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第三話 君と運命の出会い

 入学式の朝。僕──白岳靖章は、通学のために家のある大空山を下った。大空山は呉の旧市内から外れた場所の小さな山で、国道185号線沿いにあるが、休山トンネルが完成して以来、このあたりの交通量はめっきり減っている。


 朝の空気は肌寒く、山道には鳥の鳴き声と微かな新緑の香りが漂っていた。バス停へ向かう途中、ランドセルを揺らして登校する小学生たちが数人、歩道を歩いていた。広電バスの停留所に近づくと、バス待ちの人影はほとんどない。 のどかな朝。……だったのに。


 突然、子猫が道に飛び出した。白っぽい毛並みの小さな命。「にゃっ」と鳴いたその瞬間、一人の小学生が駆け出した。


「お、おい待てっ!」


 僕が声を上げたのと同時に、大きなトラックが近づいてくる。距離は──ギリギリ。タイヤが軋む音が、鼓膜を打った。すると、一人の女子高生が歩道から飛び出し、小学生を抱きかかえた。彼女はバスに背を向けて、衝突の瞬間を覚悟するように身をすくめ──


「間に合わねえ!!」


 気づけば、僕の身体は勝手に動いていた。


「止まれえええええええッ!!」


 瞬間移動でもしたかのように、僕は二人の前へ飛び込み、右手を突き出した。


 キギギギギギギィッ!!! トラックが地面を削るようにブレーキをかける。とっさにバンパーを僕の右手で押す。バァン! とすごい音がしたが気にしない。


 ……バンパーが、ぐしゃっと凹んでいる。周囲は静まり返った。運転手は口を開けたまま僕の右手とバンパーを交互に見つめ言葉を失っていた。


「ブレーキ間に合いましたよ、誰もケガしてないから大丈夫です」


 僕はそう声をかけながら、バンパーを軽くつかんだまま、トラックの前輪をふわっと浮かせる。ミシミシと金属がきしむ音がしたが、僕は気にせずそのまま保ち続けた。背後で、女子高生と小学生が無事に歩道へ避難するのを確認してから、前輪をストンと路面に戻す。運転手は青ざめた顔で「す、すみませんっ」と一言だけ残し、トラックを急発進させて逃げるように走り去った。


「君、大丈夫かい? ブレーキ、間に合ってよかった」


(ここはもうブレーキ間に合ったで話を通すしかない)


 僕は女子高生に声をかける。彼女は、放心状態の小学生を抱いたまま、僕とトラックを止めた右手を交互に見ている。


(……間に合った。よかったけど、ヤバい。バレた?)


「ど、どうも……ありがとうございますっ」


 驚きを隠せない彼女は、そう言って深々と頭を下げた。制服は──原宮高校。


(同じ学校か。見覚えはないけど……新入生? 転校生?)


「……あの、あなた、何者ですか?」


「いやぁ、通りすがりの高校一年生だけど 僕のことは忘れて、、ね?」


 そう笑ってごまかす僕だった。遅刻しちゃいけない──とにかく、バスに乗らなきゃ。その後、次にやってきた広電バス(白にグリーンの横縞の路線バス)にしれっと二人で乗り込む。よく見ると、マスク越しでも彼女はなかなか可愛い。


(まあ、高校ともなると生徒数も多いし、二度と絡むこともないかもな……)


「……これで高校生活は、もう目立たないどころか、初日から“伝説”かよ……」


 そう内心でため息をつきながら、僕は彼女から少し距離を取って座った。そして、なるべく視線を合わせないよう努めた。


◇◆◇


 ……入学式が始まった。


 講堂の壇上から、僕は新入生代表として挨拶をする。原稿なんて見なくても頭に入っている。堂々と、そして爽やかに──「高校生活への期待と決意」を語り終えたとき。ふと視線を客席に向けると、いた。


──あの子が。


 朝、僕がトラックから救った、あの女子高生。原宮高校の制服を着て、きちんと椅子に座っていた。だけど、その目は──完全に、僕を“発見した”推し活女子の目になっていた。キラキラと輝く瞳で、じっと僕を見ている。


(……やべえ、完全にバレてるかも。 俺の“スペック”)


 マスクの下の顔は見えなかったけど、その目だけでわかる。彼女は僕の存在に“何か”を見つけた。──白岳靖章、高校初日。普通に生きるつもりだったのに、どうやらこの日から、予定は大きく狂い始めたらしい。


(俺の、静かで地味な学園生活……完!)

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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大空山砲台跡、遺構が好きなのでたまに行きます
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