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第二十七話 大変身 シンデレラガール

文化祭前日の放課後。


放課後の教室には誰もおらず、静寂だけが満ちていた。僕は古新開に呼び出され、新校舎の屋上へと足を運んでいた。そこは、原宮高校で最も見晴らしの良い場所。西の空に沈みかけた夕陽が、遠く瀬戸内海の水面を黄金色に染め上げていた。


──しかし、そんな絶景も、今目の前に現れた光景の前では色褪せる。


「よく来てくれたわね、白岳くん」


振り向いた古新開。その姿は、かつての熱血漢とはまるで別人だった。頬はすっきりと引き締まり、輪郭には柔らかな丸みが宿っている。肌はまるで陶器のように滑らかで、うっすらと施されたナチュラルメイクが、彼の──いや、彼女の印象を完成させていた。


(この世界には性別が変わる生物がいる。クロダイ、クマノミ、確かカタツムリもそうだっけ……。でも人間、それも男子高校生がここまで変わるのか……)


僕は、あまりにも完璧な“変貌”を前に、内心で冷や汗をかいていた。


「話はわかってるはずよ」


古新開は、スカートの裾をふわりと翻しながら言った。


「まて古新開。何が何やらわからないんだが」


「白々しいわね。あなた、このままで私と勝負するつもりなの?」


仕草も口調も、すでに女優のようだ。大仰なため息すら絵になるのが腹立たしい。


「そのつもりだが、悪いのか?」


内心は動揺しながらも、僕は少し挑発的に返す。 ──所詮は男子の女装なんて、お笑い枠。スカートを履いて、生足さらしてすね毛をキャーキャー言われて終わり。……そう思っていた。


 しかし。


「いくじなし! わたし、貴方を見損なったわ。どんな時でも私には全身全霊でぶつかってくれるナイスガイだと思ってたのに」


 古新開の目が、まるで本気で傷ついたように潤んでいた。


「それはまあ、大概の勝負なら付き合うだろうが……古新開……僕にどうしてほしいんだ!?」


 僕の戸惑いに対し、彼──いや、彼女はふっと微笑んだ。


「わかってるくせに。あるんでしょ? 『美少女モード』」


 その一言で、僕の脳内に警報が鳴り響いた。


「美少女モード……かっ!」


 僕の思考は一瞬で凍りつく。


「僕もなんとなーくだが、うちの変態親父ならそんなギミックもあるんじゃないかなぁーとは思ったさ。でも親父にも脳内AIにも怖くて聞いてないんだ!」


「出し惜しみするなんて勿体ないわよ! じゃあ、聞いてみればいいじゃない!」


 強い光を宿した瞳に押され、僕は脳内の補助AIに問いかけてみた。


(たぶん絶対にないと思うけどさぁ……美少女モードとかあるかな? 無かったらいいんだ。ね? 無いってことで……まとめて?)


 心の中で祈るように問いかける。


「ぴこーん♪」


 軽快な電子音が鳴った。


《よくぞ聞いてくれました! あるに決まってるじゃないですか! いつでも行けます!》


「あるのか……」


 もはや、僕は呆然とするしかなかった。


「ほら! やっぱりあるじゃない! 明日はそれで勝負しなさいよ!」


「いやいや、待ってくれ! 僕には親父が勝手に装備した機能だけど、古新開の変身は正に努力の賜物だ! 安易に変身したら、お前の頑張りに泥を塗るんじゃ──」


「そこは気にしなくていいわ。わたしの努力は趣味だから。好きでやってるから全然気にしないわよ~」


「ぐ……!」


「むしろ、白岳くんが変身しない方が、わたし悲しいから……(涙)」


 潤んだ瞳が、まっすぐ僕を見据えてくる。


「くっ……!」


 理性が崩れ落ちる。


「お前がそこまで言うなら、明日は僕も全力で挑もう……僕の可愛さに、腰を抜かすなよ!!」


 その言葉に、古新開は満面の笑みを浮かべた。


「望むところだわ! 明日が今から楽しみ~!」


 ──屋上に吹いた潮風が、僕の平穏を吹き飛ばしていった。


◇◆◇


 文化祭当日。朝食を済ませた僕は、洗面所に立つ。鏡に映る自分の顔をじっと見つめ──そして覚悟を決める。


「美少女モード、起動」


 その瞬間、身体の奥からゾワリとした感覚が広がる。ナノマシンが作動し、肉体の再構築が始まった。骨格が、筋肉が、皮膚が変化する。僅かな痛みを伴いながら、数秒後──


「……誰?」


 鏡に映った少女を前に、僕はそう呟いていた。たしかに、顔立ちは自分なのに。だけどそこにいたのは、誰がどう見ても“美少女”だった。僕は軽くめまいを覚えながら制服を着替え、リビングへ向かう。


「おおおー! お前、そのモード使ったのか!? どうだ!? ヤバいだろー! ヒューヒュー可愛いぞー!」


 父が大興奮で叫んできた。


「うるせぇえええ!!!」


 反射的にラリアットを炸裂させ、僕は家を飛び出した。


◇◆◇


 教室では、男女逆転コスプレ喫茶の準備が大詰めを迎えていた。控室の扉をそっと開けると──中にいた光葉ちゃんと目が合う。


「あれ? あなた、誰?……えーっ!? もしかして、ヤスくんなの!?」


 その声に呼ばれるように、ジェシカ、的場くん、見晴さんが続々とやってくる。


「ダーリンなの!? 可愛い……私とデートするために、イメチェンしてきたのね!」


 ジェシカが目をキラキラさせて僕に飛びついてくる。


「いやいや……これはもう古新開並みの性転換だぞ……」


 的場くんが、呆れたように呟いた。


「白岳君にも、こんな才能があっただなんて!」


 見晴さんは、感動したように僕を見つめる。


「さすがヤスくん! 無知蒙昧な愚民どもに、性別を超えた輝きを見せつけてやるつもりなんだね!」


 光葉ちゃんは、いつものように斜め上の解釈で興奮している。


(僕はもう、今日は口を開くまい……!)


 どっと押し寄せる賞賛に、僕は心を無にするしかなかった。


 そこへ、ジュリエット衣装に着替えた古新開が登場。その姿は、誰もが一瞬息を飲むほど完成された“美少女”だった。


「来たわね、白岳くん」


 彼──彼女は、満足げに笑う。


「さすが白岳くんだわ。予想以上の仕上がりじゃない。それでこそ、我が永遠のライバルだわ!」


 彼の言葉に、僕の中でも何かが吹っ切れた。


「ええぃーい、やってやる! お前には負けん!」


 クラス中が湧き上がる。


「じゃあみんな着替えよう! 手の空いた女子は男子のメイクよろしくね!」


 見晴さんの指示に、女子たちが元気よく返事をした。


「はーい! ふふふ、腕が鳴るわ!」


 女子たちのキラキラした視線が僕をロックオンする。


「さあ、白岳くん、こっちへおいで」


「みんなの目が怖いんだけど(涙目)あぁーれぇー!」


 僕は身ぐるみはがされ、シンデレラのドレスに着替えさせられ、散々女子たちのおもちゃにされるのだった。そして、いよいよ文化祭の本番が始まる!


◇◆◇


 一方その頃──職員室。 青山先生は、モニターの前で椅子からずり落ちそうになっていた。


「お前までどうした白岳!?」


 画面に映る女装した白岳に、思わず絶句。


「こんな変身機能が装備されているとは……。仮に白岳がテロリストと仮定してだ、奴が野に放たれて我々が追跡するとして……こりゃ見つからんぞ……」


 ──白岳康太郎の技術力に、改めて戦慄する青山。その胃痛が癒える日は、どうやらまだまだ遠いらしい。

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