遺品
香線寺は自室のソファに深く沈み込んだまま貴重な休日を過ごした。
灰皿を埋め尽くす吸殻を雑にゴミ箱へ捨て、眼鏡を外して目頭を押さえると唸るような声でつぶやく。
「いつまでこんな生活を送っているんだろう。情けないよな……」
膝に手をついて項垂れると、自嘲するような笑いをこぼす。
彼女が迎えることのなかった卒業式の夢を見て憂鬱な気分のまま出勤する毎日。以前までは、彼女との幸せな思い出を忘れないために必要なことだと思えば微塵も辛くなどなかった。けれどこうして数年間欠かさず同じ夢を見ていて、明らかに変わったことがある。
「最近、記憶が曖昧なんだ……」
彼女がいた事実は消えないし、あの日々も幻ではない。だが香線寺の中の彼女やそれに関連した記憶が徐々に歪み始め、夢と現実の境目が曖昧になっていた。
「わかってるよ。他の結末で塗りつぶそうだなんて、君との日々を真っ向から否定するようなもんだよな」
項垂れたままタバコに火をつける。微かに息が触れただけで揺れる煙を見つめながら、記憶を辿る。
香線寺は、彼女が死を選ぶ理由となったかもしれない出来事に心当たりがあった。さらに言えば、自分の選択が彼女を死に追いやったのかもしれないことも自覚していた。
目を伏せ、深いため息を吐く。
「もしあの時、君の提案を受け入れていたなら。いや、初めから僕が君に近づきさえしなければ。今もどこかで幸せに暮らせていたかもしれないのに……」
気分を変えるため、香線寺はテーブルの上に置かれたアルバムを手に取る。彼女が最後に遺したそのアルバムは、遺族が香線寺にぜひ持っていてほしいと仏壇の前で渡していた。
今思えば彼女はいつもカメラを手に持っていた。コンパクトで可愛らしいそれで周囲の人や、風景、それから些細な出来事をいつも写真に残していた。
「本当、そこだけはまめな性格してたよな」
香線寺はアルバムで彼女との思い出を辿りながら、懐かしさと寂しさの入り混じった複雑な表情でページをめくる。




