第120話 アレが役に立ちました
世界を牛耳っていると言っても過言ではない超大国アメリカ。その大統領ともなれば、人気も実力も、そして人格も備えていてほしいものだ。だがその男は歴代大統領の中でも異質だった。……いや、“異質”で済ませられるか?自分の野望も好き嫌いも隠さず、味方には甘言を囁き、敵には容赦なく圧力をかける。わかりやすいと言えばわかりやすい。だが、それは本人の根が腐っていなければ魅力にもなったはずだ。残念ながら、この男はそうじゃない。
不動産王の二世として若いころから無茶を重ねてきたドナルド・ポーカー。会社を潰すたびに父親の資金援助で蘇り、やがて巨万の富を得る。政界に進出すると、国内を分断しながらも多数決を味方につけ、今の地位を勝ち取った。さらにサイボーグ化による“アンチエイジング”で若返り、銃弾にも病気にも負けない身体をも手に入れた。──もはや怖いものなどない。そう本人は思っているに違いない。
◇◆◇
そのポーカーは、広島市内の遊戯施設で数時間遊び尽くし、もうご機嫌も最高潮。原宮高校SF研の美少女四人に囲まれてちやほやされ、浮かれっぷりは完全に子どもそのものだった。
「HAHAHAHAHA! 苦しゅうない! 次は何して遊ぶ?」
光葉、マリナ、麗、そしてジェシカ。四人は笑顔を崩さず、それぞれのやり方で大統領を次の行動へと誘導していく。
「大統領〜、私お腹空いちゃった」
最初に声を上げたのは光葉だ。小首を傾げ、上目遣いでアピール。わざと子どもっぽく振る舞うその仕草は、普段の彼女からは想像できないくらい“演技がかって”いた。
「一緒に晩御飯食べましょうよ〜」
マリナは説明不要。両手を合わせ、にっこり笑うだけで空気を乗せる。彼女が言うとそれだけで本当に楽しそうに聞こえるから恐ろしい。
「大統領のディナー……見てみたいですー」
麗は一歩下がった位置から、ぽつりとひと言。余計な説明はいらない。その夢見がちな声色が、場に妙なリアリティを生んでいた。
「大統領!グランドプリンスホテル広島にご用意が出来ております」
最後にジェシカがきっちり畳みかける。外交官らしい落ち着きと権威を帯びた口調で、行き先を既成事実のように提示。四人の連携を締めるのは、やはり彼女だ。
「そうか!そうだな、俺も腹ペコだ。すぐに移動しよう」
ポーカーはまんまと釣り上げられ、胸を張ってSPに合図を送った。瞬時に車が準備され、一行は宇品にあるグランドプリンスホテル広島へと向かった。そこはG7サミットでも使われた一流ホテル。海を望む高層フロア、その中でも最高級のスイート──クラシッククルーズに案内される。
「いかがでしょうか?一番いい部屋をご用意しております」
「まあまあだな。それよりディナーはどうなってる?」
ぴちぴちのJKに囲まれて、ポーカーの顔は緩みっぱなし。女子たちはそれぞれ演技を分担し、わざとらしいほどの歓声で盛り立てていく。
「きゃあー、素敵ー! ポーカー様ー!」
光葉が両手を頬に当てて、漫画みたいな黄色い声。
「マリナがあーんで食べさせてあげるネ」
マリナはスプーンを掲げるフリをして、悪ノリ全開。
「どんな料理なのか楽しみです~」
麗は目を細め、ほんのり夢見がちに囁く。その落ち着いた声色が逆に本物っぽさを演出していた。
◇◆◇
宴会場へと向かう途中、ポーカーがふと立ち止まった。
「お前たち先に行って待ってろ。俺は野暮用だ」
妙に偉そうな言い方。トイレ行くだけなのに、なんでそんなに威厳を出す必要があるんだ。
「トイレですね。ご案内します」
ジェシカが即座に察して一歩前に出る。その声色はいつも通り穏やかだが、目は冷たく光っていた。その瞬間、マリナのスカートの影から、小さなリモコンが音もなく滑り出て、自然な軌道でジェシカのポケットへ。ウィンクと微笑みの交換。セリフはいらない、完璧な無言の連携だ。
ポーカーはそんな裏のやり取りに気づくはずもなく、ジェシカを廊下に立たせて一人トイレへと向かう。便器の前に立った刹那、ポーカーの身体が突如として硬直する。ジェシカがマリナに託されたリモコンの停止ボタンを押したのだ。
(なんだ? 身体が……動かん! バカな、これは……)
その気配を察して、奥の個室から現れたのは、僕と古新開だった。
「大統領〜こんばんは」
「手間をかけさせやがって、この野郎」
(なぜここに!?)
僕らは硬直したポーカーを素早く個室に押し込み、有無を言わせず下着以外の衣服を剥ぎ取る。抵抗はもうできない。僕は自分の服を脱ぎ、ポーカーの服に着替える。そして補助頭脳AIへ命令を下した。
「AIよ! 変身モードだ。ドナルド・ポーカーに擬態せよ」
「ぴこーん! 了解です」
骨格が変化し、筋肉が再構成される。顔の輪郭も瞳の色も瞬く間に変わり、僕は完全に若きポーカー大統領に姿を変えた。スマホや小物もすべて回収し、トイレ前のジェシカと合流する。大統領専用SPの鋭い視線が一瞬こちらをかすめたが──気づかれる様子はない。
同時に、ジェシカがさりげなくトイレの入り口にリモコンを落とす。古新開が拾い、個室のポーカーに向けてスイッチを押した。次の瞬間、ポーカーは白岳家メインコンピュータの遠隔制御モードに切り替わる。古新開が用意していた服を着せられ、無言のまま引き立てられていく。
「じゃあ行こうぜ。白岳家へ。下へタクシー呼んでるから」
(くそー、何がどうなってるんだ!自由が効かん!おい!誰か助けろ!おーい!)
脳内で叫んでも声にはならない。リモコンによるリミッターは、身体だけでなく発声すら封じているのだ。このリモコンこそ、かつてスヴェトラーナ博士がマリナを停止させようとした“アレ”。今回は白岳家製サイボーグに効く改良版として、マリナが非常時に備えて携帯していた。さらにマリナが計測したポーカーのデータも事前に僕の補助頭脳にインストール済み。だからこそ完璧な擬態が成立する。もちろん、SPであるジェシカの協力がなければ不可能だったのも確かだ。
(ありがとう、ジェシカ)
僕は今、ポーカー大統領そのものの姿で美少女たちと宴会場へ向かう。
世界最高権力者の「拉致・監禁・入れ替わり」作戦──こうして、まんまと成功を収めた。……いや、どこが“平穏な日常”なんだよ。
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