第105話 広島県民・怒りの一刀
巨大な敵母船内にて、強力なエネルギー弾と分厚いバリアを持つ機械兵に対峙するSF研一行。僕の対金星人用エネルギーフィールドでかろうじてエネルギー弾を受け止めているが、状況は危険だった。
「クソッ! こいつ……一発一発がぶち強い上に、この連射……いつまでも持たないぞ!」
衝撃の波で腕が痺れ、木刀を握る手が汗で滑りそうになる。その瞬間、僕の補助頭脳AIが無慈悲な通告をしてきた。
「ぴこーん! エネルギーフィールドの展開可能時間、残り5分。限界が近づいています」
「ええっ!? なんだって!?」
「体内バッテリー残量が閾値を下回りました。外部バッテリー接続を推奨します」
耳をつんざくような警報音と、AIの冷静すぎる声が頭に突き刺さる。
「そんなもん遠足に持ってこないわ!」
自分でも分かるほど声が裏返った。状況がシビアすぎて、冗談にすらならない。
「体内バッテリーがほぼ限界です。残り4分30秒で防御不能に移行します」
AIの宣告に焦りに焦る。
「ああああああああ! ヤバい!」
そのとき、背後から頼りになる声が飛んだ。
「白岳!下がれ!船外におびき出すんだ!外でやるなら俺も手助けできるぜ!」
古新開の怒鳴り声は、まるで熱風のように僕の背を押す。
「古新開! 了解!」
僕はエネルギーフィールドを盾にしつつ、母船から船外に猛ダッシュした。弾幕をかいくぐる度に火花が散り、焦げた臭いが鼻を刺す。フィールドに守られながら、古新開、マリナ、麗、波多見先生も続き、厳島神社前の干潟へと転がるように飛び出す。
僕らを追っていた光弾は一時ストップ。しかし、ガチャンガチャンという重い足音が響き、すぐにでも鉄の巨体が出てくるのは明らかだった。
僕のバッテリーは活動限界ギリギリ。鼓動が嫌なほど速い。どうする!?残る最後のエネルギーで渾身の一撃を与えるべく構えた、そのとき。
僕の前にマリナがすっと立ちふさがる。
「お兄ちゃん……ここはマリナに任せておいて」
振り返る彼女の横顔は、不思議なほど静かで、決意が固まっていた。
「どくんだ!マリナ!奴は強いぞ!対人戦闘じゃ無双のお前でも、機械兵相手は分が悪い!」
必死に叫ぶ僕の声をよそに、マリナは肩越しに微笑む。
「へへへ……大丈夫だよ。私の命って一度死んでたのを、お兄ちゃんに救ってもらったんだ。だから……靖章のために使うなら惜しくないの」
「駄目だ、マリナ!せっかく助かった命だ!」
必死の制止にも振り返らず、彼女は巨体が迫る通路を睨み据えた。その横に古新開が並び立つ。
「白岳……心配するな!俺もいる! 麗!アレを発動するぜ!」
頼もしさに一瞬救われるが、同時に何が始まるのかドキドキしてしまう。
「ヒロ!わかったわ。ただし、これの活動時間も長くて5分よ」
麗の冷静な声が重く響く。彼女も覚悟を決めているのだ。
「充分だぜ!いくぞ!変身!!!」
「ええ!変身!!!」
二人の掛け声が空気を震わせ、眩い光が二人を包んだ。ベルトのラインが走り、ナノマシンが渦を巻いて戦闘服を形成していく。
「次期特殊戦隊用に開発中の戦闘服だ」
「まだテスト段階の実験用だけどね」
息を飲む僕の前で、二人が鮮やかにポーズを決める。
「カイジレッド、参上!」
「カイジブルー、参上!」
「麗、マリナ、行くぜ! 奴を足止めするぞ!白岳は止めを頼む!」
「おおっ!任せろ!」
古新開を先頭に、麗とマリナが突撃する。その背中が、戦場の光を切り裂いてまぶしかった。
◇◆◇
母船から飛び出した高性能機械兵(全高約10M)は、砂浜を震わせて着地した。
敵司令官の声が脳に響く。
「下等な地球人どもが! よくも我らを愚弄してくれたな! こいつの戦闘力で全員皆殺しだ! その後で島ごと焼き払ってくれるわ!」
その右足に戦闘力が増した古新開の全力飛び蹴りが炸裂! 関節部がぐらつく。続けて麗の大回転旋風脚がコクピット付近を直撃。しかし、衝撃を与えても致命傷にはならない。
更にその隙をついて、マリナが背後へ高速移動。両手首から白岳製特殊鋼糸を放ち、機械兵の両足を絡め取る。
「少しでも動きを鈍らせれば!」
渾身の力で鋼糸を締め上げるマリナ。しかし振り返った機械兵の光線砲がマリナを狙う。
「やられる……ごめん、お兄ちゃん!」
その瞬間、「ちゅいーん」と青白い熱光線がマリナを狙う砲口を焼き裂く。
「私がいることも忘れてもらっちゃ困るわ!」
波多見先生の声だ。さらに青山先生の光線銃とジェシカの投げ込む手榴弾が機械兵の足を止める。
「的を絞らせるな!散開して各個一撃離脱だ!」
「ダーリン!お願い!みんなを助けて!」
僕は木刀を構え、渾身の一撃を準備する。しかしもうバッテリー残量が赤信号だ。このままでは──そう思ったとき。
護岸から日美子様と紅葉の声が響いた。
「ヤスくん! 頼むぞ! 皆のエールを届けるからの!」
「勇者様~、ファイトです!!」
その声を皮切りに、宮島の島民、人鹿族たちが一斉に声を合わせた。
「宮島の神主が祝詞を上げて申すよう──原宮は勝ち勝ち勝ち勝ち!」
「宮島の神主が祝詞を上げて申すよう──白岳は勝ち勝ち勝ち勝ち!」
宮島全体を揺るがすような大声援だ。みんなが手に手に宮島名物「しゃもじ」を持って打ち鳴らす。「必勝」「合格」「根性」「平和」などと書かれた大しゃもじも振られている。その声援が、まるでワイヤレス充電のように僕のバッテリーに注ぎ込まれていく。
(ヤスくん……私の超能力で、みんなの想いをエネルギーに変換したよ)
「光葉ちゃん! ありがとう! 決めるぜ!」
僕は叫ぶ。
「うぉー! 広島県民の怒り! この一撃に賭けるぜ!」
雄叫びとともに突撃。
「白岳! 来い!」
「おおっ!」
古新開の肩を踏み台に、僕は飛翔した。全出力を込めた木刀が長大な光の刀へと変貌し、機械兵を袈裟懸けに斬り裂く。
ズバーン!!!
巨体がズズーンと音を立てて倒れる。
「馬鹿な! この私がやられるとは!?」
干潟に崩れる機械兵。コクピットから司令官金星人が這い出す。
「峰打ち!」
ガン! 青山先生の銃床が一撃を加え、金星人は沈んだ。
その瞬間──干潟全体に大歓声が響いた。揺れる島民の声援が、勝利の余韻を包み込む。
僕はその歓声を最後に聞きながら、活動限界を迎える。
「ぴこーん……ミッションコンプリート。お疲れさまでした」
AIの声を背に、僕の意識は静かに途切れていった。
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