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第三十二話 大ピンチ! 外来種バッテリー

 僕と古新開の活躍もあり、原宮高校硬式野球部は見事に一回戦を突破した。その勝利は、まさに派手で華々しく、球場中の観客を唖然とさせる内容だった。


 だが、試合のない日でも、野球部員たちは一切気を緩めることなく、日々の鍛錬を欠かさなかった。彼らは、レジェンドたちから身体に直接刻み込まれた技術を腐らせまいと、暑さと疲労に抗いながらグラウンドを駆け回る。


 そして、その部員たちを導く存在こそが、いまや監督以上の存在感を誇る「総監督」──神原日美子様である。もっとも、そのお姿はどう見ても、原宮高校一年A組の長谷光葉そのもの。だが、既に校内では「あの光葉ちゃんが学校の顔」と言われるまでに、彼女──いや、彼女の中に宿る日美子様のカリスマは確固たるものとなっていた。もちろん、その知略と統率力の源が光葉本人ではなく、神原日美子様であることを知る者は、ごくわずかしかいない。


 広島県予選の二回戦からは、原宮高校サイドのベンチ上の観客席に異様な光景が出現した。まるで神事の舞台のような特設スペース。そこには、ラタンで編まれた巨大な椅子が設置され、その中心に女王然と座す日美子様。頭上には日傘が天幕のように広げられる。それを支えるのはベンチ外の野球部員たち。さらに、両脇には野球部の美人マネージャー先輩が控え、羽扇で優雅に風を送っていた。


 その横には、いつも通り冷静沈着な西条ジェシカが、木製の椅子に腰かけてタブレットを操作している。その姿はまさに参謀役。そして極めつけは、青山先生だ。教育者としての威厳を忘れたかのように、召使いの如き動きで、冷たい飲み物を恭しく差し出しているのである。


 この祭壇の如き布陣は、応援団だけでなく、対戦校や観客席に詰めかけた父兄たちをも、ただただ呆気に取らせた。そして、その「原宮高校のドン」ともいうべき貫禄に、誰も異を唱えられない雰囲気が形成されていた。


「お前ら、今日は5回までで終わらせるのじゃ。よいな!」


 日美子様が拡声器でベンチ下の僕たちに指令を飛ばす。その声には威圧感と慈愛が入り混じっており、僕たちは反射的にビリッと背筋を伸ばし、即座に円陣を組んで気勢を上げた。


「「うおおおおっ!!」」


 気合いの掛け声がグラウンドに響き、原宮高校硬式野球部は再び、対戦相手に襲い掛かるのだった──。


◇◆◇


 原宮高校の快進撃が始まった。広島県予選はおよそ三週間にわたり開催される長丁場。ノーシード校は七戦すべてを勝ち抜かねばならず、それだけでも地獄のような日程だ。しかも広島といえば、全国でも屈指の激戦区。名門、古豪、新興勢力――どこをとっても簡単な相手など一校も存在しない。


 それでも、原宮高校は勢いそのままに、まるで重戦車のような突破力で勝ち進んでいった。


 とにかく、打つ。打って、打って、また打つ。


 近年の高校野球は「投高打低」と言われて久しいが、そんな傾向もこのチームには関係なかった。なぜなら彼らのバッティングには、霊界レジェンドの魂が宿っていたからだ。その打撃力を支える土台。それは、僕と古新開という二人の生きたピッチングマシーンである。


「日美子様……僕の身体(※生身の部分)が、既に死にかけてます……(血涙)」


 投げても投げても終わらない、果てなきノルマ。僕の体内AIは悲鳴を上げ、発熱警告を繰り返す。


《警告:冷却機能の限界が近づいています。》


 真夏の照りつける太陽の下で、僕の体はスマホ並みに発熱していた。もうすぐ強制シャットダウンするかもしれない。


「仕方ないのう~。ちょっとプールに浸かってクールダウンしてこい」


 日美子様が、呆れたような、それでいてどこか優しさのにじむ声で指示を出す。


「古新開はどうじゃ?」


「俺は全然大丈夫っす! 白岳よ、貴様の弱点見つけたり! 暑さに弱いのか……ははははは!」


 こいつ、絶対楽しんでるだろ。満面の笑みで笑い飛ばす古新開の顔に、僕は少しだけ殺意を覚えた。


「誰が僕にこんな負荷をかけるよう指示したのか分からんが、ハードすぎるって! もう一か月近く毎日、全力投球してるんだぞ!」


「わかったわかった。悪かったな。後は俺に任せて冷却しろ」


 古新開があっさり言ってのける。……くそ、こいつ頼りになるのが腹立つ。その時だった。ジェシカがどこからともなく現れ、僕の目の前に冷えたスポーツドリンクを差し出した。


「ダーリン! 大丈夫? はい、スポドリ。冷えてるわよ~」


 汗だくで崩れそうな僕に、彼女の声はオアシスのように優しく響く。その献身的な気遣いに、僕は何度助けられてきたか分からない。そして、熱に浮かされた脳の中で、僕はふいに口走ってしまっていた。


「この特命が終わったら、海かプールに行きたいなぁ。一緒に行ってくれる?」


「嬉しい! 絶対行こうね、ダーリン! あのね……新しい水着買ったら見てほしいな」


 ジェシカの頬がほんのりと染まり、無邪気な笑顔が炸裂する。


「うん。楽しみにしてるよ」


 僕は顔を真っ赤にしながらそう呟き、そのまま放心状態でプールへとバタリと倒れ込んだ。全力投球からの全力照れ落ちで、心身ともにオーバーヒート寸前だった。


◇◆◇


 原宮高校は、遂に準決勝まで駒を進めた。僕と古新開に課された“特命”も、この準決勝で終了だ。なぜなら──高野連、いや文部科学省の監視が僕らにまで及んでいるため、決勝には出場できないという前代未聞の“縛り”が存在するからだ。


 それでも、僕たちはここまで全力を尽くして戦ってきた。投げて、打たれて、また投げて。限界ギリギリのサイボーグ稼働で、原宮高校の快進撃を支えてきたのだ。三条先輩も完全復活。あのイップスに悩んでいた男が、今では自信に満ちた目でグラウンドを見据えている。


 他の部員たちも──あの地獄のような特訓の日々を経て、心身ともに成長していた。レジェンドたちから授かった技術を身につけた彼らは、フィジカルこそ平均的な高校生だが、テクニックはまさに「超高校級」。もはや“ただの野球部”とは呼べない領域に達しつつある。


 この準決勝を勝ち抜けば、決勝は彼らの手に託される。しかし、目の前に立ちはだかるのは、古豪にして広島野球の象徴──全国優勝経験もある、まさに“常勝軍団”だ。ベンチの上の観客席に設けられた、例の「祭壇」から、日美子様が鋭く檄を飛ばす。


「敵も我らを研究してきておるはずじゃ。一筋縄では行かぬ相手であろう。じゃが、お前たちの修練は十分、甲子園にふさわしいとわしは思う。失点を恐れるな! 1点でも上回れば勝ちじゃ! 打ってこい!!」


 その言葉に、野球部員たちの目が一斉に燃える。


「「はいっ!!」」


 気合いのこもった声がグラウンドに響き渡り、試合開始のサイレンが鳴り響いた。先発投手は、もちろん古新開。山での修行で身につけたナックルボールは、今日も空気を切り裂いて鋭く揺れる。


 だが──


「ボール!」


 主審の声が、思いもよらぬ判定を下す。


(え?)


 明らかにストライクゾーンを突いた球。僕の内蔵センサーも、完全にストライクと認識している。なのに、判定は──ボール。


「ボール、ツー!」


「ボール、スリー!」


「……フォアボール!」


 一番打者が、バットを振ることなく出塁してしまった。


(二度見したって足りないレベルでおかしいぞ……)


 続くバッターも、まさかの四球。古新開の球は冴えているのに、判定はすべてボール。納得できるはずがない。


「なんだよ! 入ってるじゃないかよー!」


 堪えきれず、古新開がマウンドで叫ぶ。彼の肩がわずかに震えているのが見えた。祭壇から、その様子を見つめていた日美子様の眉間に、深いしわが刻まれる。


「むう……これは……やりおったな、高野連」


 すぐさま隣のジェシカが、タブレットの画面から顔を上げた。


「日美子様? どういうことですか?」


 日美子様は、静かに、しかし冷ややかな声で告げた。


「審判に手を回しておるのじゃ。この試合、ちと難しくなってきたわい」


 青山先生が、冷えたペットボトルを手に持ったまま、青ざめた顔で呻く。


「……どうしても、うちを決勝に行かせたくないって魂胆でしょうか?」


「じゃろうな。ここまで露骨にやってくるとはのう……」


 静かに怒りを燃やす日美子様の瞳が、じわりと炎を灯す。そして、三人目のバッターまでもが、バットを振らずに四球で出塁。 


 ノーアウト満塁。  


 まさかのピンチに、原宮高校のベンチは一瞬、凍りついた。さあ、どうする──原宮高校。この理不尽を跳ね除け、勝利をもぎ取れるのか。

読者の皆様へのお願い 


この小説はしばらく野球のお話が続きます。(34話まで) その間に昭和の時代のプロ野球選手の名前が出てきます その人誰?と思う名前ばかりだと思います。 もしお暇なら検索してみてください。 面白いエピソード満載のレジェントたちを知っていただければ幸いです。 特に「長嶋茂雄」さんと「野村克也」さんは、おススメです。 彼ら?のご活躍をお楽しみに!!



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


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