第64話 暗殺計画決行します
その日、放課後の旧校舎の屋上。
夕暮れに染まる呉港を背に、ルナはスマホを手に立っていた。ぱっと見は写真を撮っているだけの女子高生──だがその実態は、特製アプリを通じて学校周辺に設置した監視機器をモニターしているのだった。時おり、スマホを構えてシャッターを切る。だがそれは風景写真ではない。さやかの登場を検知するための“センサー解除動作”でもあった。
ルナの作戦は、いたってシンプルかつ大胆だ。さやかの登下校に使われる高級外車の底部に爆弾を取り付け、なるべく学校から離れた地点で爆破する──という、言ってしまえば昔ながらの手口。しかし、その“昔ながら”を支えるのは、最先端のテクノロジーだった。
実際問題、VIPの車に爆弾を仕掛けるのは想像以上に困難だ。警備体制、ドライバーの警戒、監視カメラ……ひとつでも引っかかれば即アウト。だがルナの使用するアイテム群は、その課題をすべて解決していた。
──そして、夕刻。
予定通りにさやかが校舎から現れ、送迎用の黒塗り高級車へと乗り込む。その姿を確認したルナは、スマホ画面をタップ。アプリの中で赤いボタンが光り──ついに、アイテムが起動した。
校外の住宅街の一角に設置された特殊BOX。その蓋がパカリと開き、中から一台のリモコンカーが勢いよく飛び出した。見た目はちょっとゴツめのラジコン。だが、その中身は“殺意の塊”だ。
高級外車は、滑らかな動きで原宮高校を離れ、下り坂を抜けて街へと向かっていく。その数秒後──リモコンカーが猛スピードで車道に飛び出し、背後から追尾を開始。まるで獲物を狙う狼のように、音もなく距離を詰めていく。
やがて──車の下部にスルリと滑り込み、その背面に搭載された粘着式の小型爆弾を、迷いなく貼り付けた。任務完了。リモコンカーは迅速に方向転換し、道端の空き地に身を隠す。続いて内部のプロペラユニットを展開──ボディが分割し、ドローン形態へと変形する。プロペラが回転を始め、軽やかに空へと舞い上がったその瞬間、地上には何の痕跡も残っていなかった。
まさに完璧。誰にも気づかれず、証拠も残さない。ルナはスマホをポケットに収め、風景写真を撮ったふりでひと息ついた。その唇が、ふっと上がる。(フフ……完璧すぎる……! これは勝った!)
◇◆◇
いつもなら、原宮高校を出ると一直線に帰宅する──それが徳丸さやかの日課だった。だがその日は、なぜか心変わりしたように運転手へと声をかける。
「今日はちょっと寄り道をしますわ。あの通りのコンビニ、覚えてらして? そこでお願い」
「かしこまりました、お嬢様」
運転手は深く頷き、黒塗りの送迎車を静かに発進させる。車は住宅街の一角にある、ちょっと古びたコンビニの駐車場の端っこに停車した。さやかは後部座席から優雅に降り立ち、涼しげな声で言う。
「ありがとう。ちょっと買い物に行ってまいりますわ。……あ、そうだわ。待ってる間に店内販売のカフェオレを一杯買っておいて下さらない?」
「お任せください。アイスのノーシュガーでございますね」
「あなたも一服したらよくてよ。いつもご苦労様」
「かたじけのうございます。お嬢様には敵いませんなぁ」
この何気ないやり取り。だが、それが“運命の分岐点”だった。二人が揃ってコンビニに足を踏み入れた──まさにその瞬間。
──ドォオォォォン!!!
轟音と共に、コンビニの駐車場が爆炎に包まれる。さっきまでさやかが座っていた送迎車が、火の玉となって燃え上がっていた。空気を切り裂く爆音。吹き飛ぶドアパネル。燃え上がるボンネット。
運転手はその場で腰を抜かし、通行人や店内の客、そして店員までもが絶叫と悲鳴を上げた。
「きゃあああああっ!」「爆発!?」「火事!?」「うそでしょ!?」
さやかはというと、コンビニの出入り口で、ただ呆然と立ち尽くしていた。目の前で燃え盛る愛車を見つめ、しばし沈黙──やがて、ポツリと呟いた。
「これは……!? もしかして……暗殺を依頼した組織の者が、私の正体に気付いて……攻撃してきた!?」
混乱と疑念が一気にさやかの脳内を駆け巡る。自分が“裏社会”のボスに出したあの依頼──もしかして、あれ、しつこく催促しすぎたのでは?それとも、どこかで正体がバレてしまったのか? いや、まさか──裏切り? 天才的な犯罪脳を持つ彼女ですら、この予想外の展開には一時的に思考がフリーズした。
その後、警察と消防が到着。現場検証、聞き取り、身分確認、事故か事件かの確認作業……深夜まで続いた怒涛の取り調べに、さすがのさやかもグッタリして帰宅した。
◇◆◇
──だが、そこで終わらないのが“女王”徳丸さやかの恐ろしさだった。
夜半、さやかはベッドの上にノートパソコンを広げ、秘密回線で何やら打電を始める。内容は簡潔で強烈だった。
《これ以上ワタクシに逆らえば、あなたの愛車を三日三晩で三台、炭にしますわよ──ご覚悟なさい》
実際、その後の三日間でボスの愛車が“謎の事故”で三台続けて灰になっている。
《一台目は爆発、二台目は謎の落雷、三台目は“自然発火”》
……どんな呪いだ? 身に覚えのないボスはただただ慄いた。誰の仕業かは不明だが──そう、“誰”がやったのかは、この世界では黙っている方が身のためだ。そして、脅迫と見せかけての和平交渉。だがその実態は、さやかによる一方的な“高圧的講和”だった。更に、身近にいるはずの謎の暗殺者に警戒するあまり、本来の依頼を一時保留するさやか。
その結果──組織は、任務失敗で落ち込むルナに新たな指令を出すこととなった。──「標的の様子を引き続き監視しつつ、しばらく原宮高校にて待機せよ」その指令を例によってDVDで受け取った瞬間、ルナ・ベネットの顔が引きつる。
「……ええええええ!? このクソ暑い日本で、いつまでピッチピチのコスプレ制服着てろってのよぉぉぉお!!(涙)」
鹿田家二階の窓を震わせる、魂の絶叫。その声は、夜の静けさの中に、虚しく吸い込まれていった──。
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