硬質化し、獣の剛毛が生えてくる。人間の形を保ちつつも、それは明らかに“ヒト”ではない。


「なんだ!?」


 思わず声を上げる僕の視界に、補助AIの緊急ウィンドウが浮かび上がる。


 《ぴこーん! 目の前の人物は改造人間です! 人間の身体に別の生物の能力や獣性を組み込んだ生物兵器。脅威度はSSです》


 補助AIの警告に、背筋を氷柱のような冷気が走る。おそらく、マリナのAIも同じ診断を下したのだろう。彼女の肩が微かに震えていた。


「私もいることをお忘れなく」


 静かに告げる麗が、床を蹴る、その瞬間、彼女の姿が一閃の光となってマリナへと殺到する!凄まじい速度。まるでワープしたかのような加速。


 僕らサイボーグ兄妹に最強の強化人間・・・そして未知の強敵・・・改造人間が襲い掛かってくる。人外の者たちによる地獄のような、力と力の激突が始まった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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