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第99話 宮島?上陸

 大型旅客フェリーの最上部にある操縦室──通称「艦橋」に、僕らは呼び出された。


 緊張しながらドアを開けると、中では船長が頭を抱え、冷や汗を流しながら計器を何度も叩いている。その横で、双眼鏡を握りしめた青山先生が険しい顔で窓の外を見据えていた。


「失礼します!」


 僕らが声をかけると、先生はすぐに振り返った。


「白岳! 今の状況がわかるか?」


「すいません……何なんですか?」


 僕が尋ねると、光葉ちゃんとジェシカがすかさず口を揃えた。


「先生! また何か事件ですか?」


「大方また超常現象か怪異ですか?」


 青山先生は深く息を吐き、双眼鏡を差し出した。


「それがな……宮島の様子を見てみろ。どう見ても、私らが知る町じゃない。あの大鳥居も意味不明だ」


 僕とマリナが交代で双眼鏡を覗き、さらにマリナは超望遠モードで確認する。確かに島の輪郭は宮島だ。しかし、町並みはあちこち壊れ、まるで戦火を受けたような有様。岸壁には大勢の人々が並び、期待に満ちた瞳でこちらを見上げ、大きく手を振っていた。


「先生……何か事情があるんでしょうか? 島の人たち、僕らに上陸してほしそうです」


 僕の言葉に、船長は血相を変えた。


「いやいやいや! もし原宮高校の生徒に何かあったら大変だ! 今ならまだ引き返せる! 同じ航路を戻れば、呉港に帰れるはずです!」


 だが、その言葉を波多見先生が軽く切って捨てる。


「引き返しても、たぶん帰れないわ。ここは、もう私たちの世界じゃないんだから」


「なんだとー!? 今回も貴様の仕業か!」


 青山先生が勢いよく波多見先生を指さす。まるで刑事ドラマの取り調べシーンのようだ。


「違うわよ。私たちを呼んだのは、宮島の厳島神社の女神様だから」


 波多見先生は慌てず騒がず、むしろ余裕の笑みを浮かべて答える。その態度に、場の緊張が逆に増した。


「もしかして……並行世界とかですか?」


 光葉ちゃんが小さな声で、けれどどこかワクワクした調子で尋ねる。まるで冒険物語の続きを待ちわびる子供のように。


 すると波多見先生はにっこり微笑み、すんなりと頷いた。


「そうそう。ムーでは『鏡の中の世界』と呼んでたわ」


 あっけらかんとしたその返答に、みんなが「やっぱりか……」と顔を見合わせた。


「ふっふっふっ……やはり呼ばれてしまったか! 神が俺の存在を無視できるはずがないからな!」


 ドヤ顔の古新開が高らかに宣言した瞬間──。


「ヒロ……ちょっと黙ってようか」


 背後から麗が音もなく接近。次の瞬間、彼の体はあっさりと卍固めに捕らえられていた。


「ぐはあっ! 痛い痛い!」


 麗に手足を絡め取られジタバタする古新開。麗は眉一つ動かさず、ギリギリと締め上げる。僕らが失笑する中、場の空気がようやく落ち着いてきた。


 そんなドタバタを横目に、マリナが真剣な声を発した。


「先生……島の人たち、何か困ってるみたい。話を聞いてあげてもいいんじゃないかな?」


 視線の先では、桟橋の島民たちが必死に手を振っている。その姿に、船内も静まり返った。


「全通信回線は沈黙。GPSも死んでるわ。ここが別世界だと認めるしかないですね」


 ジェシカがスマホを片手に冷静な分析を加える。声は落ち着いているが、その目は真剣だった。


「先生! あの大鳥居を見たら……もう放ってはおけません! 行かせてください!」


 僕の必死な訴えに、青山先生は腕を組み、眉間に深い皺を寄せた。しばらく思案するように黙り込む──が、その沈黙を破ったのは波多見先生だった。


「じゃあ、一分だけみんな耳を塞いで」


 彼女が軽やかに言ったかと思うと、澄んだ旋律がふわりと広がる。ムー秘伝の「眠りの歌」だ。一分も経たぬうちに──船長も、教員も、生徒たちも、「すやすや……」と夢の世界へ。フェリー全体が、突如としていびきと寝息の大合唱会場と化した。


「とりあえず、事件が解決するまで寝てもらったわ」


 涼しい顔の波多見先生に、青山先生が思わず声を荒げる。


「おい! 船長まで眠らせてどうするんだ!」


「三毛太郎! 操船をお願い。古新開と麗は接岸手順くらいわかるでしょ。下に行って」


 全く悪びれずに指示を飛ばす。


「了解!!」


 古新開は麗に締め上げられたまま返事をするという妙な光景。


「福浦〜、本当に操縦できるのか?」


 僕が疑わしげに尋ねると、耳をぴくりと動かしながら福浦が胸を張った。


「ウニャ! わしをなめるなニャ! 海軍時代は全兵科をマスターしたおとこだニャ!」


 その言葉通り、ドヤ顔の福浦が舵を握ると──フェリーは驚くほど滑らかに桟橋へ寄せられた。古新開と麗がロープを投げ、島民たちと息を合わせて固定。こうしてフェリーは無事、宮島に接岸したのだった。


 ◇◆◇


 フェリーが接岸すると、宮島の桟橋にはすでに大勢の住人が集まっていた。彼らは一斉にこちらへ身を乗り出し、必死に声を張り上げる。


「よく来てくれました!」

「ありがとう、皆さん!」

「お願いです! どうかお助け下さい!」


 切実な叫びに迎えられ、僕らは青山先生と波多見先生を先頭に桟橋へと降り立った。そして──その人垣から、一人の少女が静かに進み出る。白と赤の巫女装束に身を包み、凛とした立ち姿。けれど、その顔をよく見た瞬間、僕らは思わず息を呑んだ。


 ……光葉ちゃんに瓜二つ。


 僕の隣で「え、わたしってあんな顔!?」と呟く本人をよそに、少女は深々と頭を下げ、澄んだ声で口を開いた。


「皆さん! まずは深くお詫び申し上げます。ここへお呼びしたこと……本当に申し訳ありません」


「???」


 僕らが顔を見合わせていると、少女は絞り出すように言葉を続ける。


「もう……あなた方に頼るしかないのです。どうか我ら人鹿族と、宮島の女神様をお助けいただけないでしょうか?」


「……人鹿族?」


 思わず声を上げる僕。


「わたしたちが来たからには大丈夫! 何でも相談して!」


 光葉ちゃんが胸を張って答えると、少女は驚いたように目を見開いた。


「ええぇ! ……わたし?」


「私の名前は長谷光葉っていうの。あなたは?」


 光葉ちゃんが笑顔で尋ねると、少女は小さく息を整えて答える。


「申し遅れました。私は厳島神主家・佐伯景弘の娘……佐伯紅葉さえき くれはと申します」


 ぺこりと丁寧に頭を下げた紅葉。そして再び顔を上げたとき──。


 ぴょこん。


 豊かな黒髪の間から、可愛らしい鹿耳が飛び出していた。


「ええぇ! その耳って!?」


 僕が叫ぶと、紅葉は穏やかに微笑む。


「はい! 私たちはワーウルフ(人狼)ならぬ、ワーディア(人鹿)なんです」


 その瞬間、後ろに並んでいた島民たちが一斉に頭を下げ──。再び顔を上げたとき、髪の間から「ぴょこん」と鹿耳が現れた。しかも男性たちの頭には立派な角まで生えている。


「あああああ~! もう間違いない! ここは異世界か何かだ!」


 青山先生が頭を抱えて絶叫する。


「先生……言ったじゃないですか。並行世界だって」


 波多見先生は楽しげに肩をすくめた。


「わぁ〜可愛い! 人鹿なんて初めて見たよ!」


 マリナが目を輝かせる。


「よかったー。まだこのくらいの怪異ならまったく許容範囲よー」


 ジェシカはホッと胸を撫でおろした。


「人鹿族かぁー! すげーなー、この世界!」


 古新開が興奮気味に叫ぶ。


「私も初めて見ました。改造人間……じゃないんですか?」


 麗が小首をかしげると、紅葉は苦笑しながら首を振った。


「えーと、この世界では人と獣が交じり合う種族は多くいます。私たちは厳島の女神様の使いとして、この地に生み出された存在と聞いております。……とにかく、まずは厳島神社にご案内します。詳しい話はそこでいたします」


「わかりました。先生……みんな……彼女の言葉に嘘はないと思う。行ってみよう」


 僕が頷くと、光葉ちゃんも真剣な顔で口を開いた。


「わたしもそう感じるわ。というか……紅葉さんって……他人に思えないんだけど」


「並行世界の光葉ちゃんなのかもね」


 波多見先生の言葉に、光葉ちゃんは「ええぇ〜!?」と叫びつつ顔を赤らめる。そんなやり取りを背に、僕らは紅葉に導かれ、謎に満ちた厳島神社へと歩みを進めていった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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