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第114話 呉市ハロウィン仮装大会・前編

 それからの、青山先生マイケル・ジャクソンによる指導は、地獄でありながらも刺激的な日々だった。毎日ムーンウォークの練習で床を擦り減らし、体育館のワックスは一週間で剥がれ落ち、青山先生の革靴も三日で穴が空いた。しかも休憩時間には「フゥー!」と奇声をあげて職員室に戻るので、同僚の先生方から白い目で見られていたらしい。


 だが、その甲斐あって僕たちの動きは確実に磨かれ、体幹も、気持ちも、ひとつにまとまっていった。そうそう、挑戦状の受諾を聞いたさやか会長の歓喜は、生徒会室を揺るがすほどだったという。そして双方が持てる全力で準備を進め、ついに──決戦の日が来た。


 ◇◆◇


 呉市役所の隣にある呉市中央公園特設ステージ。


 既に広場は観衆で埋め尽くされ、子どもたちは仮装をしてはしゃぎ、大人たちもカメラやスマホを手に熱気に包まれていた。出場者は市内のダンス教室や大学のダンス部、社会人チームなど強敵ぞろい。それぞれ華やかで完成度の高いパフォーマンスを見せていたが──。


 その中でも、原宮高校SF研は異彩を放っていた。二十世紀最高のエンターテイナー、マイケル直伝のダンス。ジェシカの手配したハリウッド仕込みの特殊メイク。波多見先生と福浦によるリアルオカルト演出。その本気度は、まるで一夜限りの映画の撮影現場のようだった。


 出場順は僕たちが先、生徒会はトリ。……もちろん抽選によるものだが、今思えば生徒会の仕込みだったのかもしれない。


 舞台裏。いよいよ出番を迎え、青山先生マイケルが僕たちに声をかける。


「Don't be afraid to make mistakes. You've got this. You are perfect.」


「マイケル先生は『ミスしたら切腹だ。武士道を見せてみろ』とおっしゃってるわ」


 ジェシカの翻訳に、古新開が感嘆する。


「さすがプロは言うことが違うな!」


 (……誤訳じゃないか?)


「Go out there and enjoy the performance, everyone. Don't forget to smile.」


「マイケル先生は『死んで来い!骨は拾ってやる』とおっしゃってるわ」


 光葉が楽しそうに笑う。


「ふふふ……ヒリヒリしてきたね。上等じゃない」


「ジェシカ……その翻訳、合ってる?」


 ジェシカは意味ありげにウィンクをした。


(……まあ、気合は入ったけど)


「マイケル先生に恥ずかしいところは見せられんぜ!」


「今日は私もおふざけなしで頑張るよ」


「もとより、勝つ以外眼中にないわ」


「じゃあ、行くぞ!」


「「おおっ!」」


 ◇◆◇


 僕たちのパフォーマンスが始まった。ハロウィン版特別アレンジの「スリラー」。


 僕はゾンビマイケルに、光葉は黒衣の魔女、ジェシカは包帯ぐるぐるのミイラ、古新開はカボチャ頭のジャック・オー・ランタン、麗は角と羽を持つ悪魔、マリナは牙の生えた吸血鬼。おどろおどろしい音楽に合わせ、完璧に揃ったダンスが広場に轟く。


 「うわぁ!」「本物のミュージックビデオみたい!」


 観客から歓声が飛び、子どもが泣き出し、スマホを掲げる大人たちはシャッターを切り続ける。他の出場チームの大学生が「これ反則だろ!」と叫んでいたのも耳に入った。


 舞台裏では、波多見先生が超音波ボイスで悲鳴や効果音を演出。福浦が神通力で小物を浮かせ、ステージを本物の怪奇空間に変えていく。


 そして極め付きは──僕とマリナ、古新開、麗の変身だ。


「AIよ! ハロウィンモードへ移行だ!」


「ぴこーん! 了解しました!」


 僕は舞台上でみるみるうちにゾンビから狼男へと変貌していく。マリナは吸血鬼のコスチュームを脱ぎ捨て、ツギハギだらけのフランケンナースへ変貌した。古新開と麗は変身ユニットを起動。光り輝くナノマシンが全身を覆う。古新開は白い布を纏ったゴーストに、麗はボロボロの服を着た案山子に、それぞれ早変わりだ。


 その光景に、観衆も審査員も息を呑み、声を失った。最後はマイケル直伝の決めポーズで締めると──爆発したかのような拍手が広場を揺らした。


(これは勝っただろう!)


 舞台裏で待つ青山マイケルが満面の笑みを見せる。僕たちはハイタッチを交わし、生徒会の出番を見るため観客席に回った。


「ヤスくん、お疲れ様。もうその狼男の顔はいいよ。元に戻したら?」


「ははは、光葉ちゃん……例によって一週間このままさ」


「私もだよ。仕方ないね、私らそういう仕様だもん」


「お前らの身体を張ったパフォーマンス……敬意を表するぜ」


「その姿で登校したら街中パニックにならない?」


「帽子とマスクでなんとか……なあマリナ?」


「そうだね。私もさやか会長みたくお面着けようかな」


 一同、爆笑。やることはやった。あとは結果を待つだけだ。


 ◇◆◇


 舞台裏、生徒会メンバー。


「ほほほ、さすがですわ。やりますわね」


 さやか会長は余裕の笑みでSF研の健闘を讃えた。


「審査員の根回しは完了しております」


「パフォーマンス、審査員、どこにも死角は無し」


「あとは魅せるだけですね」


 内神、政畝、塩屋の声は冷ややかに響く。


 そこへルナが手を挙げ、震える声で進言した。


「さやか様! 名誉挽回にこのルナにお任せを! 泥門まり子先生によって、補助頭脳AIにあの大女優の思考をインストールしていただきました!」


「男性客へのサービス要員として……邪魔にならないくらいには頑張りなさい」


 冷徹な一言。政畝がさらに追い打ちをかける。


「ルナ、もし失敗したら……補助頭脳ごと脳みそをリセットする。それだけだ」


「ひぃぃっ……ははっ!」(えーん! こんな目立つ場所でホルスタイン牛怪人に変身するんだー! 恥ずかしいようー!)


 そして最終組──生徒会のパフォーマンスが始まろうとしていた。観衆はまだ知らなかった。この夜が、呉市ハロウィン大会史上、最も奇怪で恐るべき一日になることを──。

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