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第127話 火星野球・聖夜決戦その壱

 それからの数日は、選抜されたメンバーでの野球特訓と格闘訓練に明け暮れた。この世でいちばん汗と笑いと殺気が入り混じった練習だった。新たに加わってくれた生徒会メンバーは、想像を超えて強かった。会長のさやかを除いても、僕や古新開、マリナに匹敵――いや、それ以上の戦闘力を誇る。その身のこなしには、人間を超えた気配があった。


 練習の合間、僕は素朴な疑問をぶつけてみた。


「政畝先輩……生徒会メンバーの皆さん、人間やめて怪人に改造されちゃってよかったんですか?」


「そのことだけど、別に悔いはないよ。人生は一度きりだし、好きに暴れて生きるのも楽しそうだったし」


 政畝先輩はキャッチボールのボールを軽く弾ませながら、風のように言った。


「そうそう……さやか様のおかげで、平凡から非凡へ生まれ変われて幸せよ」


 内神副会長は、投げられたボールを素手でキャッチしながらクールに言い放つ。


「いいでしょ?私のサーバルキャット怪人。容姿に自信なかったから、この姿になるのも嬉しくて」


 照れながら話す塩屋に、古新開が軽口をたたいた。


「塩屋先輩って、素でも可愛いじゃないっすか」


「いやだー、古新開君ったらー」


 瞬間、塩屋のサーバル猫パンチが炸裂。古新開の体が10メートルほど吹っ飛び、砂煙を上げてグラウンドをごろごろと転がる。


「ぐはぁーっ!」


「うむ……この強さ……即戦力!」 誰よりも真面目な青山先生が、感嘆とともにメモを取っていた。


 ◇◆◇


 一方、さやか会長は光葉と超能力特訓の最中だった。


「まだまだですわね、長谷さん」


「さやか先輩、強すぎです……!」


 光葉は額に汗を浮かべながら必死で念を放つ。だが、さやかの指先ひとつでそれを弾かれる。


「ふふふ……まだ本気じゃなくてよ。貴女も内に秘めた力を解放しなさい」


「私の守護霊、神原日美子様がいつでも力を発揮できれば……」


「それが出来れば、貴女も私と同じ『超越者』になれますわね」


「超越者って?」


「神代の時代より人類を支配したモノ。複数の超能力を使い、長命を誇る……言うならば、ホモサピエンスの上級種ですわ」


「いいですね!それ!やったー、私も目指す目標が出来ました!!」


 光葉は目を輝かせ、右手を差し出す。さやかは、少し笑ってその手を取った。


「もうー、どこまでも前向きなのね。まあ……今は休戦中ですからいいですけど」


「今は勝って、ヤスくんを奪われないことが一番ですよね」


「ほほほ……一緒に勝ちますわよ」 


 火星のプリンセスよりも怖い二人の笑みが交錯した。原宮高校の女王と女帝が、いよいよ手を組んだ瞬間だった。


 ◇◆◇


 そして、12月25日。クリスマス当日が、戦場になった。


 舞台となる呉二河球場の上空には、全長1000メートルの火星宇宙軍旗艦が浮遊している。極薄のバリアが球場全体を包み込み、光の粒がゆらめく――まるで宇宙そのものを閉じ込めたかのようだ。グラウンドには、火星テクノロジーで作られた人型審判ロボが整列。地球側の整備班がグランドに手入れを終え、あとは試合開始を待つのみ。その裏では、すべての制御を上空の艦が握っていた。


 この世紀の一戦は呉市民に開放され、当選した数万人がスタンドを埋め尽くす。世界中、いや火星までもが同時中継でこの瞬間を見守っている。その莫大な放映権料を一手に仕切るのは――我が父・康太郎。控室の片隅から、今日も派手な高笑いが響いた。


「ははははは……ガッポガッポ儲かるわ。笑いが止まらん!」


「息子をダシにして何やってるんだよー!!父さんが火星経済圏で闇営業って・・・母さんが怒るんじゃないの?」


「まあまあ……もうこれからは地球も宇宙と付き合う新時代が来るっていう、いいデモンストレーションだ。頑張ってこい!」


「負けて相手の言いなりになるのはごめんだから勝つよ!」


「ヤスくん、気を付けてね。壊れてもマリナと一緒に直してあげるから」


 義母のスヴェトラーナ博士の優しい(?)言葉が飛ぶ。


「ははは……壊れないように頑張るよ」


 場内に主審ロボットの無機質な声が響いた。


「原宮高校チームの皆さん……あと一時間で試合開始です。場内練習を始めてください」


「じゃあー、みんな行こう!」


「おおっ!!」


 僕らは一斉に立ち上がり、地を蹴る。スタンドから拍手と歓声が降り注ぐ中、チームはグラウンドへ。


 練習が終わる頃、空に光の柱が立った。上空の旗艦から十五の影がゆっくりと降下してくる。テーマ曲は――ベートーヴェン『運命』。その荘厳な旋律に、球場の観客が思わず立ち上がった。目の前の光景が“地球ではない何か”の到来だと、本能で悟ったのだ。重厚な旋律とともに、火星女子U-18代表チームが降臨する。 


 赤、青、金、銀、緑……色とりどりの髪をなびかせ、完璧な笑みを浮かべた美少女たち。その佇まいは、戦乙女であり、アイドル。彼女たちの動作ひとつひとつに、磨かれた優雅さと圧倒的な強者の余裕があった。


 ヴェリナ・マーズ准将が号令をかけ、チーム全員がマウンド付近で整列。深々と頭を下げ――その礼儀正しさが、むしろ怖い。


 彼女がこちらを見る。僕に向かって、野球ユニフォームのままウィンク。まるで「狩りの前の挨拶」みたいだった。僕は軽く目礼を返す。


「みんな……向こうの野球の実力がどのくらいか見ておこう」


「ええ。可能な限り情報を集めないと」


 ジェシカが、すでにタブレットで彼女たちの動作を解析していた。


 ◇◆◇


 時計の針が13時を指す。いよいよ――聖夜決戦、開幕。


 両軍が整列し、互いに一礼。僕の補助頭脳AIが、淡々と告げた。


「ピコーン! 相手チームの全員が何らかのサイボーグ手術を受けています。脅威度A以上、Sクラスも確認。全力で対処願います」


「ああ、もちろんだ」僕は深呼吸し、ゆっくりとマウンドへ向かった。


 スタメンを確認する。一番右翼・三条。二番二塁・麗。三番捕手・古新開。四番投手・白岳。五番一塁・マリナ。六番遊撃・政畝。七番左翼・塩屋。八番中堅・内神。九番三塁・徳丸。ベンチには波多見先生と福浦。ここ一番の“切り札”は温存だ。


 観客のざわめきが、ふっと止む。風すら息を潜め、全員が――この瞬間を待っていた。マウンドの土の匂いが、急に濃くなる。——世界が息を止めた。


 審判ロボの声が響く。「プレイボール!」


 バッターボックスに立つのは――いきなり火星最強女子、ヴェリナ・マーズ准将。初球から殺気が漂う。彼女は足をわずかに閉じ、グリップを胸元で静止させる。視線はただ、僕だけを射抜いていた。


「――手加減、無用ね」ヴェリナの口元が微笑んだ。


 僕は大きく振りかぶり、渾身のストレートを投げ込む。推定時速170キロ。ボールがミットに届くよりも早く、観客の心臓が跳ねる。その瞬間——二つの星の運命が、音を立てて転がり始めた。

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