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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト7 天子とデイリーミッション#3

 敬が天子と出会ったのが月曜日。

 天子に友達作りプロジェクトのチュートリアル説明をしたのが火曜日。

 そして、本日水曜日は友達作りプロジェクトの本格始動だ。


 といっても、最初のやることはデイリーミッションを天子にこなしてもらう事。

 次のイベントが始まるが始まるのは、あくまで天子が少しでも人に慣れたタイミングであり、敬は実質待ちの姿勢になる。


 しかし、その次のイベントの内容は未定。

 そこだけは天子を導くものとして、敬が動かなければいけないことである。

 そんな敬は現在登校中だ。


(いい天気だなぁ.......)


 空を見上げれば、雲一つない青が広がっている。

 夏はまだまだなので、そこまで日差しは強くなく、心地よい風が吹く。

 そんな気持ちよさに浸っていたいところが.......そろそろ反応するべきだろうか。


「よもはまた刺客が現れるとは.....」


 敬が肩越しに振り向けば、そこには天子が電柱を物陰にして覗き見ていた。

 天子は敬に鋭い視線を送っているが、これは日差しと緊張とが相まった故の表情である。


(あれ? 家、逆では......?)


 そんなことを思う敬。

 というのも、一昨日や昨日の帰りと、敬と天子の二人は正門まで下校していた。


 その際、天子は「家、こっちなので」と敬と反対方向へ歩いて行ったのだ。

 つまり、今いるということは、わざわざ学校を通り過ぎてここまでやってきたということ。


(先週の時も思ったけど、大撫さんって意外と大胆な行動するよな。

 まさか朝からアクションを仕掛けてくるとは.......やっぱ勇気はあるよな)


 もっとも、その勇気が若干ズレているとも言えなくもないが。

 しかし、せっかく天子がやる気を出してくれているのなら、そこを指摘するのは野暮である。

 むしろ、敬の方から答えてやるぐらいの姿勢を見せなければ。


(それはそれとして、物陰から様子を伺う姿勢のなんとも小動物感溢れることか)


 電柱から様子を伺う天子を見て、敬はほっこりする。

 それこそ、背景には普通の人には見えないお花が飛び回っていた。

 敬の今の気持ちを一言で気持ちを表すなら、撫でたい。これに尽きる。


 登下校中に塀の上で寝そべっている猫を見つけ、ゆっくり近づいて撫でたい。

 今の天子にはそれほどまでの吸引力を放っている。

 手がうずうずして止まらない。


 しかし、ここで敬が動けば、つい流れで挨拶してしまうかもしれない。

 敬は心を鬼にしてグッと我慢する。しかし、同時にこうも思った。


(待て......逆に誘い出せばいいのでは?)


 今の天子が様子を伺っているのは、敬が近寄りがたいからだ。

 であれば、ここで敬が話しかけやすい態度を取れば、天子も動きやすいはず。

 敬は体を完全に振り向き、その場に片膝を地面につけてしゃがむ。


「カモーン! ベイベー!」


 敬は両手を大きく開き、近所迷惑を考えず叫んだ。

 その敬の行動に、天子は目を開きビクッと反応し、顔をスッと電柱に隠す。


 それから数秒後、様子を伺うように電柱から天子が顔を出した。

 そんな二人の横を、不思議そうな顔をした女子二人組が通過する。


「ふむ、これではダメか......いや、掛け声がいけなかったのか?」


 敬は顎に手を当て考える。何がダメだったのかを。

 考えられるとすれば、今のはライブでミュージシャンがやるようなパフォーマンスだ。


 それは客を煽るための言葉であり、あまり人を呼ぶために使う言葉ではない。

 今の天子は小動物っぽい動きをしている。

 つまり、取るべき行動は――


「ルールルルル」


 敬は狐を呼ぶような呼び方をした。

 これで相手が来てくれると思っているのが、敬クオリティ。

 ノリだけで動くとこのように事故るので、やる相手には非常に注意が必要である。


 そして当然、天子が敬のノリについていけるはずもなく、動くことはない。

 むしろ、先ほどの緊張によるムッとした顔ではなく、怯えたように眉尻を下げて敬を見ている。


(これでもダメか......なら、作戦ベータに移行する)


 敬は肩にかけていたスクールバッグから、飴がたくさん入った袋を取り出す。

 その中から包装されているアメを取り出し、地面の上に等間隔に点々と置いた。


 そう、餌で釣る作戦だ。それで釣れたところを確保するもとい近づく。

 どんな状況でも徹頭徹尾己のノリだけで行動するのが敬である。

 そんな敬の行動に、天子はいよいよ口をあわわわ、体をガタガタと震えさせ始めさせた。


「よし、来い!」


 敬は置いたアメから少し離れ、天子が来るのを待つ。

 一方で、天子は電柱から敬を覗き見ながら思った。


(こ、これ、どう反応するのが正解なんですか!? )


 天子は脳内でプチパニックを起こしていた。

 天子にとって敬は初めての友達。そんな友達に対しては、反応してあげたい。


 とはいえ、同じクラスになって以来、敬に話しかける機会を伺ってずっと観察していた時に、天子が出した結論が「何この人、全然わかんない!」である。 


 どうわからないかは今更語るべくもないだろう。

 陰キャコミュ障なだけの普通の女の子である天子には、敬の思考回路など到底わかり得ない。

 しかし、天子がなんとかアクションを起こそうとする。なぜなら、友達だから。


「い、行かなきゃ、犬甘さんが変になっちゃう」


 天子は目をグルグルとさせながら、変な使命感を宿した。

 もうすでに手遅れなほど敬は変であるが、今の天子には知る由もなし。


(が、頑張れ、私ぃ......!) 


 天子は震える手を電柱に触れさせ、体を電柱の横へと出していく。

 しかし、あまりにも特殊な状況故に、中々足が前に進まない。


「だ、大丈夫......あ、挨拶するだけ.......」


 天子が自分の逃げ出そうとする気持ちをなんとか抑えつつ、自分を鼓舞しながら、一歩一歩ゆっくり足を前に出した。


 その姿は、はからずも餌に釣られた野兎が警戒しながら進むような姿になっていた。

 そして進む間に、天子の耳は敏感に周囲の声をキャッチする。


「ほほほ、若いわねぇ~」


 たまたま近くを通り過ぎていくおばあさんが二人を見てほほ笑む。

 そのおばあさんの様子と声を聞いてしまった天子は、使命感をあっという間に羞恥心が上回りる。

 それこそ、敬の世間体などもはやどうでもいいとばかりに。


「もう無理ですぅ~~~~~!」


 天子はゆでだこのように顔を真っ赤にし、脱兎のごとくこの場から走り出した。

 そして、意外にも素早い走りでもって、敬の横を通り過ぎていく。


「あ、行っちゃった.......」


 そんな天子を、敬は唖然とした様子で見送った。

 その気分はさながらあと一歩で猫を撫でれるというタイミングで、猫が動き出してしまったような悲しさ。


 そして、敬は肩を落としながら、「学校行こう」と独り言ち、動き出すのであった。

 ちなみに、道路に置いたアメは敬が責任もって食べた。


*****


 敬が学校にやってきて、HR前の登校時間。

 既に賑やかな教室には続々と生徒達がやってきて、敬も流れで教室に入る。

 そして、小学生男子のように大きな声で挨拶した。


「おっはよーございます!」


 瞬間、一瞬にして静まり返る教室。

 生徒達は細目をして敬を見やり、やがて一時停止した話に戻っていく。

 冷えた温度はすぐさま暖かさを取り戻し、教室は再びガヤガヤとうるさくなった。


「相変わらず、バカでかい声で挨拶するよな」


 敬が自分の席に移動しようとした時、悠馬が自分の机でぐでぇっとダラけながら言った。

 眠そうにあくびをする悠馬を見て、敬は言い返す。


「元気が取り得だからな。

 それはそうと、そっちこそその見てくれでしっかり登校するよな。完全見た目不良のくせに。

 なんだ? ヤンキーが子猫を拾うようなギャップ萌え作戦か? 腹立たしい。シネッ!」


「勝手にヒートアップして、勝手にキレんなよ。

 あと、お前の場合、表情が変わらないから声だけ怒ってて気持ち悪いんだよ」


 悠馬は敬の言葉にかったるそうにツッコみを入れつつ、体を起こし頬杖を突く体勢へ変える。

 そして、とある方向にいる女子グループを見ながら言った。


「めんどくせぇ幼馴染が余計なお世話を焼いてくるだけだよ」


「お、幼馴染......だと!?」


「何初めて聞いたみたいな顔してんだよ。何度か言ったことあるだろ」


「ってことはアレか!? 朝、寝ている所に幼馴染がやってきて『もう寝坊助、早く起きてよね。言っておくけど、あんたのお母さんに頼まれて仕方なくだから! 勘違いしないでよね!』的なイベントが、日常が行われてるということか!? 私で童貞を捨てたくせに! 羨ま死ね!」


「おい、お前! 誤解を招くようなことを言うんじゃねぇ!

 お前で捨ててねぇし、後ど、童貞ちゃうわ!

 そっちこそ妹に起こしてもらったり、仕舞には一緒に寝てたりするんじゃねぇか!?」


 激しく動揺を見せた悠馬は、反撃とばかりに敬に言い返す。

 が、それに対し敬は両手を使ってアルカイックスマイルを浮かべ――


「........よし、楽しく会話で来たな」


「え......おい、嘘だろ……ちょ、何か言えって.......おい!」


 震えた声を出し、小刻みに震えた人差し指を向ける悠馬の追及を無視しつつ、敬は自分の席に戻った。


 そして両膝を机につけ、両手を組んで、悪の組織の親玉のようなポーズを取れば、今後のことに対して考え始める。


(さて、まず大撫さんからのアクションだが......今のところなし)


 敬がチラッと斜め前を確認すれば、敬の席がある最窓側から隣の列の前側の席に(名前順に並んでいるため)、本を読んでいる天子の姿があった。


(ん? ページが動いていない?)


 天子の後ろ姿を見ながら、敬は首を傾げる。

 というのも、敬は天子が本の虫ということを知っている。


 確かめた訳では無いが、常に手元に本を持ち歩いている時点でそうと考えられる。

 であれば、読むことに慣れた天子なら速読のはずだ。


 しかし、敬が先程から眺めても、天子の本が動く様子はない。

 しきりに一枚のページをペラペラと動かし、読んでる風を装っている。


 その様子に敬が不思議がっていると、肩越しに振り向いた天子のバチッと目が合い、瞬間天子の目線が外れる。


(なるほど、今の大撫さんはハンターだったわけか)


 天子の挙動不審な様子に、敬は一人納得したように頷く。

 どうやら今の天子は敬に挨拶するタイミングを見計らっているようだ。

 その姿はさながら獲物が油断するタイミングをじっと草陰から狙い定めるライオンの如く。


 そんな努力を伺えるような姿勢に、敬は腕を組み、満足そうに頷いた。

 そして視線を外せば、今度は周囲の女子生徒を、ぐるりと目だけ動かして見る。


(今の大撫さんに話しかけやすい女子は誰だろうか)


 敬が考えているのは、天子が次のステップに上がった時のイベントである。

 つまりは、敬以外の女子友達作り。


 そのきっかけをどう作るかを考えているのだ。

 過保護かもしれないが、現状これが一番の近道だと敬は確信している。


 というのも、天子が対人関係を苦手としているのは、火を見るよりも明らかだからだ。

 友達になった敬に対しても、未だ人目を気にして気軽に挨拶ができない。

 また、しゃべり方のたどたどしい様子からも、天子のコミュ障はよくわかる。


 もちろん、何らかの影響で天子の行動力が想像以上に成長すれば、天子自身に友達作りを任せて、敬が後方見守り隊になることはできる。


 しかし、恐らくその可能性は低い以上、敬が動くしかないのだ。

 人間、そう簡単に性格は変わらない。

 やる気スイッチがあれば別だが、アレはアレで逆に怖いだろう。


(さーて、よさげな子はいるかな)


 敬から見て、黒板側の教卓近くにいる女子生徒二人。

 あの二人は敬の記憶が正しければ、同じ部活の友達同士のはずだ。

 であれば、コミュニティに属さない天子には少し厳しいかもしれない。


 敬から見て、廊下側にいる女子三人組。

 先程の部活組と比べれば、見た目からしても天子に近しい印象だ。

 であれば、天子にとっても話しかけやすい相手ではある。

 しかし、敬は難色を示した。


(同じタイプと交友を深めるのはいい。しかし、どうせゼロから友達を作るなら、視野を広げる意味でも、全く別ジャンルの女子の方がいい)


 これはあくまで敬の希望だ。高望みしている節はある。

 なので、探してみていなければ、例の三人組に紹介してみるのもアリ。

 そう思いながら、敬はさらに視線を移動させていく。

 そして、いくつかある女子グループの中でとりわけ目立つグループに目を止めた。


「なぁ、見てこれ! この小ささ超可愛くない!?」


「相変わらず小さいの好きだよね~」


「それじゃあ、アリも好き?」


「おい、アタシの守備範囲は小さければなんでもいいわけじゃないぞ。それが許されるのはロリだけだ」


 話しているのは三人の女子。

 端的に特徴を述べるなら、金髪ギャル、ピンク髪ギャル、銀髪ギャルの三人。

 そう、ザ・陽キャのギャルグループである。


「......ほう」


 敬は興味深そうに、顎に手を付けた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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