第126話 火星野球とは?
今度のクリスマス決戦に助力を申し出てくれた原宮高校硬式野球部の皆さん。僕は、代表の三条先輩を前に、ヴェリナ准将から手渡された『宣戦布告書』を取り出し、「火星野球」のルールをみんなに説明することにした。
この火星ルール……昨晩、しっかり読み込んでみたが、とにかくヤバさが半端ない。日本にアメリカからベースボールが伝えられて百年以上。今や世界最強国の一角にまで進化した野球が――火星に伝わった途端、なぜここまで殺伐とした格闘競技になってしまったのか。絶対にルールブックの翻訳を間違えている。間違えてなければ、もう文明として間違ってる。
ともあれ、僕は部室のホワイトボードにルールの要点を箇条書きにした。マーカーの音だけがカツカツと響く。
【火星野球ルール(抜粋)】
① 基本は地球野球に準ずる。九人制。試合は五回まで。延長はタイブレーク制。サイボーグ・改造人間・強化種の参加は制限なし。ただし完全AI制御のアンドロイド/ロボットは出場不可。
② 微妙な判定(アウト/セーフ)は“格闘判定”。明白なアウト/セーフは適用外。写真判定は無し。
③ 格闘判定は自動でマウンド上空の“円形土俵”に転送され、守備側野手と打者走者が一ラウンド三分の決闘で勝敗を決める。
④ 格闘ルールは相撲に準ずる。相手を土俵外に出すか、床に手を着かせれば勝ち。打者走者が勝てばセーフ、負ければアウト。
⑤ 一ラウンドで判定がつかない場合(引き分け)は、守備側の勝ち(=アウト)。
⑥ 直接殺傷は禁止……のはず(※火星側の“倫理解釈”による)。
⑦ 格闘戦の放棄・試合中のギブアップはその場で“出場不能”扱い。
⑧ 野球および格闘戦とも、超能力・霊能力・サイボーグ機構・補助装備の使用はすべて合法。ただし、時間停止・空間転移・重力消去など、時空干渉系能力の使用は禁止。(※ゲームバランス崩壊防止のため)
⑨ 格闘戦には公平化のため、審判AI・主審くんによるスキャンで、弱い方に武器・防具などのハンデ装備を認める。
⑩ ベンチ入りは十五名まで。守備不能状態(負傷退場やギブアップ退場などで出場可能が九人以下)になるとコールド負け。
ペンを置くと、野球部とSF研の面々がホワイトボードを食い入るように見つめていた。沈黙のあと、古新開が腕を組み、ニヤリと笑った。
「ふっふっふっ……面白いじゃないか火星野球!退屈な試合にはならないと思うぜ」
まるで修羅場を前にテンションが上がるタイプの笑みだった。ジェシカは呆れ顔で肩をすくめる。
「ダーリン……これって本当に野球のカテゴリーになるの?」
「まあー、ボールを投げてバットで打つ。そして走塁して得点で競う辺りは普通に野球みたいだよ」
僕が苦笑いで返すと、三条先輩が腕を組み、胸を張った。
「白岳……このルールって、格闘戦でギリギリの判定を決めるっていうのが大きな違いだよな?そういう展開ってプロでもそうそうあるもんじゃないし、うちの打線が打ちまくって白岳がきっちり抑えれば、どうってことないんじゃないのか?俺たちは天下の甲子園ベスト4チームだぜ!」
「果たしてそうでしょうか?」
僕がルールの“真の恐怖”を説明しようと口を開いた、その時だった。
◇◆◇
――バーン。SF研のドアが再び勢いよく開く音。全員が振り向くと、そこに立っていたのは生徒会長・徳丸さやか。今日はなぜか般若の面をつけ、背後には生徒会役員全員を従えている。
「ごきげんよう、皆さん。白岳くん、話は聞きましたよ。どうかしら?よかったら私たちにもお手伝いさせていただけないかしら?」
部室の空気が一瞬で張りつめる。光葉が思わず前に出て、警戒の声を上げた。
「徳丸会長!? 一体どうしたんですか? 生徒会の皆さんも」
その声に反応するように、書記の政畝慎一郎が会長の背後からずい、と前へ出る。メガネが冷たく光る。
「そう警戒しないでくれ。会長は我が校の生徒である白岳君が、理不尽な競技で宇宙に連れ去られることを大変危惧しておられるのさ」
(本当は君がいないと会長が生きていけないみたいだからね)
「野球部では力不足……そう思って参りました」 副会長の内神がクールな声で告げた。
「私たち、お役に立てますのよ」 会計の塩屋が穏やかに笑う――が、目だけは一切笑っていない。
「おいおい……競技は野球なんだぜ。俺たち野球部に任せてもらおうか」
三条先輩が反論するが、すぐさま政畝が一歩前に出る。
「三条先輩……あなたの目は節穴ですか? その火星ルール……野球部ではマトモに相手にならないですよ」
メガネをクイッと上げる仕草が、妙に様になっていた。
「そうそう!慎一郎くんの分析能力は凄いんだからね!」 広報のルナが元気よく同意する。
「どういうことなんだ?」 三条先輩が顔をしかめる。政畝は冷静に答えた。
「火星野球の本質は格闘戦です。一見そんなに戦いは起きなさそうに見えますが……果たしてそうでしょうか? 守備側が“格闘判定”に引きずり込む手口があるんです」
「さすがです、政畝先輩。七人が試合不能や退場でも負けなんて、少々点を取ってもそこを突かれたら終わりです」
僕がうなずく。 般若の面の下で、さやか会長が「ほほほ」と笑った。
「そういうわけで私たちですわ。超能力もアリなんでしょ? だったら」
彼女は部室の隅に転がっていた硬球へ手をかざした。ボールがふわりと浮かび、まるで意志を持つように会長の掌の前へ引き寄せられる。次の瞬間、空気が裂けた。
――スパァン。
浮かんでいたボールが、見えない刃で真っ二つに切り裂かれたのだ。切断面が滑らかすぎて、まるで手術用レーザーで焼き切ったかのようだった。断面から焦げたコルクの匂いがふっと立つ。
「会長の念動力……凄いです。私の数十倍は強いんじゃ?」 光葉が声を震わせる。
その瞬間、野球部員たちが一斉に椅子を蹴って立ち上がり――
「いやー、これは無理だろう!」「俺はまだ死にたくない!」「すまねぇー、三条だけ置いていくから!」「みんなでスタンドから応援するからなー!」
と叫びながら、全員が脱兎のごとく退室した。
「え? 俺は参加決定なの?」 三条先輩が絶叫する。
「数合わせでよろしくお願いします」 僕はニッコリ笑った。
「さすが三条先輩だぜ」 古新開が肩をポンと叩く。
◇◆◇
こうして、地球側チームの精鋭十五名が揃った。
白岳靖章(サイボーグ・ヤバイ年上女性にモテる)
長谷光葉(霊能力者・超能力担当)
西条ジェシカ(CIA諜報員・兵器・情報担当)
青山祥子(公安の女忍者・教師枠)
古新開宙夢(強化人間・次期特殊戦隊リーダー候補)
白岳マリナ(ロシア製サイボーグ・歩く一個大隊)
黄幡麗(強化人間・中国武術の達人)
福浦三毛太郎(妖怪猫又・マスコット兼戦闘員)
波多見遥(妖怪アマビエ・白岳製家事用アンドロイド)
そして、生徒会メンバー。
徳丸さやか 会長(超能力者・悪のカリスマ)
内神玲華 副会長(チーターの改造人間)
政畝慎一郎 書記(クロヒョウの改造人間・分析担当)
塩屋英里奈 会計(サーバルキャットの改造人間)
ルナ・ベネット 広報(ホルスタイン牛の改造人間・暗殺者)
――そして。
三条先輩(野球部の元エース)
この精鋭十五名で、火星のプリンセス率いる謎の軍団に挑むのだ!
「え?俺だけ一般人?いやだぁー助けてくれー!」
「まあまあ。再起不能クラスの怪我でも、うちの変態親父なら治しますから」(※なお、父は修理という言葉を使う)
僕の言葉は、まるで慰めになっていなかった。
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