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第111話 さやか会長の秘めた恋

 徳丸さやか会長からの不意の挑戦状に慄きながら、僕と光葉は生徒会室を後にした。今日のところは案件を持ち帰り、返答は明日まで。──わずか一日の猶予、それが逆に重くのしかかっていた。


 生徒会室を出て、クラブ棟のSF研部室へと向かう。夕暮れの校舎を歩きながら、光葉が隣で落ち着かない様子で僕を見上げてくる。


「ヤスくん、どうしたらいいかな? 逃げたら廃部ってひどくない?」


 焦った声色。彼女の足取りはせわしなく、僕の袖を強く握りしめていた。けれど僕の頭の中では、さやか会長の神々しいまでの美貌と「わたくし、白岳君のファンなんですの」という言葉が、ずっとリフレインしていた。あの微笑、あの吐息──頭が真っ白になったまま、思考が全然追いつかない。光葉の声すら霞んで聞こえる。


「もう! ヤスくん、しっかりして! さやか会長がそんなに気になるの?」


 頬をぷくっと膨らませて、半分怒ったように僕の腕をグイッと引っ張る光葉。瞳には苛立ちと、ほんの少しの寂しさが混じっていた。


「はっ! ごめんごめん。何の話だっけ?」


 慌てて返す僕に、光葉は大きく息を吐いて肩を落とす。


「頼むから目を覚ましてよ! 賭けよ、賭け! 受けるの? 受けないの?」


「そうだよね。受けなきゃ廃部だとしたら、これはもう戦うしかないんじゃないかな?」


 ようやく核心を口にすると、光葉は一瞬うつむいて考え込む。その表情は強気な女帝のものではなく、迷う普通の女の子のようだった。


「そうだよね。でも、元々は私の趣味で立ち上げた同好会だし、みんなが乗り気じゃなかったら廃部も仕方ないと思うの」


「どうしてそう思うの?」


「負けたときのことよ。生徒会の人たちって、何か変じゃなかった? 私の中では『デンジャラス警報』が鳴り響いてたんだけど」


 真剣な目。冗談めかした言葉の裏に、ひりつくほどの直感がにじんでいた。


「確かに、あの雰囲気は独裁者とエリート幹部って感じがしたよね」


「みんなを徳丸会長の部下に差し出すようなことは、いけない気がするんだよ」


「福浦のこともあるし、会長には何か底知れないものを感じるよね」


 僕はまだ心臓が落ち着かず、会長の笑顔が脳裏をちらついたまま。けれど光葉の真剣さに背を押され、クラブ棟のドアノブを握った。後に続く光葉は短く息を吸い、迷いを奥にしまい込んだ。──これから、みんなで腹を割って話し合わなければ。


 ◇◆◇


 一方そのころ、生徒会室。幹部たちが集い、秘密会議が静かに始まっていた。


「みなさま、ご苦労様でしたわ。まずは第一段階の呼び出しと、わたくしの魅了を彼に仕掛けることができました。明日の返答が楽しみですわね」


 ソファに腰掛けるさやか会長の声に、幹部たちは恭しくうなずく。


「あの調子では、白岳くんもさやか様の美貌に陥落するのは時間の問題かと」


「まあ、男女問わず、さやか様の魅了に抗える者などいないからな」


「そうかしら? 長谷光葉はかなり抵抗していた気がしたわ。さすがに霊能力があると噂されるだけのことはあるかもね」


 内神副会長が慎重な表情を見せる一方、塩屋会計が楽しげに笑った。


「ふふふ。SF研メンバーが常時生徒会室に出入りするようになれば……拉致、監禁、洗脳、改造、隷属。どれも日直の当番仕事みたいに、思いのままですもの」


 背筋が凍るような言葉を、彼女はさらりと口にした。


 やがて、内神副会長が少し声を潜めて尋ねる。


「さやか様は、本当に白岳くんをお好きなのですか?」


「いけませんか? 妬いてますの?」


「それは・・・もちろんです!」


「今までそのようなお相手などいらっしゃらないと思っておりましたが」


「彼が特別な理由が何かございますか?」


 矢継ぎ早の問いに、さやか会長はすっと立ち上がり、窓際に歩み寄る。夕闇に沈む校庭を見下ろしながら、ゆっくりと告げた。


「この際ですから、はっきり申し上げておきますわ。白岳靖章……彼は頭脳明晰・容姿端麗・質実剛健・・・正に理想の王子様。いずれは私の皇配といたしますの」


「皇配……つまり、全世界を支配する女帝さやか様の配偶者ということですか!?」


「ええ、そのとおりですわ。ですから、お前たちもそのつもりでいらっしゃい」


「ははっ!」


 幹部たちが一斉に頭を垂れる。会長は恍惚とした笑みを浮かべながら続けた。


「ほほほ。見ました? わたくしの素顔を見て固まった、あの可愛らしいお顔を。早くわたくしの元へ……明日にでも、わたくしのモノにしたい」


「さやか様の下に、白岳様が一日も早く跪きますよう尽力いたします!」


 熱に浮かされたような賛同の声が室内を満たす。


 そのとき、隅で会議を聞いていたルナ・ベネットが、手をぱっと挙げて前のめりになった。


「さやか様! よかったら私が今からでも白岳くんを誘惑してきましょうか? ほらほら、彼って私の胸をじーっと見てましたから! 絶対いけると思うんです!」


 自慢の豊胸を強調しながら明るく笑うルナ。その姿は必死に媚びようとするペットそのものだった。


 ……しかし。


「ルナさん……なんとおっしゃいました? 私の可愛い白岳くんを誘惑するですって?」


 狐面の下から放たれる視線が、氷刃のように鋭く突き刺さる。


「この・・胸だけ大きいホルスタイン牛怪人が!発言を取り消しなさい!」


 ピシッと空気が凍りついた。


「ひぃぃっ! はい! 申し訳ありません! つい調子に乗ってしまって、どうかお許しを!」


 顔面蒼白のルナは、その場に崩れ落ちるように土下座した。


「躾のできてないペットにはお仕置きが必要ね。明日の朝まで、そのまま土下座してなさい!」


「ははーっ!」(えーん! 逆らえないー! 身体も動かないー!)


 涙目で床に伏せたまま動けないルナ。その横で、会長は再び優雅に腰を下ろす。


「それでは、みなさま。パフォーマンスの打ち合わせと、審査員への根回し──必要なら買収でも脅迫でも──その手順を相談いたしますわよ」


「ははっ!」


 生徒会室を支配するのは、もはや学園の枠を超えた闇の女王の野望だった。SF研は、その闇に飲まれてしまうのか──。


 ◇◆◇


 深夜。時が落ちていく。


「えーん! お腹すいたー! 床冷たいー! ……それに、なんの音だろ?」


 静まり返った校舎に、確かにピアノの旋律が流れていた。(←波多見先生の仕業)


「ひぃー、怖いー!」


 土下座したまま凍りつくルナの叫びが、静かな暗闇の校舎にこだました。

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