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小さな文学少女が友達を欲しがっていたので友達になって、ついでに自己肯定感やら友人関係を整えたら想像以上の勇者になった  作者: 夜月紅輝


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クエスト65 敵情視察#3

 幸音に対し、敬は率直にアンドリューの印象について尋ねた。

 とはいえ、今更キンタローから聞いた以上の情報が出てくるとは思っていない。


 故に、これから話すのは単なる期待である。

 運良くなんらかの情報が零れてくれば儲けもの程度であり、とはいえ扱いずらい爆弾類の内容は避けたいが。

 はてさて、一体なんの話が飛び出してくることやら。


「アンドリュー様の印象ですか。そうですね.....まず顔がものすごく美形です。

 ザ・外国人って感じで、されど濃すぎることはなく、もはや何年経っても映えるハリ〇ッドにも負けるとも劣らない顔立ちをしています」


「それは知ってる」


 もはや見ただけで男の俺からしても嫉妬するのが馬鹿らしく思えるほどイケメンだ。

 なんというか、超やばいメジャーリーガーを見てるような気分になるのだ。

 自分とは全く次元の存在であり、自分が二次元であれば、相手は三次元とか。


 そもそも、嫉妬とは身分不相応の望みを抱えるから生じる感情なのだ。

 しかしそれも、次元そのものが違うとなれば、もはや同じ常識ではない。

 故に、嫉妬も湧かない。湧きようもないと言うべきが正しいか。


「他には多くの言語を話せる点ですね。

 母国語は当然ながら、日本語、フランス語、ドイツ語、中国語などなど話せるみたいです。

 全部ではないようですが、一部の言語は読み書きも出来るみたいですよ」


「それ、どれだけの脳を持ってたらできるものなんですか?」


「さぁ」


 少なからず、一つの脳で処理できるスペックを超えてる気がする。

 そんな人間が居ていいのか......少なからず、脳が複数あると聞かされた方がまだ頷ける。

 それか、脳をスーパーコンピューターへと改造されたとか。


 ともかく、ここまでは普通だ。いや、もはや何が普通かわからないが、アンドリューが超人であるという点を踏まえれば、聞いた内容は敬が感じた印象とあまり変わりない。


 そうじゃなく、もうちょい人間味のある部分はなかろうか。

 ここまでのレベルだと、趣味がギャンブルと聞かされてようやく釣りあいが取れるレベルだ。

 もっとも、とてもギャンブルをやってるような感じには見えないが。


 それから、敬が幸音から話を聞くものの、目欲しい情報は何もなかった。

 強いて言うなら、ギャンブルはやったことあるらしいが、付き合い程度とのこと。


 その時のことを、本人は「大負けした」と笑って話していたらしい。

 自分の失敗談を、立場も考えず自分からひけらかすとは。

 いやはや、懐が広いというか、器か大きいというかなんというか。


「それじゃ、実はアンドリューさんが伝説の盗賊の子孫という胸熱展開はないということですね?」


「そんな面白い展開は私も聞きたいところですが、あいにく聞いたことないですね」


「なるほど。では、結局これまでの話で知れたことは、人生で恋人のいたことがない幸音さんがさもいたかのように、幻視した彼氏のことを話したという恐怖の事実だけってことかぁ」


「今すぐここで既成事実を作れば、彼氏がいた話になりますよ」


「それだけで自分の尊厳を売ろうとしないでください。こっちも対応に困りますから」


 幸音の瞬き一つすらしない視線、なんだか普通にやりかねない意思があって若干怖い。

 背筋にヒヤリと言い得ぬ恐怖を味わいながら、敬は収穫無しの事実にため息を吐いた。


 ぶっちゃけわかっていたはずなのに、それでも一部期待してしまった故の落差だ。

 なんせ、聞くという行動自体がその気持ちの表れなのだから。

 いくら「あまり期待していない」と保険をかけていても、多少は心に来る。


(なら、ここは一つ。話題を変えてみるか)


 そう内心で考えると、敬は少し下に向けていた視線を幸音に戻す。


「幸音さん、もう少し話せますか? 聞きたいことがあって」


「スカートの中ですか?」


「.....はい?」


 幸音から返って来た言葉に、敬の脳内が一瞬真っ白になる。

 同時に、「突然、何言ってんだコイツ」と失礼な言葉が流れてしまう。

 いや、そう思っても仕方ないと思って欲しい。

 どういう脈絡になればそういう返答になるのか。

 そんな思考停止中の敬に対し、幸音は小首を傾げ、


「どうされましたか?」


「いや、意味わかんねぇなと思って.....」


「そうでしょうか。先程、犬甘様はやたら視線を下に――スカートへ視線を向けてました。

 小鳥遊家のメイドの衣服は、ヴィクトリアンスタイルを少しクラシカルにしたもので、あいにく犬甘様のようなタイプが好まれる秋葉系メイド服とは違いますので」


「いやまぁ、そりゃ本職とコスプレじゃ違うでしょうよ。

そもそもあっちってコンセプトカフェみたいなものですし......って、そうじゃなくて!

 僕は、単に考え事をしていて、気づけば視線を下に向けていただけですよ」


「では、別にスカートの中が気になっていたわけではないと」


「そうなりますね」


「ちなみに、中はガーターベルトを装着していますが」


「後学のために見せてもらっても良いですか」


「――それが敬さんの後学になるのですか?」


「――っ!?」


 背後からの突然の声に、敬の背筋がピンと伸びる。

 さながら、母親に勉強をサボっていたことがバレた子供のように。

 そしてそのまま、油を刺し忘れた機械のようにギギギと振り返れば、


「......」


 チベットスナギツネのようなジト目をしてくる天子がいた。

 これまで見たことない表情をしてる。

 最近、表情豊かになって来たと思った中で一番の表情変化だ。


 とはいえ、これまでこんなセクハラまがいの行為は散々見てきたはずなのに。

 それこそ、本人にもしたはずなのに、その時以上に不快感を露わにしている。


「え、えーっと......ご機嫌麗しゅう?」


「敬さん、恐らく私のために動いてくれてることは嬉しいのですが、それはさすがに如何なものかと」


「いやいや、落ち着いてくれ。

 僕が変態なのは今に始まったことじゃないじゃないか!

 メイド服というもの奥深いもので、男の子たるもの気になるのは必然。

 特にこういう格言がある――『むしろ見えてないからこそエロい』と」


「てっきりどれだけ見苦しい言い訳をするのかと思っていましたが、ここまで清々しい開き直りとは。

 さすがお嬢様に気に入られたお方。お見逸れいたしました」


 むしろ胸を張って言い放つ敬の後ろでは、その堂々たる姿に幸音が脱帽の意を示すように頭を下げた。

 小さなチベットスナギツネ、開き直る変態、訳の分からない解釈をするメイドという三人の、それこそ三者三様の行動に生まれたカオス空間。


 そんな空間の中で、最初に空気を換気しようと動き出したのは、小さなチベットスナギツネであった。

 相変わらず何を考えているかわからない変態男に、彼女はため息を吐くと、


「それで、敬さんは幸音さんから何を聞こうとしていたのですか?」


 そう質問して、双眸を敬に向ける天子。

 急激にシリアスモードへの突入への予感がした敬は、傍らにいる幸音を一瞥し、


「宗次のことだよ。天子の言う通り、俺はしばらく前から情報収集をしててな。

 んで、さっきキンタローの許嫁相手のアンドリューの話を聞いたんだが、これがまだ人外で」


「確かに、アンドリュー様はスペックが常人の域を超えている......天が二物も三物もそれ以上も与えた人物ですが、その言い方だと語弊しか生みませんよ?」


「つまり、恋のキューピッド作戦における有益な情報は何も無かったと」


「伝わってる......」


 敬と天子の日常的な会話、その淀みの無い内容に幸音が合間でツッコむ。

 そんな幸音の声を無視しながら、敬は話を続けた。


「そうだな、何もなかった。聞けば聞くほど、スペック云々とか玉の輿云々の話をすれば、アンドリューの方がいいじゃねぇかって思えてくるんだ。

 むしろ、アンドリューがフリーになることが確定している今、誰かにツバつけられる前に捕まえておいた方がいいと思えるぐらい......どう、天子は立候補してみない?」


「――っ!」


 そう敬が提案した瞬間、天子が露骨に眉をひそめた。

 明らかな「どうしてそんなことを言い出すのか」という不快感だ。

 それこそ、先ほどの冗談よりも感触が悪い。


 わかりやすく地雷を踏んだ、そんな印象を受ける天子の表情に敬は困惑する。

 もちろん、筋肉を失ったような顔にその感情を表す表情は現れない。

 その代わり、心の方は思ったよりも動揺した。


(あっれ~、なんか不味いこと言ったか......?)


 敬からすれば、先ほどの幸音との茶番のようなものだ。

 天子ともしている日常的な会話の中に含まれる一種のスパイス。

 もちろん、全く意図して言ったわけではないとは断言できないが。

 とはいえ、ここまで不快感を表されるのは初めてなの事で、


「......えーっと、天子? その、どうしたの?」


「え.....ハッ、すみません。もうダメですよ、あまり他の人を巻き込んでは。

 私は慣れてきたから大丈夫ですけど」


 とても大丈夫な表情には見えなかったが、そのことに本人は気づいてないようだ。

 だとすれば、今のは天子本人すらも気づいていない感情の発露ということになる。


 それはどういう全長を示しているのか。

 最近の天子の爆発的な成長を考えれば、もはや嫌な佳代間しかしないが。

 ともあれ、この場でそれ以上のことを考えても難しいだろう。

 だから、今は何事も無かったように話を進めるべきだ。


「......ともかく、結論としてはアンドリューの方からは何もできない。

 しっかりとキンタローに矢印が向いているのを確かめられただけだ。

 だから、ここからは宗次の方で何とかしていくしかない」


「では、これから宗次さんの方から話を聞くというわけですか?」


「そうだね、もっとも本人から直接聞くのは幸音さんの後になるかもだけど」


「であれば、私の方から宗次さんと話をしてきましょうか?」


 天子からの突然の質問に、敬は大きく目を開く。

 一瞬の瞠目、しかしそれもすぐに収まると、敬は口を開き、


「......それまたどうして急に? こういっちゃなんだけど、いつもより積極的じゃん」


「そうですね、行動力が増したと言いたいですが、多分違うんだと思います。

 もちろん、百合さんから直接頼まれた依頼を果たそうと思っているのもあるのですが、これを通じて自分の中にある何かに気づけるかもしれないと思ったからです」


「その、何かってのは?」


「私の中にもともとあったものなのか、生じたものなのかわからない何かとしか。

 すみません、今はまだ正しい言語化が出来ないみたいです」


 「正しい言語化が出来ていない」――その言葉が敬の心を酷くザワつかせた。

 形容し難い感情のさざめきが、心の中を支配し始める。

 それは「拒絶」と言い換えても申し分ないほどで、だからこそ――


「それはムリして考えなくてもいいんじゃない?

 ほら、ド忘れって大概どうでもいいことだって話があるじゃん?

 それと同じで、言語化しにくいってことは言葉にするほどでもない――」


「それでも、私は言葉にしたいと考えています。

 重要ではないかもしれませんが、そうじゃないかもしれない。

 漠然とわかるんです。この感覚は大切にした方がいいと」


「......そうか」


「それに、私が宗次さんと話に行く理由もちゃんとあります。

 敬さんが話に行くよりも私の方が話に行った方が怪しまれにくいと思いまして」


 確かに、天子と宗次の関係性は一般的な友達関係からすれば、短い領域だろう。

 だとすれば、相手のことを知らない天子が友達を知ろうと動くのも自然なことで。


「敬さんの場合、宗次さんとそういった話になった際、邪推される可能性があるじゃないですか。

 こう、突然突拍子もない話をするのが敬さんですし」


「それは否定できない......」


「だから、私の方が適任だと思うんです。

 関係値が薄いからこそ、聞き出せる話.....まぁ、踏み込みずらい内容ではありますが」


 そう苦笑いを浮かべながらも、天子は決して引くつもりのない意思を見せている。

 それは態度からも、表情からも、目からもハッキリしていることで。

 こうなった天子は、もはや巨岩のように意思が固い。

 そのことに、敬はなんとも言い難いため息を吐くと、


「わかった。それじゃ、宗次から話を聞くのは任せるよ。

 集合タイミングは、そうだな......幸音さん、バイト中の僕達がフラフラしてるのはあまりよくないんで、折を見て集めてもらっていいですか?」


「わかりました」


「話が終わった後は何を?」


「そのまま持ち場の掃除をしてもらえばいいよ。

 それがなければ、他のメイドさんとかの手伝いとかね。

 イレギュラーで仕事を増やしてるけど、別の仕事もしないとね」


「そうですね」


 そして、敬との会話が終わると、天子はペコリと頭を下げて踵を返した。

 ただでさえ小さい体が、さらに小さく映るほど天子を敬は見つめると、


「嫌な方向に成長してるな」


 そう、誰にも聞こえない小ささで呟いた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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