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第65話 その頃のSF研

 交換留学生ルナ・ベネットが原宮高校にすっかり馴染み、生徒会長暗殺未遂という大事件の後・・・・ SF超常現象研究会、通称SF研のメンバーたちはというと……比較的、いやかなり平穏な日常を満喫していた。


 直前に行われた原宮高校体育祭では、白岳靖章、マリナの兄妹、古新開宙夢、西条ジェシカという最強布陣を擁する1年A組が、驚異的なパフォーマンスを見せていた。圧倒的な身体能力、異常な連携、反則スレスレの技術とバランス感覚で、1年生ながら全競技を席巻。結果、1学年は前代未聞の高得点で堂々の総合優勝を果たしたのだった。


 そんな中、初めての日本式体育祭に出場したルナの活躍は、男子生徒のみならず、保護者席の父兄にまで衝撃を与えた。彼女のダイナミックな動きと絶妙な肢体のバランスに、校庭がどよめいたとか、どよめかなかったとか──。


 そんなスター的存在となったルナには、体育祭後、運動部からのスカウトが殺到していた。バスケ部、陸上部、剣道部、果ては相撲同好会まで──そのうちの一つが今日、彼女を体育館へと導いていた。


 ──バレー部、見学中。だが体育館に足を踏み入れた瞬間、ルナは違和感に包まれた。


 そこには「部活」の範疇を逸脱した、尋常ならざる熱気が充満していた。男女それぞれのバレー部が、額に白いお札を貼った指導者の下、地獄の特訓中。謎の光を発するその札は、不思議なほどに神々しく、そして少し怖かった。


 さらに異様だったのは──その全体を、一段高い演台から静かに睥睨している女子生徒の存在だった。


 そう──長谷光葉、またの名を“神原日美子”である。甲子園出場で全国に名を轟かせた原宮高校硬式野球部。その裏で行われていた霊界指導によるスパルタ強化メソッド。その実績に感銘を受けたバレー部が、今回、光葉にチーム強化を依頼したのだ。


 とはいえ前回の“部員全員憑依”はさすがに過剰だったため、今回は男女バレー部の監督のみ──いわば“トップダウン降霊方式”での特訓が行われていた。


 男子バレー部監督に憑依したのは、広島が誇る伝説の天才セッター、猫田勝敏氏。オリンピックで金銀銅をすべて獲得した、まさに「世界一の司令塔」。


 女子バレー部監督には、あの常勝軍団、東京オリンピック金メダルチーム「東洋の魔女」を率いた鬼監督、大松博文氏が降臨していた。


 復活早々、彼らは最新のルールと現代戦術を高速学習し、数日で完璧な指導マニュアルを構築。その指導力は、超常現象を抜きにしても全国トップレベルであった。


 演台の上、光葉こと神原日美子が静かに口を開いた。


「原宮高校バレー部の者どもよ──この二人に付いて行けば、全国制覇も夢ではない! 心してかかれ!」


 即座に、男女混成の部員たちが声を張り上げた。


「はい! 苦しくったって、悲しくたって、コートの中では泣きません!」


 光葉は満足そうに頷き、さらに続ける。


「うむ、その意気じゃ。しばらくは──うちの白岳兄妹と古新開を練習パートナーとして貸し出す。しっかり精進せい!」


 その言葉に、バレー部のボルテージは爆発寸前となる。


「「ありがとうございますっ!!」」


 白岳靖章がさわやかに笑う。


「じゃあ男子バレー部の皆さん、世界レベルのアタック、バンバン打つのでレシーブよろしく!」


 古新開がニヤリと挑発的に笑う。


「俺はバシバシとトスするから、ガンガン打ってくれよな」


 白岳マリナも手を挙げて元気に応じる。


「私は女子バレー部だね! ロシア仕込みの爆裂サーブ、伝授するよ!」


 西条ジェシカは冷静にタブレットを操作しながら口を開いた。


「チームの状況把握と対戦相手のデータ分析は私に任せてくれ」


 黄幡麗は満面の笑みでタオルとボトルを掲げる。


「水分とエネルギー補給の準備、万全です~!」


 圧倒的なカリスマと霊力、そして超人的な助っ人陣。SF研の威光によって、原宮高校バレー部は今、歴史的変革の渦中にあった。


◇◆◇


 ──そんな中、体育館の片隅でルナは困惑していた。


(な、何なのこの部活? いやこれ部活じゃない、なんかの儀式……いや宗教……?)


 理解を超えた空間に、ルナは頭を抱える。すぐ近くにいたバレー部マネージャーに、おそるおそる尋ねた。


「あの、ちょっといいですか? あの壇上の人たちって、一体……?」


 マネージャーはにっこり笑って答える。


「あっ、ベネットさん! 見学ですか? あの方々は今話題の、SF超常現象研究会の皆さんですよ!」


「え、えーと……ちょっと意味がわかりませんケド……」


 首をかしげるルナ。マネージャーは楽しそうに続ける。


「ふふっ。あの壇上の女子が、長谷光葉さん。1年生だけど、もう『女帝』って呼ばれてるの」


「……女帝?」


「うん! 2年の徳丸会長が“女王”で、1年の長谷さんが“女帝”。原宮高校はそういう学校なんですよ〜」


(えっ……女王だけじゃなかったの!? もしかして、そもそも標的って……女帝の方!?)


 ルナの脳内に、赤と青の警告ランプが点滅する。


(いやいやでも、さやかって子は猫飼ってたし……まさかこの子が猫を飼ってることなんて……)


 ちょうどその時、バレー部は小休止に入り、光葉が革張りの椅子に腰掛ける。その膝には、ふわふわのハチワレ猫(家猫モードの福浦)。光葉は優雅にその背を撫でていた。


(ええええー!? 猫ぉ!? そっちも猫なのぉぉ!? え、え、どっち!?)


 パンク寸前の脳内でルナは絶叫する。(女王に猫。女帝に猫。──私、どっちを殺せばいいの!?)


 完全に思考が迷宮入りしたルナは、その場でぐらりとよろめいた。


 そして── 「……私、なんでこの国に来たんだっけ……」


 小さく呟いたその声は、誰に届くこともなく、体育館の熱気の中に溶けていった──。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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