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第61話 指令! 標的はあの娘

 原宮高校野球部監督にして体育教師──鹿田一朗太。


 この夏、創部以来初となる甲子園出場を果たし、ベスト8進出という快挙を成し遂げたことで、一躍「お札を張った名監督」などとメディアにも取り上げられる存在となっていた。50歳、ガタイのいい昭和男だ。もっとも──その偉業の影には、霊界からやってきたレジェンドの助力があったことなど、もちろん世間は知る由もない。


 だがそれでも、長年、彼のグラウンド帰りの泥だらけのジャージを洗い続けてきた奥さんは、テレビ越しに甲子園のベンチでグラウンドに指を差す夫の姿を見て、思わず頬を赤らめ──「やっぱり私、この人が好きだわ」と、青春時代のような気持ちを取り戻していたのだった。


 鹿田家は、原宮高校のすぐそばに建てた二階建ての戸建て住宅。娘が東京の大学へと旅立って以来、夫婦ふたりきりの静かな生活が続いていた。


 そんな中、交換留学生のホームステイ受け入れという話が学校から舞い込み、お人好しの鹿田は「いいんじゃないか」と即答。奥さんも「ちょっと寂しかったしね」と頷き、話はあれよあれよという間にまとまった。


 ──そして、ルナ・ベネットがやってきたのである。


 来日から一週間。


 引っ越し荷物の受け入れに追われ、高校編入の手続きで書類と格闘し、はじめての登校に緊張し──そんな慌ただしい日々を駆け抜けた後、ようやく訪れた土曜の夜。


 夕食を終え、自室でホッと一息ついていたルナの元に、ピンポンと玄関チャイムが鳴った。


 奥さんが「ルナちゃーん、今日も荷物が届いたわよー!」と声をかけてくる。


 「はーい! うちのパパったら心配性なんだからぁ。ママさんありがとうございます」


 そう言って受け取った国際便の荷物。見慣れた送付元に、ルナの心臓がドクンと跳ねた。


 (とうとう……来た!?)


 恐る恐る梱包を開ける。中から現れたのは、小さなポータブルDVDプレーヤーと、一枚のDVD──それが何なのか、ルナにはすぐに分かった。


 そう──指令である。


 ◇◆◇


 “死神”と呼ばれる殺し屋たちには、不文律があった。


 それは、任務に入るまでターゲットの詳細を一切知らされないというルール。標的の情報を前もって伝えると、もし任務前に身柄を確保された際、情報が漏洩するリスクが高まるからだ。口を割らない保証はない。だからこそ、任務直前に──それも映像媒体などで、一度だけ伝えられるのが通例だった。


 ルナは手慣れた手つきでプレーヤーに電源を入れ、DVDをセット。説明書通りにイヤホンを装着し、再生ボタンを押す。次の瞬間、イヤホンからは、あの映画のメインテーマが流れ始めた。ルナの顔に緊張が走る! 


 画面には、顔を完全にマスクで覆ったボスの姿。


 「ルナ・ベネット君、ごきげんよう」


 ルナは背筋を伸ばし、画面を見据える。ボスの重々しい声が、イヤホンから流れ続ける。


 「これから君に、組織からの任務の詳細および標的に関する情報を伝える。一時停止は不可。再生は一度限り。再生終了後、このDVDは自動的に消去される」


 お約束すぎて、もはや儀式めいてすらある冒頭。だが、ここからが本題だった。


 ──その時だった。


「ルナちゃーん!」 階下から奥さんの呼び声。


 (やば……タイミング……!)


 しかも、足音が階段を上ってくる気配まで。


 画面から視線を外せば、大事な情報を聞き逃すかもしれない。だが、この指令DVDを第三者に見られれば、任務は即終了どころか組織への背信となる。


 (どうすんのよこれー!?)


 ルナは迷いに迷った末、咄嗟にプレーヤーをクッションの下に押し込み、ドアの前に飛び出した。


 「ルナちゃん、お風呂湧いたから先に入りなさい~! ……あれ? 寝てたの?」


 「はーい! すいません~! ちょっと勉強に集中してて! すぐ下に降りますからー!」


 「そうなのー? わかったわ。お湯が冷めないうちにお風呂入ってね」


 ドタバタのやり取りが終わり、ルナがクッションをめくると──画面は、ちょうど終わりかけだった。


 「えーと……標的の情報……あだ名が“原宮の女王”? “女帝”? 女生徒ってことはわかる……たしか、凄いカリスマがあるって……あと、学校で猫を飼ってる……?」


 DVDは静かに自動消去モードへと移行し、真っ黒な画面の中、ポータブルプレーヤーの電源ランプが消えていく。


 「……ヤバい、聞いたの断片だけ……」


 ルナは焦りながらも、頭の中の記憶を掻き集め、ノートを引っ張り出してメモを走らせた。


 ──標的:名前不明。女。あだ名は「女王」あるいは「女帝」。在校生で、カリスマ性あり。学校で猫を飼っている?


 「……こんなんで、わかるわけ……あるかーいっ!」


 ノートを手に天を仰ぐルナ。


 ──任務開始前から、すでに前途多難だった。

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