第101話 金星人襲来!
厳島神社で佐伯親子から話を聞き終えた、その瞬間だった。
本殿の戸がガラリと開き、一人の人鹿の巫女が顔面蒼白で飛び込んできた。肩で荒く息をつき、目には恐怖が浮かんでいる。
「神主様! 紅葉様! 弥山の山頂付近に……金星人の宇宙船が現れました!」
「なんだと!? もう来たのか!」
「こんなに早く来るなんて……もしかして、白岳さんたちが来たのを察知されたのかもしれません!」
景弘と紅葉が同時に驚愕の声を上げる。空気が一気に張り詰め、社殿の中に緊張が走った。
しかしジェシカだけは冷静だった。腕を組み、低く鋭い声を発する。
「動きが早すぎるわね。敵戦力の分析も、要員の配置も整っていない。青山先生……どうします?」
「もう来ちゃったかぁ……」
先生はしばし天井を仰ぎ、深く息を吐いた。
「……どのみちやるしかないんだ。なら全力で迎え撃つしかないな」
青山先生の決意に、僕らは力強く頷いた。
「先生……止めても無駄ですよ」「能力全開放で行くぜ!」「うにゃぁー!」
古新開と福浦が同時に雄叫びを上げ、床板がビリリと震える。
紅葉は顔を引き締め、必死に説明を続けた。
「皆さん……金星人は小型円盤に乗って町に降りてきます。見た目は金ぴかの服を着た変な人、ですが……光線銃や機械兵で武装しています」
「この世界の官憲や自衛隊はどうなってる?」
青山先生の問いに、紅葉はきょとんとした顔をした。
「えーと……それは何ですか?」
景弘が代わって説明する。
「この宮島は神聖世界で、外界とは渡し船でのみ繋がっております。銃火器などの持ち込みは禁止。これまでは我ら人鹿族が霊力を込めた弓矢や刀で戦ってきました。しかし……神鹿角を奪われ、霊力が尽き、今では劣勢に……」
「なるほど……」
青山先生が小さく頷き、ジェシカに目配せする。
「こっちの通常兵器なら通じる可能性があるな。西条と私は銃器で援護だ」
「了解。先生の分もあります」
ジェシカが差し出した拳銃を受け取り、青山先生が素早くスライドを引く。金属音が場に響いた。
「白岳兄妹、古新開と黄幡! お前らは一人一人が一騎当千の強者だ。円盤から降りてきた奴らを片付けろ!」
「わかりました! みんな、行くぞ!」
「「おおっ!」」
「そして、波多見先生と福浦は、奴らの母船を頼めるか?」
「いいわよー。乗りかかった船だし。青山先生……私の装備の安全装置解除コードをお願いね」
「ニャハハハ……大戦中に呉に来たグラマンを竹槍で叩き落としたのを思い出すニャ!」
(え、本当にやったの……? いや、福浦ならあり得るかも)
「波多見先生、福浦、お願いします! 僕らも敵を制圧したら駆けつけますんで!」
「まあ任せておきなさい。一度やってみたかったのよ。全武装解放ってやつをね」
波多見先生は、ぞっとするほど悪い笑みを浮かべた。
◇◆◇
僕らは厳島神社を抜け、北側の出口から町へ駆け出した。石畳の参道を踏み鳴らし、瓦礫を飛び越え、風を切る音が耳に突き刺さる。
その先頭を行くのは──巨大な猫又に変化した福浦だ。全身は白黒茶の光り輝く毛並み、しなやかな四肢が大地を蹴るたびに、土煙が尾を引いた。その背中に、波多見先生がひらりと飛び乗る。その姿はまるで、某映画の猫バス。けれど可愛いどころか迫力満点で、見ている島民たちが思わず口を開けて立ち尽くすほどだった。
「わしらは母船を叩くニャ! みんな、気を付けるニャ!」
福浦の喉から響く重低音に、胸が震える。
「ああ! 頼んだぞ、三毛太郎!」
僕らが叫ぶと、二人──いや、一人と一匹は疾風のように遠ざかっていった。民家の屋根に抜け上がったその瞬間、視界から掻き消えるほどの速さだった。
残された僕らは顔を見合わせ、そして再び町へと駆け出す。
「お兄ちゃん! 母船から小型円盤が出てきたよ!」
マリナの鋭い声に、僕の背筋が粟立つ。
空を見上げれば、陽光を反射する葉巻型UFOが腹部を開き、次々と小さな機体を吐き出していた。
「奴ら、どこに降りてくる!?」
息を切らせながら問いかける僕。その時──紅葉が駆け寄ってきた。両腕に抱えているのは、黄金に淡く輝く大きな神鹿角だった。
「白岳さん……これを持って行ってください! 金星人の狙いは神鹿角です。この角があれば、円盤は必ず引き寄せられます!」
差し出された角を受け取ると、手に伝わるのはずしりとした重みだけでなく、まるで命そのもののような力の鼓動だった。
「そうか……これで町を避けられるな」
強く頷き、僕は仲間を振り返る。
「白岳くん、どこへ行く?」
冷静な麗が聞いてくる。
「北の山裾、紅葉谷公園だ! そこで迎え撃つ!」
迷いはなかった。戦場を選ぶなら、人里を離れたあの場所しかない。
「妥当だな。急ごう。長谷は紅葉くんと一緒に避難してくれ」
青山先生の冷静な指示。だが──光葉ちゃんは首を横に振った。その表情は、いつもの天真爛漫な笑みではなく、真剣そのもの。
「いえ! 私も戦います!」
「光葉ちゃん! 危険だから無理は駄目だよ!」
僕が慌てて呼び止めた、その瞬間だった。光葉ちゃんの身体が金色に輝き、柔らかな輪郭が別の姿に塗り替わっていく。そこに立っていたのは、守護霊にして最強の霊能力者──神原日美子。瞳は炎のように燃え、纏う気迫に思わず息を呑んだ。
「心配無用じゃ。わしもはらわたが煮えくり返っておる。本気のパンチをお見舞いしてやるわ」
低く響く声に、背筋がぞくりとする。
「わかりました! 一緒に行きましょう!」
僕が叫ぶと同時に、古新開が「待ってました!」とばかりに先頭へ飛び出す。その背中を追い、僕らは紅葉谷公園へと町並みを抜けて駆け抜けていった。
◇◆◇
紅葉谷公園。秋には真紅に染まる木々が広がる名所だが、今は血の匂いが漂う戦場になる。
神鹿角をベンチに置き、僕とマリナ、古新開と麗が円盤を待ち構える。木立の間では、青山先生とジェシカが自動拳銃を構え、引き金に指をかけた。標的を見定める冷徹な視線が光る。さらにその背後で、日美子様と紅葉が弓を構えて息を潜める。
やがて──空が唸りを上げた。
直径20メートルほどのアダムスキー型円盤が、青白い光を放ちながらゆっくりと降下。地上10メートルで停止し、宙に浮かんだまま無音で佇む。
そして底部が左右にスライドし、人型の影がゆっくりと降下してきた。銀色のヘルメットにマスク、全身タイツのようなぴっちりスーツ。手には銃型の武器──光線銃か? 次々と現れる金星人。人間に似てるが微妙に歪んだ顔。数は10。先頭の一人が声を発した。その声が脳に直接響く。
「我々は宇宙人だ! 抵抗は無駄だ。今この島にあるすべての神鹿角を差し出せ! そうすれば命だけは助けてやろう」
機械的で冷徹な声。場の空気が凍る。
……だが。
僕は足元の石を拾い、指にかけて握り込んだ。その瞬間、球場で培った感覚が蘇る。 大きく振りかぶって、全力で投げる。大谷超えの時速170キロの剛速球が金星人の顔面を直撃。ヘルメットが吹っ飛び、甲高い音を立てて地面に転がった。金星人のリーダーはぶっ倒れ、変な断末魔を上げる。その変事に一緒に降下していた仲間が一斉にざわつく。
「『我々は宇宙人だ』だと? ベタすぎるんだよ!」
その叫びが合図となった。原宮高校SF研メンバー、総員突撃。──金星人への反撃が始まった。
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