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第一話 自分の事は自分でやろう

 波穏やかな瀬戸内海に面した──広島県呉市。

 かつて日本海軍の鎮守府が置かれ、隆盛を極めたこの街も、戦後の重工業での賑わいもすっかり廃れていき、今では過疎化の進んだ地方都市になっていた。 だがそんな街でも──いや、だからこそ、目立つ男はいる。


 そう、僕──白岳靖章しらたけやすあきだ。


 地元の旗東中学を卒業し、この春から名門・原宮高校に入学が決まっている。

ちょっと自慢してもいいだろうか?僕は呉市じゃ知られた存在。全国模試で常にトップ10入り、頭脳明晰は当然として、運動能力も規格外。部活には所属していなかったが、陸上・バスケ・野球やテニスといった競技に呼ばれては、代打で場外ホームランを打ったり、全国レベルの選手と互角に打ち合ったりと、助っ人としていく先々で伝説を作ってきた。 「記録より記憶に残る」とはよく言うけれど、僕の場合はどちらも残してしまうタイプらしい。


 ただ、それでも本気はなるべく出さないようにしていた。あくまで「ちょっと助っ人」のつもりだったのに、いつの間にか新聞に名前が載ってしまったこともある。

 

……僕としては、あれでも控えめにやってたつもりなんだけどな。


 唯一の悩みと言えば、全年代の女性にモテすぎること。特に年上の女性陣には「可愛い」とか「守ってあげたくなる」とか言われて、やたらと距離が近い。硬派を自称してる僕としては、正直なところ困惑している。高校では、なるべく目立たずに──せめて先輩女子からのアタックはどうにかかわしたい。……まあ、あんまり期待はしてないけど。


 ──そんな僕に、さらなる衝撃が訪れたのは、入学式を三日後に控えた土曜日の晩だった。


 その日も、父と二人でいつも通りの夕食。 父の名は白岳康太郎しらたけやすたろう。僕にはよくわからないが、機械工学や医学など、複数の博士号を持ち、地下研究室で日夜何かを開発している科学者だ。はたから見れば変人だろう。僕から見ても、まあ……変人だ。けれど、その研究でいくつもの特許を取り、生活には困らない程度の収入がある。技術者としての腕は、どうやら本物らしい。


 その父が、晩酌のビールを片手に、ふと僕に向かって言った。


「靖章も、いよいよ高校生だな」


 僕は箸でご飯を口に運びながら、微笑んで返す。


「まあね。もう中学生じゃないからさ。朝もちゃんと起きるし、バイトもするし、家事も手伝うよ」


「うむ。自分のことは自分でやるんだ。わかったな?」


「はいはい、毎回その話するよね。まあ、任せておいて」


 父はビールを飲み干し、代わりにプルタブを開けてハイボールを手にした。その口元には妙に満足げな笑みが浮かんでいる。


「では、今晩から自分の充電は自分でな」


「……は?」


 その瞬間、僕の右手の箸が止まる。左手の茶碗が、ほんのわずかに傾いた。


 充電? 何の話だ?


 父は平然と続ける。


「お前の取扱説明書、ベッドの上に置いておいたから。しっかり読んで、充電と自己メンテナンス、それと能力の制御を確認しておくんだぞ。充電コードはベッドの下だ。活動限界になるなよ。めんどくさいからな」


 何を言ってるんだこの人は……?


「わかったよ。スマホくらい自分で充電できるって」


「違う違う」父は鼻で笑う。


「お前自身の充電だよ。今まで週一で父さんがやってたけど、今日からはもうやらん。大人になったんだからな」


 ……え?


「言ってなかったっけ? お前、サイボーグだからな。バッテリー切れたらスリープするから、気をつけろよ」


 その言葉を聞いて、僕は箸を落としそうになった。


 ──サイボーグ?


 思考が、一瞬で霧に包まれる。父は、さらにハイボールをあおりながらご満悦だ。僕はそれ以上、何も聞きたくなかった。そそくさと食器を流し、部屋へ戻る。


「……まさか、とは思うけどさ」


 ベッドの上に置かれた、それは──取扱説明書。家電の付属品かよ!とツッコミたくなる表紙には、手書きでこうあった。


> 対金星人用自立戦闘型決戦兵器・タイプYASUAKI


 思わず、天を仰ぎそうになった。気を取り直してページをめくる。


『第一章:充電のしかた』


『足の裏に充電プラグの差し込み口があります』


 靴下を脱ぎ、右足のかかとに触れる。取説に記された「隠しスイッチ」を恐る恐る押す。


──スルッ。


皮膚が、まるで自動ドアのように滑らかに開き、金属製の端子が現れた。


……本当に開いた。


 僕はしばらく呆然とそれを見つめた。白岳靖章、16歳の春。地元で最強の中学生と騒がれた僕は──

父の手によって作られた、最高傑作のサイボーグだった。


 そして今、人生最大の難問に直面している。


「……これ、バレたら色々と面倒だな」


 そう呟いた僕の顔には、どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。──まあ、バレなきゃOKか。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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