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第110話 会長からの挑戦状

 生徒会室で対峙するのは、生徒会長・徳丸さやか──女王と呼ばれる存在。そしてSF研部長・長谷光葉──学園の女帝と称される存在。龍と虎が睨み合うような構図に、室内の空気は一気に張り詰めていた。


 気配を察したのか、会計の塩屋英里奈がすっと立ち上がり、奥のブースからティーポットを手に戻ってくる。湯気とともに紅茶の豊かな香りが漂い、少しは張りつめた空気を和らげようとしているようだ。


「お話の前にさやか様も一服なさってください。長谷さんと白岳くんもリラックスして」


「英里奈……ありがとう。ふふふ、いい香りですわ」


 さやか会長は優雅な所作でカップを持ち上げる。


 (……お面をしたまま、どうやって紅茶を飲むんだろう?)


 そんな疑問が浮かんだ次の瞬間、彼女はゆっくりと左手で狐面を外した。現れた素顔を見て、僕と光葉は息を呑む。白磁のように透き通った肌、流れるような長い黒髪。眼差しは甘くも冷ややかで、見る者の心をすくい上げる魔性の輝きを放っていた。


 (噂では聞いてたけど、美人とか美少女とかいうレベルじゃない……女神、いや女悪魔か!)


 呆然と見つめる僕らに、さやか会長は唇の端を上げる。


「ほほほ、あんまり見つめられると照れますわ」


「失礼しました……」


 僕と光葉は、揃って頭を下げてしまった。


「君たち、会長の素顔を見るのは初めてだよね? お面の意味も分かるだろう?」


 政畝書記が面白がるように口を挟み、内神副会長が小さく笑みを添える。


「美しすぎるのも罪深いものだわ」


「有体に言えば、ストーカー対策とか、芸能人スカウト対策も兼ねてます」


 塩屋会計がさらりと補足するが、僕の耳には届かなかった。ただただ、会長の美貌に見入るばかりだった。その視線に気づいたのか、さやか会長の目が僕に重なり──柔らかく微笑む。その瞬間、心臓が跳ね上がるのが分かった。


「本題の前に……白岳君。わたくし、君のファンなんですの」


「え? 会長が?」


「ええ。夏の高校野球地区予選……全試合観戦いたしました。はぁ……かっこよかったですわ」


 吐息混じりの言葉に、血の気が一気に顔へとのぼる。僕はしどろもどろになりかけたが、光葉が慌てて割り込んだ。


「会長も野球お好きなんですか? 野球部、頑張りましたよね!」


「ほほほ。まさか私の在任中に野球部が甲子園に行くなんて。本当にあなたたちのおかげね。改めてお礼申し上げますわ」


 しばし和やかな雑談が続く。けれど僕の胸の鼓動は収まらず、紅茶の味すら分からない。


 ◇◆◇


 やがて会長は姿勢を正し、声の調子を変えた。


「本題よ」


 その一言で、生徒会室の空気が一段と重くなる。


「わたくし、君たち二人を高く買ってるんですの。それとSF研の皆さんも。それで、よかったら生徒会の手伝いとかしてみないかしら?」


「SF研のみんなですか?」


「そうですわ。わたくしが思うに、来年の生徒会長は長谷さんか白岳君。ならば今から生徒会に馴染んでいてもいいと思いますわ」


 光葉が即座に口を開く。


「会長! 先のことは分かりませんし、私たちは独自の活動もありますから、ちょっと無理だと思うんですが……」


 しかし、その答えを待っていたかのように、役員たちが畳みかけてくる。


 内神副会長が身を乗り出し、諭すように言った。


「君たち、日本が誇るカリスマ生徒会長が直々にご指導くださるんです。こんな僥倖はないですわよ!」


 政畝書記が瞳を輝かせながら続ける。


「学業のみならず、人生の指針にもなるだろうね。僕らはみんな、さやか様の下で働けて幸せなんだ」


 塩屋会計が胸に手を当てて断言する。


「そうですよ! この学校にさやか様がおられること自体が奇跡! その御方に声をかけられるなんて、君たちの幸運は宝くじの一等当選にも勝ります!」


 言葉の洪水に押され、僕と光葉は顔を見合わせる。


(ははは……圧が半端ない……) 


(うーん……何か危険な香りがするわ。でも、飛び込みたい!このデンジャラスゾーンに!いやいや、どうしよう……)


 そんな動揺を見透かすように、会長が甘やかな声で告げた。


「もちろん……無理にとは申しませんわ。でも、君たちを諦めきれないの。よかったら、賭けをしませんこと?」


「賭けですか?」


「そうですわ。今度の呉市主催のハロウィン仮装大会で、ステージパフォーマンスの依頼が来てますの。どうかしら? 私たち生徒会と君たちSF研で、ステージパフォーマンス対決というのは?」


「ええー!?」


 思わず僕の声が裏返る。


「僕ら素人ですよ?」


「生徒会も素人ですわ。それに呉市の審査員の方が優劣を決めるなら、勝負は公正明大。遺恨もないでしょう?」


「それで、勝った場合や負けたときの条件は?」


 光葉が問いかける。会長の瞳が妖しく光り、唇に笑みが浮かんだ。


「うちが勝ったら、君たちSF研は生徒会の下部組織として、私の任期満了までお手伝いしてもらいます。もちろん、本来の活動も隙間時間におやりなさいな」


 やわらかな声なのに、その宣告は逃げ道を塞ぐ鉄鎖のようだった。


「うちが負けた場合は……SF研のクラブ昇格と来年度予算を確約いたします」


 そして一拍置いて──狐のような笑みを深める。


「ただし……勝負から逃げた場合は、今年度内に廃部ということで、いかがかしら?」


 そこに潜む毒気を前にして、僕も光葉も言葉を失う。甘くも冷たい挑戦状に、僕らはただ息を呑むばかりだった。

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