第二十八話 激闘! 勝負の行方は?
いよいよ、文化祭「原宮祭」が始まった。
公立の名門高ながら自由な校風で知られる原宮高校の文化祭は、弾けた出し物も多く、父兄はもちろん他校の生徒にも人気だ。朝から校内は熱気に包まれ、模擬店やアトラクション、体験型のゲーム、各文化系クラブのブースに至るまで、多くの来場者でごった返していた。
そんな喧騒の中、我々一年A組の男女逆転コスプレ喫茶『倒錯の館』は、まさに押すな押すなの大盛況。お目当てはもちろん、男装したロミオこと西条ジェシカだ。普段からイケメン女子として知られる彼女がガチの男装となれば、話題性は抜群。女子客たちの黄色い歓声が、ブースの中に響き渡っていた。
「ロミオさん! あちらのテーブルご指名です!」
受付係の女子が弾んだ声でジェシカを呼ぶ。
「ははっ、忙しいな。みんなありがとうね」
流れるような所作で盆を取り、華麗にテーブルへ向かうロミオ・ジェシカ。そのウインク一つで、複数の来場客が崩れ落ちる勢いだ。
「あぁ〜ジェシカ様ぁ〜……」
うっとりと頬を染める女子たちのため息が重なり、まるで王子様の舞踏会のような空気ができあがっていた。
一方その隣、桃太郎のコスプレ姿で接客中の長谷光葉。
「へい! 紅茶一丁!」
妙に力の入った所作でドリンクを提供しながら、時折ジェシカに熱視線を送る女子たちに睨みを利かせる始末。
「あのー、長谷さん。もう少し丁寧に接客して。ね?」
見晴さんが困ったように注意を促すも、光葉は来客用のおしぼりをギリギリと握りしめ、悔しそうに唸った。
「犬でも猿でも雉でもいい! 誰かわたしを指名しなさいよぉーー!」
「うーん、きび団子もメニューに入れとけばよかったかもね」
見晴さんが真顔で呟いた。
◇◆◇
その隣では、恐怖の女装ブースが展開されていた。
的場くんたち普通男子三名が、どこかぎこちない女装姿で、戸惑いながら接客中。いかにも「やらされてる感」満載の彼らは、ある意味で定番のお笑い枠として、女子たちの笑いを誘っていた。
──しかし、そんな中にあって異彩を放つ存在が二人。ジュリエット・古新開。そしてシンデレラ・白岳。
さらさら金髪に碧眼の古新開は、まさに『舞い降りた恋する乙女』。儚げな微笑と潤んだ瞳の合わせ技に、男子たちは次々とハートを撃ち抜かれていく。
対する僕、シンデレラ白岳も負けていない。プラチナブロンドの髪とグリーンの瞳、そして絶妙なメイクが織りなすのは『凛として優雅な姫』の風格。
「これ……本当に男なのか?」
「嘘だろ……惚れそうだ……」
通りすがりの男子生徒たちが、目を見開き、ため息を漏らす。その中、華麗にステップを刻みながら指名席へ向かうシンデレラ白岳。
「美しい……」
男子たちが震える声で呟くのが聞こえる。
(やるな白岳! だが、この勝負は負けん! この日のために俺は頑張ったんだ! あの修行を思い出せ、宙夢!)
内心で炎を燃やす古新開。笑顔の破壊力にギアを入れ、全力で可憐なヒロインを演じ始めた。 その笑みに、更に男子生徒たちがハートを撃ち抜かれ、彼に指名が殺到する。
(クソ! あの笑顔……一朝一夕で身に付くものじゃない。大したやつだよお前は。だが、僕も負けん!)
僕も負けじと、脳内AIに命じる。(AIよ! 僕の魅力を最大化するポージングを頼む!)
「ぴこーん!」
響く効果音と共に、僕は次々と、ちょっぴりセクシーなポーズを決めた。
「うっ……!」「鼻血が……!」
悶絶する男子たち。場内騒然。
それを見て、血の気が引くクラスの女子たち。
「いけない! このままあの二人に好きにさせたら、うちの高校の男子生徒がみんなあの二人に刈り取られてしまう!」
「誰か、青山先生を呼んで来て!」
怒涛の勢いで駆けつけた青山先生の手により、古新開と僕はレッドカード(出場停止)をくらった。
(コスプレ喫茶の運営は、あとは的場たちが頑張った……)
◇◆◇
裏方に回っても、僕たちをチラ見しに来る来場者は後を絶たない。そして午後二時──1年A組の『倒錯の館』は、予定より早く営業を終了。
注目の女装・男装コンテストの結果発表が始まった。男装部門は、来場客からの圧倒的得票で西条ジェシカがキングの座を獲得。
「やったわ!」
ロミオの姿でガッツポーズを決めるジェシカ。
そして注目の女装部門は……古新開宙夢だった! 僕と共に途中退場を命じられた古新開だったが、その完成度の高さや、多くの男子生徒を狂わせたその笑顔で、僅差で僕を破ったのだった。
「うぉぉー! 白岳に勝ったぞ! わたしすっごーい!」
美少女の姿で飛び跳ねて喜ぶ古新開に、控室の空気がざわつく。
「ダーリンが負けた……だと!?」
「ということは……古新開と……デート!?」
「はっ!? 長谷さんは!?」
古新開は、そこで初めて光葉ちゃんの存在を思い出したかのように、はっとした顔で尋ねる。
「わたし? ぶっちぎりの最下位だよ(涙)」
桃太郎の衣装のまま、光葉ちゃんが項垂れている。
「古新開くんに西条さん……二人ともおめでとう! 文化祭デート、楽しんで来てね。これもデモンストレーションだから、よろしくね」
的場くんと見晴さんが、満面の笑みで祝福を送る。
「「ああああああー!」」
ジェシカと古新開の絶叫が、控室に木霊する。
「これでよかったのだろうか……」
僕は遠い目をした。
「まあ、ヤスくんが他の誰かとデートするより、私はいいかな」
光葉ちゃんが小さく笑って寄り添う。
「じゃあ……僕らも、こっそりデートしようか?」
「うん!」
ぱっと笑顔になる光葉ちゃんが、手を取ろうとした、そのとき。
「それより、その美少女モード、いつ解くの?」
僕が脳内の補助AIに美少女モードの解除を命じる。
『ブッブー!』
という情けない効果音とともに、AIが警告を発した。
《このモードは高度な技術と大量のエネルギーを消費しているため、向こう一週間は解除できません。ごめんちゃい☆》
「なんだと!?」「え? 一週間も美少女なの!?」
控室に、僕と光葉ちゃんの絶叫が響き渡った。
◇◆◇
文化祭明けの月曜日。 まだ美少女モードの僕に、すっかり元の男らしい姿に戻った古新開が、ニヤニヤと絡んでくる。
「ははは、白岳よ。まだ女装してるのか? 早く文化祭気分から抜けろよ、ワロスw」
その言葉を聞いて、ちょっぴり涙目な僕だった。
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