第四話 はじめまして1年A組
クラス分けで、僕は1年A組になった。担任は、青山祥子先生。25歳、若手の女性教師で、快活で感じも良い。いわゆる“当たり”だ。
教室の窓から差し込む光が眩しい。僕は指定された席に着き、周囲を見渡す。
──いた。
あの女子高生が、今度は僕のほうを間違いなく“観察”していた。
(やっぱりロックオンだコレ……)
マスクを外した彼女の顔は、ふんわりとした笑顔が印象的で、明るくて、人懐っこそうな雰囲気を持っていた。……うん、間違いなく可愛い。だがそれより気になるのは──
(バレてる? バレてるよね? トラックの件、絶対見られてる……)
自己紹介の時間。そんなことを考えていると、次は僕の番になった。
「白岳靖章、旗東中学出身です。楽しく過ごせればと思います。よろしくお願いします」
表向きは明るく無難な抱負を言っておいたが、内心では(バレないように気を付けながらエンジョイする)と念じていた。クラスの空気がざわつく。──女子からは熱い視線。男子からは「こいつが噂の……」といった微妙な視線。
まあ、慣れてる。中学時代は助っ人で運動部を渡り歩き、派手な活躍ばかりしていたから。他校にはファンクラブができたって話もあるし、今思えばサイボーグ性能のせいだったのかもしれない。その中で──今朝の彼女は、依然として僕をガン見していた。キラキラした目で。
(白岳くんって言うんだ。 何かオーラが違うよね。 ……あの反応、この人、やっぱり未来人か宇宙人じゃないの!?)
彼女の番が来た。
「長谷光葉です。父が自衛官で、今回呉に転勤&引っ越しになりました。海が近くて、すごく気持ちいいところですね。今日からよろしくお願いします!」
──明るい。ハキハキした声。屈託のない笑顔。一瞬でクラスの空気を和らげる力がある。
(なるほど。 高校から呉に来たのか。だから知らなかったんだ)
だがそれでも──
(……どうしよ、今朝のトラックの件、どうやって口止めしよう!?)
長谷さんが席に座ると、青山先生が再び教壇に立った。
「もう一人、皆さんに紹介したい生徒がいます。西条さん、どうぞ」
クラスの視線が一点に集まる。ブレザーにスラックス姿の長身の生徒。整った顔立ち。まるでモデルのようなシルエット。一見すると男子のようだったが、青山先生の言葉は違った。
「彼女はアメリカ生まれの帰国子女で、まだ日本に慣れていない部分もあります。皆さん、ぜひ仲良くしてください」
……女子、だった。西条ジェシカ。
宝塚の男役が似合いそうな、イケメン女子。彼女はゆっくりと立ち上がり、流れるように自己紹介を始めた。
「私の名前は西条ジェシカ(さいじょう)といいます。父が日本人で母が米国人です。父の帰国でこちらに引っ越してきました。気軽にジェシカと呼んでください。日本語の他に、英語・スペイン語・中国語 などは喋れます。よろしくお願いします」
そう言って、軽くウィンク。
「きゃーっ!」
クラスの女子たちから黄色い歓声が上がった。まるでアイドルの登場シーン。……最後に今日一番の注目をかっさらっていくイケメン女子。今朝の光葉さんといい、このジェシカさんといい、A組の美人レベルが異常に高い。青山先生まで含めると、大人の色気までそろってる。
(……このクラスの男子、性癖が狂わされないか心配だ)
【青山先生の心の声】
(それにしても……どうして公安のトップエージェントである私が、わざわざ高校教諭なんかに……)
(でも任務は任務。これも国の未来を守るため……!)
(白岳靖章。あのマッドサイエンティスト・白岳康太郎の息子。今の情報ではアンドロイドの可能性もある……)
(外見は普通の高校生だけど、騙されないわよ。私はエリートだし、監視用ドローンも衛星もフル稼働中よ!)
(この子の秘密、、、絶対暴いてやる)
【西条ジェシカの心の声】
(これが白岳靖章……ふふ、可愛いじゃない)
(私がここに来たからには、もう安心していいわ。私はCIAのジュニアエージェントにして、シークレットサービス。 ヤスアキ、あなたの“護衛者”よ)
(あなたは対金星人用自立戦闘型決戦兵器・タイプYASUAKI。その開発費の半分は我が国が出している。つまり──その所有権の50%は、我が合衆国にあるのよ)
(……本当はなんで私が極東の島国に送り込まれたかって? あいつよ、大統領ドナルド・ポーカー)
(「護衛は女子にする! その方が面白そうじゃん!」ってノリで決めたらしいわよ……まったく、くだらない)
(でもいいわ。この任務、ステディな関係に持ち込めば、常に側にいられるし……ふふ、ちょろいわね)
(男の子って単純なんだから。イケメン女子の魅力、見せてあげるわよ)
──こうして、波乱のクラスメイトが出揃った。やがてオリエンテーションが終わり、初日は解散となった。僕は「目立たないように」と思って速やかに教室を出たが……その背後から、二人の女子が僕を追ってきていることに、まだ気づいていなかった。
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