第109話 真生徒会登場
原宮高校の秋の遠足も終わり、季節は晩秋へと向かっていた。呉の街も次第にハロウィン色に染まっていく。オレンジ色のカボチャ、黒衣の魔女、西洋風の怪物たち。元々この国になかった風習は、いつの間にか日本にすっかり馴染んでいた。
地域活性化事業として、呉市は今年、大規模な「ハロウィン企画」を打ち出していた。市を挙げての大仮装大会である。日曜日には市役所横の中央公園に特設ステージが設けられ、エントリーしたグループによる仮装パフォーマンス大会も開かれる予定だった。
けれど、僕たち原宮高校SF研には関係ない話だと思っていた。みんなで江田島に自転車を借りてサイクリングしようと盛り上がっていた矢先──。
ハロウィンの十日前の放課後、光葉と僕は、生徒会長・徳丸さやかから呼び出しを受けた。また福浦のことで何か言われるのかな、と苦笑しながら生徒会室へと向かう。扉の前で声をかける。
「失礼します。SF研の長谷と白岳です。御用があるとお聞きして参上しました」
すると、中から扉がガラリと開き、凛とした女性の声が響いた。副会長の内神玲華だった。
「いらっしゃい。お呼びだてして申し訳ないわね。さあ、どうぞお入りくださいな」
内神先輩は会長の右腕と呼ばれる存在で、端正な顔立ちと知性にあふれる会話力で男子生徒から圧倒的な人気を誇っていた。数か国語を操れる才媛だという。僕と光葉は自然と背筋を伸ばし、少し緊張しながら中へと足を踏み入れる。
室内では、書記の政畝慎一郎が柔らかい笑みで出迎えた。
「二人ともよく来てくれたね。歓迎するよ」
彼は生徒会で唯一の男子。一見は中性的な雰囲気を漂わせ、物腰も穏やかだ。だが会長が特に信頼を置いているらしく、将棋や囲碁の腕はプロ級とも噂される。
促されて応接セットに腰を下ろすと、今度は会計の塩屋英里奈が紅茶を淹れて運んできた。
「まあまあ、緊張しないで。今日来てもらったのは、悪い話じゃないからね」
塩屋先輩は眼鏡をかけた知的な女性で、いわゆる委員長タイプ。可愛げよりも有能さが光り、数学オリンピックに出場した実績まである才女だった。
「先輩方、ありがとうございます。ところで、会長は?」
光葉が問いかけると、内神先輩が答える。
「もうすぐいらっしゃるわ。楽にして待ってて」
その言葉に合わせるように、政畝書記と塩屋会計も立ち上がり、僕たちの背後に並ぶ。息がそろいすぎていて、ただの役員同士の関係には見えない。
次の瞬間、生徒会室の扉が再び開き、徳丸さやか会長が姿を現した。今日の彼女は狐面をつけ、ゆったりとした足取りで入室してくる。
(……また仮面。なんなんだろう、この人は)
僕が心の中で突っ込みを入れる間もなく、彼女は優雅に声をかけた。
「みなさま、ごきげんよう」
その声に合わせ、生徒会役員たちが一斉に頭を垂れる。
「さやか様、ご機嫌麗しゅう」
「ほほほ、楽になさって」
自然すぎる主従関係のようなやりとりに、僕の背筋に違和感が走る。
さやか会長が手を打つと、背後の扉からもう一人現れた。
「ルナ!お入りなさい!」
「え?」 「ん?」
思わず僕と光葉が声を揃えた。
入ってきたのは交換留学生のルナ・ベネット先輩だった。
「こんにちわ~!みんなのお姉さんルナでーす!」
突き抜けた明るさで手を振るルナ先輩。その姿は、生徒会室の重苦しい空気に似つかわしくないほどだ。
「紹介しますわ。ルナ・ベネットさんを生徒会の下僕……もとい、広報担当として採用しましたの」
「そうなんです!さやか様のお役に立つよう頑張ります!」
ルナ先輩は満面の笑みを浮かべながらそう答える。だがその笑顔の裏から、僕には何か異質なオーラがにじんで見えた。
「そういうことで、お見知りおきくださいませ」
「はい……わかりました」
「ルナ先輩、嬉しそう。よかったですね!」
光葉が素直に喜ぶと、ルナ先輩は両手を胸の前で組んで答えた。
「そうなんですよ。ルナはとっても幸せです!」
(えーん!さやか会長のペットにされちゃったんだよー!誰か助けて~!)
心の奥で叫ぶルナ先輩。その声は当然誰にも届かない。
やがて、全員がそろい、会長が応接セットの僕らの正面に腰を下ろす。ルナはその背後に控え、護衛のように立つ。
その時だった。僕の補助頭脳AIが突拍子もない警告を鳴らした。
「ぴこーん!お気を付けください!ルナ先輩のバストが前回見た時より更にサイズアップしています!ジロジロ見たら光葉さんに嫌われますよ」
(なんだって!? 本当か?)
思わずルナ先輩を見やると、確かに制服が以前より更にきつそうに張りついていた。
「ヤスくん!何か気になるものでも?」
光葉の鋭い視線に、僕は背筋を凍らせる。
「はっ!いやー、何も見てないよ。何もね」
「ほほほほほ。白岳君♡見るべき相手が違いましてよ。見るならわたくしになさい」
狐面越しに笑うさやか会長。
「ぐぬぬぬ……」(負けないんだから!)
その声音にからかわれて、光葉が悔しそうに唸る。
(……早く帰りたい)
僕が心の中でぼやいたところで、政畝書記が静かに声を発した。
「会長、そろそろお話を」
促され、さやか会長の視線が僕と光葉にまっすぐ向けられる。その視線に、背中を冷たい針で刺されたような感覚を覚えた。いよいよ本題が始まろうとしていた。
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