第103話 敵母船墜落!
敵母船から襲来した円盤型UFOと金星人部隊をぶちのめした頃。
僕らが紅葉谷公園で金星人を捕縛していると、上空を奴らの母船がふらふらと通過していくのが見えた。その巨体は葉巻のように細長く、鈍い金属光を放ちながらゆっくりと旋回している。幾度か翼のような突起が火花を散らし、明らかに損傷を負っているのが見て取れた。波多見先生と福浦が大打撃を与えたのだと確信するには十分すぎる光景だった。
僕らは一瞬で意思を合わせ、現場を離れて母船を追った。砂煙を蹴り上げ、民家の屋根すれすれを駆け抜ける。島の風が塩と焦げた匂いを含んで喉を刺す。金星人の母船(葉巻型UFO)は、潮が引いた厳島神社の干潟にゆっくりと着陸した。海面に映るその影は不気味で、周囲の空気まで冷たくした。岸壁には島民が集まり、そのほとんどが手を合わせるか、祈るように固まっていた。僕らは人波をかき分け、湿った砂の感触を確かめながら砂浜に降り立つ。足元で小さな貝殻がキュッと鳴った。
「どうなってるんでしょうか? こっちには捕らえた金星人の人質もいますし、下手な真似はできないと思うんですけど」
声は穏やかだが、その裏に緊張が滲む。社殿や島民が盾になるような事態だけは避けねばならない。
その時、僕らから逃げて母船に向かっていた円盤型UFOも、慌てたように母船に収納されていくのが見えた。
望遠機能を持つマリナがその能力で状況分析しながら叫ぶ。
「なんだか慌てて合流したみたいな感じかな?」
僕もすぐにその姿を確認した。母船のハッチがバシャリと閉まり、煙が噴き出している。
「みんな……向こうも上手くいったみたいだ!」
「そうなのか! ふぅー、安心したぞ!」
「ダーリン、よかったわね。私たちも行ってみましょう!」
ジェシカが僕の手をギュッと掴む。彼女に手を引かれ、母船の方へ歩み寄る。
その時、母船の方から念波なのか、大きな声が聞こえてきた。潮風に乗って、どこか猫っぽい声が大ボリュームで響いた。
「うにゃー!! 操縦室を制圧したニャ! みんな乗り込んでボコボコにするニャ!」
その声に、一瞬だけ周囲が静まった。続け様に歓声のようなものが湧き上がる。
「福浦の声だ! あいつ、操縦室を制圧したのか!」
「さすがだぜ! 俺たちも行こう!」
「そうね! 急ぎましょう!」
古新開、麗、マリナ、そして僕が駆け寄る。心臓が高鳴り、血が音を立てるようだ。足が地面を蹴るたび、決意が増幅される。
そこへ、弥山から降りてきた波多見先生が、推進装置を噴かしながら、民家の屋根を二軒飛ばしでやってきた。着地の瞬間、瓦がパラパラと崩れ落ちる。
「みんな、首尾は上々みたいだね」
「はい! とりあえず、目の前に立ちはだかった奴らはまとめてボコボコにしていただきました!」
紅葉の顔がほっとしたように緩むのを見て、僕は少しだけ安心する。だが油断はできない。
「うんうん。宮島の女神様もお喜びみたいだね。さあ、三毛太郎と合流して、金星人の始末をしましょう」
波多見先生はいつもの柔らかな口調だが、眼差しは鋭い。事態の収束を急いでいる。
「どうします? 二度と来れないようコンクリに詰めて瀬戸内海に沈めますか?」
古新開が両手をぶんぶん振り回しながら物騒なことを言い出した。目つきは本気、でもどこかノリが半分冗談じみている。
「海洋汚染が心配じゃないか? 山に埋めた方がいいと思うんだが……」
僕は思わず眉をひそめる。頭の中に、金星人入りコンクリートブロックが沈む海中を想像してしまった。海の魚たちがびっくりして逃げ回る光景が浮かんで、苦笑いが漏れる。
「待って! 元の世界に戻れたら、いい実験対象としてNASAかCIAが高く買ってくれると思うんだけど!」
ジェシカがぱっと手を挙げ、まるでオークション会場のセリみたいな勢いで叫んだ。目が輝いていて、すでにドル建ての計算をしているのが透けて見える。
「一応……人型ではあるけど、もしかしたら食材になる可能性もゼロではないんじゃないかな?」
麗は腕を組み、首をかしげながら冷静に、しかし突拍子もないことを口にした。その表情は真剣で、まるで新しいレシピを考えている料理研究家のようだった。
「それよりも……貴重な労働力として宮島復興にシベリア待遇でこき使うのもいいと思わない?」
マリナがにこやかに両手を合わせる。声色は優しいが、その言葉の内容は意外とブラック。島民の復興作業に金星人が混ざってスコップを振るう姿を想像して、僕は思わず吹き出しそうになった。
様々な意見が飛び交う中、青山先生が頭を抱えながら「全員却下だ」と一喝する。
「まず母船を叩くぞ。金星人もこいつらで最後じゃないだろう。そういう意味でも、事は慎重にいくぞ!」
その言葉に皆がきゅっと引き締まる。目的は母船の制圧に尽きる。
「先生、これを!」
ジェシカが差し出したのは、先ほど鹵獲した光線銃だ。金属の冷たさが手に伝わる。
「私たちでも使えると思います」
「光線が出る以外は拳銃とほとんど変わらないな」
青山先生が銃を受け取り、簡潔に評価する。安全第一で扱う必要がある武器だ。
「はい! これならもっと援護できるかと」
ジェシカの表情には若干の自信が戻っている。
「先生、ジェシカ……無理しないでいい。母船は僕がやるんで」
僕は自然と先頭に出ていた。手にはさっき島民に貰った宮島観光土産の木刀を握っている。どこにでもある安物だが、今はそれが僕の武器だ。
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