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第107話 元の世界へ

 ふと大鳥居に目を向ける。そこには──奇跡のような光景があった。


 金星人の攻撃で真っ二つに折れ落ちたはずの大鳥居が、まるで時間を巻き戻したかのように再生していたのだ。朱塗りは鮮烈に蘇り、夕陽を浴びて黄金色にきらめく。木材の継ぎ目には一切の傷も残っておらず、ただ堂々と海に立ち、神々しい光を放っている。


 目を凝らせば、周囲の町並みも元通りだった。崩れた瓦は一枚もなく、焦げ跡も消え去り、瓦屋根の青と木造の朱色が並ぶその景観は、まるで戦いの爪痕など最初から存在しなかったかのように整っていた。


「……すごい。まるで夢みたいだ」


 呟いた僕の耳に、落ち着いた声が届く。


「みんな……今回もよくやってくれた。宮島も救われて、今後の金星人の襲来も大丈夫そうだ。安心して帰れるぞ」


 青山先生の言葉は、沈みかけた夕陽の光よりも温かかった。僕らは互いに顔を見合わせ、ようやく肩の力を抜く。すると古新開が胸を張り、にかっと笑いながら親指を突き立てた。


「俺と麗でフェリーの様子も見てきたぜ。オールオッケーだ」


 その声に安堵の笑みが広がる。麗も小さくうなずき、仲間たちの間に静かな誇りの空気が流れた。


 そこへ佐伯神主が一歩前に出て、海風に揺れる装束を整えながら、澄んだ声で告げる。


「皆さんのおかげで、私も元通りの姿に戻れました。宮島の女神様にお力をお借りして、皆さんを元の世界……最初の時間へお戻しします」


 その言葉に、マリナがぱっと顔を輝かせる。


「やったー! じゃあ、遠足はちゃんとできるんだね?」


 声に希望がにじむと、神主は柔らかく微笑み、うなずいた。


「はい!ぜひ宮島をお楽しみください。白岳さんたちの世界にいる私たちが、きっと心を込めておもてなしします」


「そんな……気を遣うことはないですよ。広島県民なら当然のことをしたまでですから」


 思わず照れ隠しのように言った僕に、佐伯神主は真剣な眼差しを向けて深く頷いた。


「本当にありがとうございます。皆さんは広島の誇りです!」


 その言葉に、僕らは思わず笑みを交わした。笑いと涙が混ざり合い、緊張と達成感が解け合う。戦いの終わりをようやく実感する瞬間だった。


「じゃあ、全員揃ったな。フェリーに帰るぞ」


 青山先生の号令が響き、仲間たちが一斉にうなずく。だが僕は、ふと首を傾げた。


「うーん……そうそう……福浦は?」


 問いかけに、古新開が眉をひそめる。


「奴らの母船の操縦室を制圧したみたいだったが……」


 僕の背筋に冷たい予感が走った。


「もしかして、金星人の母船ごと、銀河連邦の宇宙船へ収容されてる!?」


 上空を仰ぎ見たそのとき、耳に響いたのは懐かしい猫の声──いや、念波だった。


「うにゃあぁぁぁぁ!わしを置いていくんじゃないニャ!」


「三毛太郎!」


 みんなが一斉に声を上げる。麗が目を凝らして指差した。


「え? どこに?」


 波多見先生が福浦の姿を高性能望遠機能で捉える。


「今……宇宙船からダイブしたところ」


 その言葉どおり、はるか天空から小さな黒い影が落ちてくる。上空五千メートル──雲層を突き抜け、猛烈な勢いで自由落下しているのは、両目を涙で濡らし、毛を逆立てた一匹の三毛猫だった。必死に手足をばたつかせる姿は、見た目はただの家猫だ。


「にゃあぁぁぁ!高いニャ!怖いニャ~!」


 地鳴りのような風切り音を響かせながら迫ってくる影。その絶叫は戦場を共にしたあの三毛猫のものに違いなかった。


「いやぁー!このままじゃ、わしの神通力でも致命傷だニャ!嫌だニャ~!助けるニャ~!」


 場の空気が凍りついた瞬間、背後から落ち着いた声が飛んだ。


「やれやれ……みんな先にフェリーへ。私は三毛太郎を助けて合流するから」


「波多見先生!よろしくお願いします!」


 僕らは頷き、島の人々に支えられながら桟橋へ向かう。その頭上を、轟音が突き抜けた。振り仰ぐと、波多見先生が両足裏のロケット推進装置を全開にして飛翔し、稲妻のような軌跡を描いて空に舞い上がっていた。


 瞬く間に空中で猫の体を抱きとめる。


「アマビエ~! 助かったニャ!」


 ぶるぶる震えながら必死にしがみつく三毛太郎に、先生は落ち着いた声で答える。


「三毛太郎もお疲れ様。じゃあ行くよ!」


 僕らがフェリーに到着したときには、すでに二人は先に戻ってきていた。抱きかかえられたまま情けない泣き声を上げる三毛猫。その姿に、僕らは思わず苦笑し合った。そして再会を喜び合い、全員で船に乗り込む。


 その時、宮島の桟橋にはすでに大勢の住人が僕らを見送りに集まっていた。彼らは一斉にこちらへ身を乗り出し、必死に声を張り上げる。


「無理な頼みにも関わらず、本当によく来てくれました!」

「ありがとう・・・ありがとう、皆さん!」

「どうかいつかまた来てくださいね!」


 可愛い鹿耳を出した人鹿族の宮島の島民の皆さんが、温かいお見送りの言葉を投げかけてくれる。 僕らも目一杯手を振ってそれに応える。佐伯神主と紅葉ちゃんが先頭に並んで大きく手を振ってくれていた。

 

 全員が乗り込み、席に着く。安堵の吐息とともに腰を下ろした瞬間、まるで糸がぷつりと切れたかのように、激しい睡魔が僕らを襲った。瞼が鉛のように重くなり、鼓動が遠のいていく。最後に聞こえたのは、仲間たちの笑い声と、波の音が重なり合う響きだった。


 そして──目を覚ますと。フェリーは、宮島の桟橋にゆっくりと着岸しようとしていた。

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