第116話 ルナの処遇は?
意外な幕切れの後、しばらくして金縛りから解放されたさやか会長は、震える足で審査員席へ向かいマイクを借りた。舞台上の事件にまだ騒然とする観客たちへ向けて、徳丸さやかは深々とお辞儀をする。そしてマイクから発せられたのは、涙声だった。
「今日お集まりの皆さま。わたくしが原宮高校生徒会長の徳丸です。私たちの拙いパフォーマンスで折角の大会を搔き乱してしまった事……心よりお詫び申し上げます」
謝罪の声と同時に、生徒会メンバー全員が深々と頭を下げる。その姿を見た観衆からは、温かい拍手とともに「パフォーマンスよかったぞ!」「凄かったよ!」「惜しかったな!」などの声が上がった。
仮面舞踏会風のマスクを外した会長の素顔は涙に濡れてなお美しく、観客の中には「逆に惚れた!」「ファンクラブ作る!」と口走る者まで現れた。
「皆さま、ハプニングになりましたこのルナ・ベネットさんはわが校の交換留学生で、日本語も勉強中です。ですが……今日の日のために必死で練習して、とにかく皆様を喜ばせようと……」
さやかの声が震え、涙混じりになる。観客から「がんばれ~」「いいのよー」「気にしないで」といった温かい声が飛び交い、子どもが「お姉ちゃんキレイ!」と叫ぶ声まであがった。
「皆さまの温かいお声掛け、本当に感謝いたします。もしよかったら、今日のハプニング画像や動画はSNSなどにUPしないようお願い申し上げます。ルナさんの体面に傷をつけるような事態は避けとうございます。どうかよろしくお願いいたします」
再び全員で深く頭を下げる生徒会メンバー。その誠意ある姿勢は多くの呉市民を感動させ、大拍手に包まれて彼らは舞台を後にした。
──こうして呉市ハロウィン仮装大会は、《伝説の爆乳事件》とともに幕を閉じたのである。
◇◆◇
控室に戻ると、重い空気が満ちていた。
「会長……素晴らしいリカバリーでした」
「勝負はともかく、生徒会の名誉は守られました」
内神副会長と塩屋会計がさやかを労う。
だが、塩屋はすぐにルナへ冷たい視線を向けた。
「それはそうと……この駄牛娘は如何なさいますか?」
「えーん! こんなにコスチュームが脆弱だなんて! 私悪くないですよう~!」
政畝書記は腕を組み、厳しい眼差しを投げる。だが、その横でさやかは幹部の言葉を耳に入れていなかった。仮面の下から大粒の涙をこぼし、口惜しさと予想外の敗北に打ちひしがれている。
「ううっ……グスッ……白岳くん……なんで負けちゃうかな……」
さっきまで完璧な謝罪で観客を掌握していた会長が、糸が切れたように崩れ落ちる。 その姿に内神も塩屋も目を丸くし、政畝だけが深いため息をついた。
「あああぁぁーさやか様、大丈夫ですか?」
「そんなに白岳くんがうちに来ないのが悲しいだなんて……」
政畝は小声で幹部たちに囁いた。
「今日はそっとして差し上げよう。祝勝会の会場もキャンセルしとくよ。二人ともさやか様を頼む」
さやかは女子二人(内神と塩屋)に支えられながら、徳丸家の送迎車に乗り込むのだった。
「さて……ルナさんも行こうか」
政畝が腕時計をちらりと確認し、淡々と声を掛ける。場の空気は重いままだ。
「えーと……お仕置き部屋とかですか?」
ルナはビクッと肩を震わせて問い返す。目は泳ぎ、足元でつま先をトントンと鳴らしている。
「鹿田家(ホームステイ先)まで送るよ」
「……あれ? 実は優しい人なの? もしかして……お咎めなし……とか?」
期待を込めて身を乗り出すルナ。だが、政畝の返答は冷ややかだった。
「そんなわけないだろ。さやか様のメンタルが戻れば何かあるよ」
「やっぱり……」
ルナは顔を青ざめさせ、しばし考え込む。そして小声で呟いた。
「あのー……おっぱい揉んでいいんで……助命嘆願とか協力してくれません?」
政畝は額に手を当て、深いため息をついた。
「……うーん……今回だけだぞ」
「やったー!! どうぞお好きなだけ! 揉んだら幸運が訪れるって言われてます♡」
ルナは勢いよく胸を張り、両手でわざわざ谷間を寄せて政畝に差し出した。
「バカ!もう少し恥じらえよ。雰囲気台無しだぞ」
政畝が顔を赤くして叱責するも、耳の先まで染まっている。
(──後に夫婦になる二人だった、苦笑)
◇◆◇
月曜日。自宅で一晩泣き明かした徳丸さやかは、打ちひしがれた心のまま怨霊のお面を着けて登校。クラスメイトがそのおどろおどろしい姿に思わず三度見するという有様だった。
放課後、生徒会室で反省会が開かれる。当然ながら議題の中心はやらかしたポンコツ怪人の処遇だ。判決を待つ間、床に正座するルナ。
「信賞必罰です。ルナには脳改造(自我消去)を提案いたします」
「さやか様の計画を台無しにした罪を思えば止む無しでしょう」
内神と塩屋の声は冷酷そのもの。だが政畝が割って入った。
「今回の件ですが、ルナに落ち度があったかは微妙では?与えられた任務を全うしていたら、ビキニアーマーが破損した。これは開発部や装備担当のミス。ルナに落ち度があったとは言えないかと」
(政畝~いいぞー。弁護頑張って~!)
「慎一郎くん、やけにルナの肩を持ちますね。何かありました?」
内神がじろりと疑いの目を向ける。塩屋も顎に手を当て、じっと様子をうかがっていた。
(ドキッ!)
政畝の背中に冷たい汗が流れる。
「いや、特には。ただ……怪人となると一般戦闘員とはコストも違います。脳改造は弱体化の元かと」
努めて冷静に言うが、声はわずかに上ずっていた。
「まあよろしくてよ。あなたの言には理があります。ルナの処分は無しにしますわ」
さやか会長が鷹揚に頷くと、ルナがすかさず飛び跳ねる。
「へへー、ありがとうございます、さやか様~!」
両手でガッツポーズを取り、床に正座したまま小刻みに揺れている。
「私はあなたの暗殺スキルに期待してますの。私を殺害の一歩手前まで仕掛けた高い技術をね」
さやかの眼差しは氷のように冷たい。
(えーと……組織のくれたアイテムが一流だっただけなんだけど)
ルナは引きつった笑みを浮かべ、心の中で必死に弁明する。
「今後はルナの監督を慎一郎に任せますわ。助けたからには、しっかり面倒を見なさい」
「ははっ!」
背筋を伸ばし、敬礼のように頭を下げる政畝。その横で、ルナは「やったー!」と無邪気に小声で叫んでいた。 ──こうして政畝の計らいで、ルナはギリギリで命拾いをするのだった。
その後、僕たちSF超常現象研究会は、生徒会の認可の下に正式なクラブ活動となる。暫定で予算も付いた。会長は約束を破りはしなかった。代わりに、この後、ますます僕に執着していくのだった。
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