表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/135

第133話 僕の平穏な日常よ

 火星野球が終わったあと、呉市は大きな歴史的転換を迎えていた。


 ……まさか、地元が“宇宙都市”になるなんて、誰が想像しただろう。僕という存在があるおかげなのか、呉市は火星王国の首都と姉妹都市提携を結び、地球側の「宇宙人受け入れ拠点」のひとつに指定されたのだ。 隣の江田島市には宇宙港が建設され、そこから広島市や呉市へ伸びる空中回廊も着工された。もはや“地方都市”ではなく、“銀河に名を馳せる都市・クレ”である。


 さらに驚くニュースがあった。父・康太郎の暗躍によって、呉の造船所に火星から宇宙船の発注が来たのだ。設計図と部品は火星提供だが、地球側にとっては宇宙進出の大きな足がかり。街には活気が溢れている。呉市長は「いつか宇宙戦艦の大和を作るぜ」と上機嫌らしい。


 そんな変態親父は、火星野球の放映権でガッポリ儲けた挙句、国税にマークされ、しょっ引かれてからの事情聴取に。正月を留置場で迎える羽目になったが……まあ、たまには反省してもらおう。釈放までラーナさんはちょっと寂しそうだったけど。


 そして僕はというと――。全世界に“火星のプリンス”と紹介された。……ついでに“サイボーグ高校生”までバラされた。おかげで街を歩けば誰かに声をかけられ、結婚したいだの付き合いたいだのと迫られる始末。中には男のファンもいて、マジで困る。おかげで逃げ足には磨きがかかったが。


 更に公安の青山先生、CIAのジェシカに加えて、今では各国の諜報機関が入り乱れて僕の一挙手一投足を監視中。もはや街の誰が一般人で誰がスパイか、見分けもつかない。火星から来た技術者、留学生、そして正体不明の宇宙人まで加わり、呉の街は今日もにぎやかに、そしてややカオスに回っていた。


 ◇◆◇


 そんなドタバタの中で、季節は巡る。――四月。新学期。


 僕は少し落ち着きを取り戻した日常に感謝しながら、原宮高校へ向かっていた。阿賀北のいつものバス停で光葉と待ち合わせ、広電バスに乗る。義妹のマリナは、今日も寝坊だ。


 学校に着くと、クラス分け表を見て思わず苦笑する。SF研のメンバーが、見事に二年A組に固まっていた。担任は青山先生、副担任は波多見先生。……露骨すぎるだろ。


 体育館で全体朝礼が始まる。壇上の校長が緊張気味に挨拶をする。――その時、僕の背筋に電流が走った。視線を上げると、壇上の端に立つひとりの女性。間違いようがない。あの姿、あの髪――彼女だ。


「紹介します。この春から原宮高校へ臨時講師として赴任されました、ヴェリナ・マーズ先生です。

 マーズ先生には物理・数学・理科全般を担当していただきます」


「おはようございます! 火星から来ましたヴェリナ・マーズです!・・・」


 体育館の空気が一瞬で凍った。そして僕は小声でつぶやく。


「……終わった。僕の平穏な高校二年が終わった」


 ヴェリナ先生は自己紹介を済ませ、優雅に微笑みまっすぐこちらを見た。


「それから――ヤスアキ殿下。女王陛下のご依頼で、今晩から宇宙物理学の家庭教師も務めさせていただきますわね♡」


 その瞬間、全生徒の視線が僕に集中した。


「ちょ……やめて!どうしてこうなったー!!」


「もう、ヤスくん……知ってたの?」光葉が小声で聞く。


「知るわけないよ!完全サプライズだよ!」僕はちょっぴり涙目だ。


「火星のプリンセス……実行力が違うな」古新開が感心する。


「なんということでしょう……ルナ!暗殺計画を立てますわよ!」徳丸会長が叫ぶ。


「ダーリン! 貴方を守るために、私も家庭教師一緒に受けるわ!」ジェシカが参戦。


「お兄ちゃんは渡すもんですかー!! 今日から毎晩添い寝するんだから!!」マリナが絶叫。


 周囲はもうカオス。僕は両手で頭を抱えた。「ああぁー今日はもう駄目だ……」


「ふふっ、なんか楽しそうだね。ヤスくん、逃げちゃおうか?」光葉が袖を引く。


「そうしよう! 光葉ちゃん行くよ!」


 僕は光葉をお姫様抱っこして、講堂から全力ダッシュ。


「こらー白岳!新学期初日からエスケープは許さんぞ!!」青山先生の怒声。


「私が追います!」波多見先生の声。


「やめてー!頼むから誰か僕に平穏な日常を!」


「好きよ、ヤスくん。君といると退屈しないから」光葉が首に腕を回す。


「光葉ちゃん、そのポジティブさが羨ましいよ!」


「補助頭脳AI、どこに逃げればいい!?」


「ぴこーん!呉市内に逃げ場はありませんねー。いっそ異世界にでも行きますか?」


 僕は苦笑いしながら、光葉の手をぎゅっと握る。


 朝陽に染まる校庭の向こう、呉湾の海面がキラキラ輝いていた。


 ――僕の“平穏な日常”は、今日も遠い。


 でも、この手だけは、もう離さない。


 光葉が笑う。


 その笑顔が、朝陽より眩しかった。


 おわり

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

最後まで付き合ってくださった読者の皆さまに、心から感謝を申し上げます。


この物語は「普通に生きたい高校生が、普通でいられない事件に巻き込まれる話」として始まりました。

気づけば、教室から地球へ、そして火星へ……スケールもツッコミもどんどん膨れ上がっていきました。

書いている本人が一番「どうしてこうなったー!」と叫びたい気分です(笑)


少しでも笑ってもらえたり、登場人物たちの掛け合いを楽しんでもらえたなら嬉しいです。

そしてもし「面白い!」と思っていただけたら――

どうか評価(☆)をぽちっと押してやってください。星はいくつでも構いません!

むしろ盛ってもらえると作者のやる気ゲージが宇宙圏突破します。


また、ひとこと感想も大歓迎です。

「笑った」「バカだけど好き」「光葉最高」……そんな一言が、何よりの励みです。

もちろんブックマーク登録もしてもらえると、嬉しいです!!


ヤスくんの“平穏な日常”はまだ遠いですが――

この世界は、まだまだ騒がしく、甘く、そしてちょっぴり危険な未来が待っています。

もしよければ、次の物語もあるかもです。 その時は是非一緒に見届けてください。


ここまで読んでくれて、本当にありがとう。

またお会いしましょう、銀河都市・クレで!

久留間猫次郎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ