表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/47

クエスト6 天子とデイリーミッション#2

 デイリーミッション......ソーシャルゲームでよくあるものだ。

 ゲーム内に設定された小さな課題をクリアし、お目当ての報酬を貰う。

 その目的はそのゲームを継続的に続けてもらう事。


 それを今回の目的で言えば、天子の自信を取り戻すことが目的でやる。

 それが敬の考えた作戦である。

 そして、提案に説得力を持たせるように、敬はしゃべり始めた。


「大きな目標を掲げることはいい。

 そこへ目指したいという気持ちは大切にすべきだ。

 しかし、上ばかり見てはいささか首を痛めてしまう。

 そして、首が痛くなったら上を見るのが辛くなってしまう」


 例えば、走るのが苦手な人にフルマラソンを走らせようとするとしよう。

 体力をつけるには当然走るのが一番の近道だ。

 だからといって、漠然と走って体力をつけようとするのは違う。


 体力をつけるという目的自体は達成されるだろう。

 しかし、その人はもとももと走るのが苦手であって、自分が決めたことならまだしも、誰かに矯正されてやることは酷く苦痛だ。


 そうなれば、その人はただでさえ嫌いな走ることが、さらに嫌いになってしまう。

 最終的にフルマラソンを走ってもらうというのに、その前に全てが破綻する。

 それは絶対に避けなければいけないことだ。


 今回の場合、天子に関して避けるべきことは、人と関わるのを放棄してしまうこと。

 つまり、天子が掲げた「友達作り」という目標を取り下げさせることだけは、敬が絶対にはやってはいけないことだ。


「だから、まずは目線より少し上を見る。

 つまりは小さな目標を立てる。それがデイリーミッションだ」


 先程の例を活用するなら、小さな目標は走ることに対する苦手意識を薄めること。

 走ることが苦しいばかりじゃない。

 変わりゆく景色を見るという楽しみもあると教えてあげる。


 そこから、少しでも走る日を続けさせる。

 毎日朝にランニングをすることを小さな目標にしていたが、それが苦手ならジョギング、果てはウォーキングとレベルを下げてでも続けてもらう。


 とにかく、重要なのは嫌になってもらわないようにすること。

 並びに、設定した小さな目標を達成できるように、進んでいることを実感させること。


(無茶すると昔の僕みたいに盛大に事故るからな)


 というのも、中学生の頃、敬はとある理由で今のようなテンションバカにイメチェンしようとした。

 しかし、それまでにクラスメイトに抱かれていた印象は大人しく無口というもの。


 そこから、突然教室で大声を出すようなタイプに転換したのだ。

 結果、クラスメイトはドン引きし、教室に地獄のような空気を作り出した。


(僕だから良かったけど、あの空気はさすがに大撫さんには酷だろう)


 敬は自分の黒歴史を思い出し、精神的ダメージを負った。脳内では絶賛吐血中である。

 しかし、持ち味の無表情でそれをおくびも出さずに、作戦の具体的な内容を天子に説明し始める。


「そこで僕は大撫さんにやってもらいたい三つのデイリーミッションを持ってきた。

 三つも? って思うかもしれないけど、そこまで大変じゃないと思うから聞いてくれ」


 そして、敬は天子用に作ってきたデイリーミッションを伝えた。


 1つ、敬に挨拶をする。

 朝にしてもらうのがベストだが、とりあえず最初は時間指定は無しにした。

 つまり、敬とこうして図書室で会うまでに挨拶してくれば、ミッションクリア。


 ただし、直接に限るという縛りだけは設けた。

 なぜなら、この目的は天子から人に話しかける勇気をもってもらうことだからだ。


 2つ、ゲームをする。

 ゲームと言っても、ただ三枚のトランプのカードからジョーカーを引いてもらうだけだ。

 敬が負ければ飲み物を一つ奢る。引き分けはなし。

 天子が負ければアメを一つもらう。


 アメに関しては後に説明する。

 そして、この目的はゲームをやって敬と天子の親睦を深める。それだけ。


 3つ、天子が頑張れたことを話す。

 話すことはなんでもいい。

 例えば、自分の机をキレイにしたとかそんな些細なことでも。


 この目的は天子が少しでも流暢に話せるための練習である。

 また、自分のやれたことを言葉にして自己肯定感を高める目的も含む。


 以上が、敬が天子にクリアしてもらう三つのこと。

 それこそ誰にでも出来そうな簡単なミッションである。

 敬は内容紹介の際に挙げた人差し指、中指、薬指の三本の指を見せたまま、言葉を続ける。


「この三つをデイリーミッションとして大撫さんに頑張ってもらいたい。

 そして、これがクリアできた暁には報酬としてアメちゃんを進呈しよう。

 あ、ちなみに、眠たい時に授業中にこっそり食ってるのは内緒ね」


 アメはゲームで例えるなら、報酬みたいな立ち位置だ。

 なぜアメなのかというと、あまり豪華だと天子が遠慮して受け取ってもらえない可能性があるからだ。

 また、敬の懐事情も兼ねていたりする。


 とはいえ、報酬がただアメだけというのはなんとも味気ない気がするだろう。

 故に、敬が用意している報酬はそれだけじゃない。


「ちなみに、ログインボーナスならぬ継続ボーナスも用意している。

 そうだな......初日、5日、10日、20日、30日とこんな具合で継続できたら僕から報酬を用意しよう。

 僕のできる範囲で大撫さんの頼みを何でも聞こう。うん、それでいいかな」


 敬は腕を組み、パッと頭に思い浮かんだことを言葉にする。


「あ、あの.......」


 すると、天子が何かを言いたげな顔でチラチラと敬を見た。


「ん?」


「そ、それだと、犬甘さんの負担が、大きくないですか? そ、その、お金の意味で......」


 敬の懐事情を心配したのか、天子は眉を下げて申し訳なさそうに言った。

 天子もこれが自分のためと理解している。


 しかし、塵も積もれば山となる。

 小さな出費も、気が付けば大きな出費になっている......なんとも恐ろしい話だ。


 一方で、敬も天子の言葉は理解している。しているが――


(まぁ、それはそうだけど......けどまぁ、別にそれぐらいならどうにでもなるだろ。

 それよりも、僕は大撫さんの頑張りを応援したい。うん、その気持ちの方が大きいかな)


 その気持ちが大きいので問題なし。

 この出費は言うなれば、配信者に対するスパチャのようなものである。

 お金を投げることで得られる幸福がある。これはそういう類の話だ。


「ふっ、ならば、この僕を金欠にするぐらい頑張ってくれ。

 それが出来た日には大撫さんは立派な勇者になっているだろう」


「.......わ、わかりました。い、犬甘さんがそうでいいなら.......私は構いません」


 天子は両手に小さな拳を作り、やる気を漲らせたような力強い瞳を作った。

 その瞳で敬を見ようとして......逸らした。


(今、頑張って目線を合わせようとしたが無理だったみたいだな。

 また頑張ってリトライしてみてくれ.......ん?)


 敬は組んでいた腕の一本を上げ、顎を触った。

 敬が考えた作戦の名前が「デイリーミッション作戦」であり、先ほどパッと思いついてログインボーナスモドキを追加した。


 つまり、これまで天子の目標までのプロセスを、ゲームっぽく表現しているわけであるが、だとすればもう一つ大事な要素を忘れている気がする。

 敬は顎から手を離し、人差し指だけ立てると、思い付いたことを伝えた。


「あ、そうそう、今パッと思いついたんだけど、実績を作ってみない?

 まぁ、この場合実績というより目標の中の目標ってやつかな。

 もっと簡単に言えば、やりたいことリスト」


 敬の言葉に天子は首を傾げた。


「や、やりたいことリスト......?」


「ピンと来てない? 例えば、朝笑顔で挨拶するだったり、友達を3人作るだったり、自分が達成したい目標をリスト化するんだよ。

 それがやりたいことリスト。達成度合いによって僕から報酬を出そう」


 敬は椅子の横に置いてあるスクールバッグから一冊のノートと筆箱を取り出した。

 そのノートの後ろの白紙ページの方から一枚破り、その紙の太い枠に「やりたいことリスト」と書いて、天子の目の前にボールペンとともに置いた。


「これに大撫さんのやりたいことをじゃんじゃん書こう。

 書くことはそれこそなんでもいい」


「やりたいこと.......」


 天子はボールペンを手にして、タイトルが書かれた紙をまじまじと見つめた。

 しかし、ペンは中々動かず、眉を寄せて、紙と睨めっこする時間が続いた。


 友達を作ってやりたいこと......些細なことも含めれば沢山あるはず。

 それこそ周りの生徒達を見て、友達になった際に遊ぶ妄想は沢山した。

 しかし、そのやりたいことをいざ書こうとなると、どうして中々思い浮かばない。


(あれ?.......こう考えると意外と友達欲してない?)


 そう思った天子は自分が掲げた目標に対し、懐疑的になり始めた。

 考えてみれば、「友達になりたい」と衝動的に思ったのは敬に対してだけ。


 それに最初からあんなあっさり友達になれると思っていなかったため、「友達作り」という工程を通して友達になれればと天子は考えていた。


「.......」


 天子はチラッと敬の様子を見る。

 相変わらず何を考えているか全然わからない顔をしている。

 しかし、人の好さそうなオーラを発している.......気がする。


「あ、あの.......」


「ん? なんだい?」


「その、本当になんでも書いていいんでしょうか?」


「もちろん! それこそ友達であるこの僕とやりたいことでもいいさ!」


 天子の言葉に、敬は胸に手を当て、さらに胸張って答えた。

 その自信は一体どこから出てくるのか、それは敬にしかわからない。

 されど、その根拠のなさそうな自信は天子に勇気を与えた。


(犬甘さんが協力してくれるなら......頑張ってみようかな)


 そう思った天子は紙を見つめたまま、頬を緩めた。

 そして、思い付く限りのことを頭に思い浮かべ、紙にペンを走らせた。


―――やりたいことリスト―――


・友達を五人以上作る。

・友達と遊びに行く(本屋以外)

・友達と休み時間や昼休みにおしゃべりする。

・友達と本について語り合る。

・友達と一緒に何かを作る。

・友達と通話する。

・自分の家に友達を呼ぶ

・友達と外食する。

・誰かの力になる。

・友達にプレゼントする。


―――


「と、とりあえず、思い付いたのはこんな感じです......」


「いいじゃん。どれも素晴らしい目標だ」


 敬は腕を組み、感心するように頷いた。

 天子の書いた目標はどれを見ても簡単に達成できそうなものばかりだ。


 しかし、それを指摘するのは野暮というもの。

 本人にとってそれがやりたいことなのであれば、それを応援するのがファン兼マネージャー兼仲間の務め。


「それじゃ、これらも目標の一つとしてデイリーミッションを頑張っていこう。

 もちろん、やりたいことリストに関しては、他にやりたいことが見つかれば、じゃんじゃん書いちゃっていいよ」


「わ、わかりました......達成できるように頑張ります!」


 天子は再び拳を作り、力強い瞳を敬に向けた。

 一瞬視線はよそに行きかけたが、それでも三秒ほど敬と目を合わせ、そして目を逸らした。


「........」


 天子の顔は頬から耳にかけて真っ赤であった。

 また、目の様子をデフォルメ表現するなら、恥ずかしさでグルグルと目を回している状態だ。

 ただでさえ小さな体が、恥ずかしさでさらに小さくなっている。

 そんな天子の様子を目の前で見ていた敬はというと――


(あれ......これ、俺の方が試練くね?)


 敬は脳内に、サイバイ〇ンに自爆されたヤ〇チャの如く倒れている自分を思い浮かべ、同時に今後の自分の未来に不安を感じた。


 これから敬は天子と本格的に関わっていくことになるわけだが、その度のこの小動物的な可愛さを直面することになると考えると体が持つかどうか。


 それこそカッチカチの表情筋がドロドロに溶け、上がりまくった口角が天井に突き刺さるかもしれない。

 それぐらいの可愛さを放っており、そのポテンシャルを天子自身は気づいていない。


(もしかすると、俺はとんでもない兵器を目覚めさせようとしているのでは?)


 言うなれば、可愛さテロ。

 天子は図らずもアイドル的存在になるのではなかろうか。

 そうなれば、もはや友達作りなど達成したも同然だが......。


(ま、そん時はそん時だな)


 表情におくびも出さずに気持ち悪いことを考えていた敬は、アイドル服を着た天子の未来像を想像し、そっと今の天子に対して両手を合わせて拝んだ。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


良かったらブックマーク、評価願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ