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第119話 こいつ…ぶん殴りたい

 広島市内の某有名お好み焼き店にて。図らずもポーカー大統領を囲む食事会が行われ、僕らは彼の自慢話とプチセクハラ話を長々と聴く羽目になっていた。


 ポーカーが言うには、今回の「お忍び来日」はサイボーグ化した身体の運用試験を兼ねており、最終的にうちの父・白岳康太郎にメンテナンスをしてもらう予定だという。食事もひと段落し、次の予定は?とジェシカに尋ねるポーカー。


「次の予定は広島平和記念公園にて献花を。その後は原爆資料館、原爆ドーム、折り鶴タワーとなっております」


 その言葉を聞いてポーカーの顔がいきなり曇った。眉をしかめると、まるで駄々をこねる子どものように口を尖らせた。


「なんだー?そんなつまらんスケジュールはキャンセルだ!もっと面白い観光名所やアトラクションはないのか?ジェットコースター!遊園地!ピカチュウショーはないのかね?」 


 子供みたいに目を輝かせ、ただひたすらに「アトラクション、アトラクション」と繰り返す。周囲の空気が凍る中、その幼稚さが際立っていた。ジェシカは一瞬だけ冷たい氷のような目を光らせるが、にこりと外交官用の微笑みに戻す。柔らかな声だが、端々に厳しさがある。


「お言葉ですが大統領……折角ここ広島市に来られたのです。先年のG7広島サミットに参加された首脳の皆様に倣って、原爆死没者の方々に哀悼の意を表して下さいませ」


 ジェシカの声には礼儀正しさが保たれているが、その裏で「祖国の米大統領として威厳と慈愛を見せてほしい」という覚悟がきらりと光った。だがポーカーはその忠告をまるで耳に入れていないようだった。


「何言ってんだ?私の貴重な自由時間だぞ。もっと気の利いたアトラクションを用意せんか!」


 そう言い放つや否や、横にあった冷水のコップを手に取り――勢いよくジェシカの顔にぶちまけた。


「!?」


 水柱が飛び散る。テーブルの上の音が一瞬にして止む。氷水が落ちる音だけが、VIPルームに遅れて響いた。常識がぶっ飛んだ瞬間だった。僕の中で怒りの針が振り切れる。立ち上がりかけると、ジェシカがスッと手を伸ばして制した。その姿は静かで、しかし圧のある制止だ。ジェシカの表情は一歩も崩れない。濡れた髪を指でそっとかきあげ、柔らかな笑顔でポーカーに語りかけた。


(ジェシカ!)


(いいのよ。こんな男なのよ、こいつは)


 彼女は濡れた頬を拭うでもなく、平然とした声で提案を続ける。


「申し訳ございません。では予定を変更して市内の遊技場へご案内いたします。ボウリング、ダーツ、ビリヤード、バッティングマシーン……カラオケもございますわ」


 ジェシカは微笑を保ちながら、目の奥は冷たい刃のようだ。抜けばスパッと切る、そんな空気を醸し出している。


「HAHAHAHAHA!それだよジェシカ君。まずはボウリングから行こうか。私の華麗なテクニックを見せてやろう」


 ポーカーは瞬時に機嫌を直した。悪ガキが好きなおもちゃを見つけたかのような、幼子のような満面の笑顔を見せる。が、すぐに視線をこちらへ向けた。


「そうそう、そこの白岳jrと江田島の小僧はもう帰っていいぞ」


 侮蔑を含んだ言い草だ。血が沸き立つ。僕らの目に炎が灯る。


「はぁ?呼び出しておいてそれか。なめんな」


 古新開が立ち上がって声を上げるが、ポーカーは肩をすくめて笑う。


「ふざけんなよ!俺たちと勝負だ。ボウリングで俺らが勝ったらひとついう事を聞いてもらうぞ!」


 古新開の胸が大きく張る。挑発だ。だが、ポーカーはやっぱり軽くいなす。


「つーん……面白くないからやらん」


 その無関心さがさらに火に油を注ぐ。


「なんだとこいつ!」


「おいおい、私を誰だと思ってるんだ? これ以上逆らうなら明日から関税を300%にしてもいいんだぞ?」


 ぴらりと取り出したスマホは、明らかに「大統領専用回線」らしい。場が一瞬縮こまる。


「くぅー……なんて卑劣な!」


「HAHAHAHAHA。ビジネスだよ。さあ、可愛いJKたちは一緒に遊ぶぞ」


 ポーカーの悪ノリは止まらない。言葉を弄して人を追い詰める。僕らは腹の底から怒りを覚えた。光葉の顔がさっと硬くなる。


「私たちお断りします! ふざけないでください!」


 彼女の声は低く、目だけが笑っていない。マジで切れている。


「そうよ。お兄ちゃんたちと一緒に帰ります」


「ホント……時間の無駄だったわ。来るんじゃなかった」


 そこへポーカーはスマホをちらつかせ、罪悪感などないかのように言う。


「そんなこと言っていいのか? 関税上げるぞ。ほらほら」


◇◆◇


 怒りが頂点に達しそうになったとき、光葉が両手でTの字を作って声を弾ませた。


「タイム!タイム願います!」


 場の空気を切り替えるのは彼女しかいない。ポーカーは意外とノリが良く、


「おおっ?いいぞ、三分だけな」


 と許した。僕らは急いでVIPルームを出て、別室で作戦会議を始めた。


「あの野郎……前からぶん殴ってやりたかったが……マジで我慢の限界だ」


「広島の核廃絶への想いを無視しやがって……俺にも殴らせろ。いいだろ、白岳?」


 古新開の拳が震える。ジェシカが諭すように言う。


「ちょっと落ち着いて。ああ見えても世界最高権力者なのよ。下手したら一生を棒に振るわ」


 麗があきれた感じで言い放つ。


「あれってワザとなのかしら?それにしてもヒドイ男」


 マリナは腕を組み、唇を尖らせているがその眼は何か企んでいるようにも見える。


「うーん……やっぱり康太郎パパの予想が当たったね。みんな……実はこういうことになると思って秘策を用意してあるの」


 その言葉に場の空気が一気に変わる。期待と不安が交錯する。


「そうなんだ! 何なのマリナちゃん?」


 光葉が目を輝かせる。


「実はね……(ごにょごにょ)」


 マリナが小声で囁くと、僕らは顔を見合わせる。なにやら相当危ない、しかし効果は高そうな雰囲気だ。


「まさか……そんな物が?」


「ジェシカちゃん……どう思う?米国諜報部員として」


 ジェシカは眉をひそめて少し首をかしげるが、すぐに微笑を戻し、低い声で応じた。


「それ……行ける。私も協力するからやっちゃおう。バレなきゃOKよ」


 この一言で決まった。僕らは、へたれ大統領に鉄槌を下す作戦へと突入することになった。


「ふふふ……決まりだね。私たち原宮高校SF超常現象研究会を甘く見たポーカー大統領に鉄槌を!」


「おおっ!!」


 僕らは気勢を上げ、喧嘩モードではなく“工作モード”に心を切り替えた。


 ◇◆◇


 そして再びVIPルームへ戻ると、ポーカーは悠然と椅子に座り、僕らをあざ笑う。


「どうしたね諸君。私にひれ伏す準備は出来たのかな?」


 その瞬間、光葉が袖口を二度、指先で弾いた——合図だ。それから光葉が目に涙を浮かべて縋るように演技を始めた。彼女の演技は極上だ――涙で曇る瞳、震える声、肩を震わせる仕草。大統領の前で彼女が急にか弱くなったのを見て、ポーカーはたちまち「おいしい」反応を示した。


「大統領〜すいませんでした〜!私たちが考えが至らず申し訳ありません」


「何でもお付き合いしますから日本に酷い事しないでー!」


「私たちでよかったらおもてなしさせてください!」


 ジェシカも柔らかい笑顔と奉仕の言葉で同調する。


「大統領……彼女等もそう言っております。許してあげて下さいません?」


 演技の波状攻撃だ。ポーカーは得意げに頷く。


「HAHAHAHAHA。まあ……仕方ないな。その代わり今日明日は全力で私をもてなせよ!」


「はい!大統領!!」


 演技は成功した。ポーカーは「当たり」を引いた顔で満足げに腕を組んだ。


「じゃあ、野郎二人はGO HOMEだ」


「わかりました。みんなをよろしくお願いします」


「同じく……よろしくたのむわ」(怒)


 顔を引きつらせながら僕と古新開はお好み焼き屋を後にする。外に出ると空気は冷たく、胸の中の火炎は消えていなかった。SF研の美少女たちの運命は? そしてド変態科学者・白岳康太郎がマリナに託した秘策とは――?

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


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